日医ニュース
日医ニュース目次 第1297号(平成27年9月20日)

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勤務医座談会(第1回)7月8日開催
「地域医師会を中心とした勤務医の参画と活躍の場の整備」をテーマに

 日医の勤務医委員会では、7月8日、「地域医師会を中心とした勤務医の参画と活躍の場の整備─その推進のために日本医師会が担う役割─」をテーマに座談会を開催した。今後、3回にわたって掲載する。

前列左から、齊藤、笠井、泉、川村
 後列左から、佐々木、鄭、幸原の各氏

 泉(司会) 本日は、ぜひ楽しい座談会にして頂ければと思います。
 笠井 本日は、皆さんの忌憚(きたん)のないご意見をお聞かせ下さい。
  「勤務医と地域医療連携のあり方」についてご発言ください。
 川村 北海道は病院、診療所などのシステムが非常に整った地域と、過疎になっている地域が存在しています。ですから、北海道では、地区・地域の連携に加え、それを旭川や札幌などの都市につないでいくという形で、完成させていかなければいけません。
 また、全体で利用できるような効率的な連携のシステム化を進めていく必要もあります。同時に、医師数が減っていますので、それぞれの地域に合った役割分担をどうやってつくっていくかということが難しくなってきています。
 このような地域連携においては、勤務医、開業医を問わず、医師会に一つの母体になってもらうのですが、ここにはほとんどの勤務医が積極的に関わりつつあるというのが今の状況です。
 幸原 勤務医が診察室の中で忘れてはいけないことは、地域の中の患者循環です。本日の議論のテーマの一つに「過重労働」がありますが、患者の循環が円滑にいくと案外うまくいくというのが私の結論です。
 今日来られた患者さんをいかに診察するかということだけ考えていますと、患者循環に目が行かない。実はこれを並行して考えるというところが一番のポイントで、これが地域連携の基礎ではないかと思います。
 昨今もう一つの問題として、「地域包括ケア」があります。これも単純に診療しているだけではなく、患者循環プラス情報循環ということを全体で考えていくことが、地方でも都会でも求められていると思います。
 齊藤 大学の立場からの課題としては、医師の偏在を解消することができるような教育が若いうちから可能かということです。あとは患者さんの偏在と言いますか、どのように機能分化をさせて適切に移動させるかということ、その二つが課題だと思います。
 学生の教育に関しては、地方にある附属病院に若い医師を派遣しようとしても、なかなか行ってくれないというようなことがあります。また、医師会はどういう活動をしているのか、地域の医療はどういうものかということを、大学の講義の中に少し入れるというようなことがあってもいいと思います。
 病診連携に関しては、処方の大半を院外処方にしている病院が、大学病院のような大規模病院には非常に多いです。ただ、がんを診る立場としては、抗がん剤を外で出すということに不安があります。外に出すと外の人に情報を提供しなければいけない。あるいは、外からもらわなければいけないということが生じます。
 がんのように非常に専門性が高い分野の連携をどのように進めていくかという時に、医師だけではなく薬剤師同士の情報提供書を普及させようという試みが始まっています。医師の間だけではなく、メディカルスタッフ全体を考えた連携も役に立つと思っています。
 佐々木 私の病院は、沿線各駅に泌尿器科の開業医がいるので、病院では手術をするだけです。
 また、抗がん剤でがんが落ち着いている場合には、術後も含めて、全て病院外の先生にお願いしています。役割分担をしっかりして、状態が落ち着いた患者さんは診療所にお願いするように若い医師にも教育しています。
 病診連携や病病連携を推進することによって、勤務医の勤務環境も改善していくと思います。
  勤務医と地域医療連携の在り方は本当に構造的に変わってきていると思っています。それは端的に言うと高齢化だと思います。
 病院に来るきっかけは感染症であったり、脳梗塞であったりで、それを治療して落ち着いたとしても、その後家に帰るという段になると、生活支援という要素も入れないと、なかなか帰れません。そこで地域医療連携が非常に重要になっていて、皆がそこを考えないと仕事が回らないだろうという認識が、科内では大体共有されつつあります。
 高齢の方の場合は、在宅医療を導入するのであれば、退院前カンファレンスなどを開くことになります。カンファレンスにはその地域で紹介するかも知れない在宅医に来てもらい、ミーティングをするということで、日常業務に地域医療連携が否応なく入ってきているということです。
 急性期の病院でお年寄りをたくさん診ていると、地域医療連携をしないと自分たちが大変なのではないかという危機感が出てきているのではないかと思います。
 幸原 例えば、患者さんの紹介・逆紹介の調整を行う際に、かかりつけ医に病院への不満があったとしても、病院の中にいればそうした声は全く聞こえてきません。またこの逆も少なからずあります。
 日頃の小さな問題点の解決が、患者循環には非常に重要です。現場ごとに言い分があるので、ここをうまく調整できればいいと考えています。
 佐々木 高齢者ですと泌尿器以外にも循環器とか消化器とか、いろいろな併存疾患があります。そこを泌尿器科の開業医が診てくれるかというと難しい部分があります。
 私が思うに、地域連携はそれぞれの科ごとではなくて、全ての科の先生たちがその地区の患者さんを皆で診るという考え方にならないと、うまくいかないと思います。
 大学病院と診療所等が役割分担する中で、循環器の病気がある患者さんだったら、専門性をもった循環器科の診療所に行ってもらい、泌尿器の病気は泌尿器科の診療所に行ってもらうという形で、その地域で全科の先生達が一緒になって、1人の患者さんを診るという形になっていくのが、本来の地域連携だと思います。
  これからの地域医療連携を考える際に、患者さんの具体的なイメージを想像した時、虚弱高齢者が増えるということになると、あちこち移動するのは大変なのではないかと思うのです。
 つまり、病状や疾病に応じていろいろな診療所に通うのはなかなか大変だと思うので、時々そういう所に行って治療方針に関する更新や調整などはするにしても、普段病状が安定している時には、その人をトータルで診る。それこそかかりつけの先生にコアでいてもらった方がいいのではないか。そういう役割があった方がいいのではないかと思います。
 齊藤 複数の診療所にかかっている人もいますが、疾患の重み付けと頻度は違っていて、内科の先生が中心になって頂けるとよいと思っています。眼科にも皮膚科にもかかっているみたいなことがあったとしても、基礎疾患というか慢性疾患でお世話になっている先生がやはりかかりつけ医であり、その先生に我々のお薬をお願いすることが結構あります。
 たくさんの情報を1人の先生がアップデートしながら正確に把握するということはとても大変です。私は全ての情報を知っているべきなのは患者さん自身だと思うのです。患者さん自身が自己管理能力を高めることで、医師の負担はかなり減ると思います。
 佐々木 地域連携で泌尿器科以外の患者さんの情報をやりとりする時に、患者さんは皆お薬手帳を持っていますので、例えば、「循環器はここで、消化器はそこにかかっています」ということを、逆紹介した診療所の先生が把握できるようにしていると、患者さんには説明しています。泌尿器科、循環器科、消化器科それぞれの先生方の診診連携がうまくいかないと、地域で全体を診るということはうまくいかないと思います。

勤務医座談会出席者

泉  良平【司会】(日医勤務医委員会委員長・富山県医師会副会長)
川村 光弘(市立稚内病院副院長)
幸原 晴彦(大阪南医療センター第3内科医長)
齊藤 光江(順天堂大学医学部乳腺・内分泌外科教授)
佐々木春明(昭和大学藤が丘病院副院長)
鄭  東孝(東京医療センター総合内科医長)
笠井 夫(日医常任理事)

(敬称略)

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