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【一般の部】<厚生労働大臣賞>
「三度目の手紙」


永倉 文子(栃木県)

 拝啓 ドナーさま。長らくご無沙汰しておりますが、お元気でお過ごしのことと存じます。

 あなたに2度目の手紙を差し上げてから、早いもので5回目の10月を迎えようとしています。あの頃は5年後の自分の姿など、想像すら出来ませんでした。大病した事が何かの間違いだったのではと、家族にからかわれるほど、今私はとても元気です。

 骨髄バンクでは、プライバシーを守る観点から、ドナーさんと患者お互いの名前や住所は非公開で、私のドナーさんは遺伝子の型がほぼ適合した若い女性としか知らされませんでした。2度だけ私からあなたにお手紙が差し上げられるというルールでしたね。

 1度目のあなたへの手紙は“急性骨髄性白血病”と診断され、衝撃を受けたあの日から、骨髄移植までたどりつけた想(おも)いを書きました。

 自宅から車で1時間半の病院は、家族との隔たりを感じるのに十分な距離で、移植を翌日に控えた夜、ひとり無菌室の天井を見つめていると、発病からの出来事が脳裏を駆け巡りました。今同じ時間どこかの病院で、きっとドナーさんも病室の天井を見つめているだろうか。痛い思いはしていないだろうか。

 医師の告知を聞きながら、泣くつもりもないのに勝手に涙がこぼれ、ティッシュについた鼻血の赤が、これは紛れもない現実なんだよと語っていたこと。薬の影響で髪が抜け、看護師さんがバリカンで坊主頭にしてくれるのを、鏡越しに言葉もなくただ見続け、家族がショックを受けないよう携帯に「尼僧のようでなかなかでしょ?」とコメントを添えて写メを送ったこと。適合ドナーが見つからず病気と闘っている仲間に思いを馳(は)せて、かけがえのないご縁であなたと繋(つな)がれた私が、どんなに幸運か、改めて実感した夜でした。

 あなたから頂いたお手紙は、骨髄バンクを通じ主治医から手渡されましたが、ドナーさんから返信が届く例が少ないようで、同室の方たちから大変羨(うらや)ましがられたんですよ。

 2度目のお手紙では、退院後1年の私の暮らしをお知らせしました。

 10月は、夫と息子の誕生日、私ども夫婦の結婚30周年、娘の結婚式、そして10月28日は、あなたから命を分けて頂いた記念日です。血液型が私のBからあなたのO型へと変わり、私の人生で2度目の誕生日となりました。これらの嬉(うれ)しい日々は、あなたとの繋がり無くしては迎えられませんでした。

 そして今、お渡しすることのできない、3度目の手紙をしたためています。

 あなたはドナーを受けて下さった時から、移植日に合わせ仕事を休み、旅行なども控え、病気やけがをしないよう健康管理に最善を尽くして下さったそうですね。どこの誰とも分からない私のために。あなたと同世代であろう私の娘がドナーになると言ったら、私は賛成出来たでしょうか。あなたとご家族の崇高な生きざまに頭が下がる思いです。

 主治医から「ドナーさんとは、何代も何代も前の遠い昔、血縁関係にあったのですよ。遺伝子が適合するということは、その証しなんです。ロマンがあるでしょう!」と教えていただき、驚きと感動で胸が一杯になりました。

 私から差し上げた手紙に対し、あなたから頂いた2通のお手紙は、今私の宝物です。

 そこには『貴重な体験をさせていただき感謝します。お互い命の絆を強く想い、一日一日を大切に人生を楽しみましょう』『平成23年は大震災があり、命・家族・絆について、深く考えさせられました。貴女(あなた)とも、はるか昔に家族であったという話をお聞きし、強い絆を感じることができました』とありました。

 東日本大震災の日、私は外来受診後、夫の運転する車の中で地震に遭いました。これに伴う原発事故は深刻で、私と同じ病気の方が増えないことを切に祈りました。あなたと同じ思いを共有できていることが嬉しいです。

 この年にあなたもご結婚され、今後もドナー登録を続けていかれるとのこと。どんなにお礼の言葉を連ねても、感謝の気持ちが伝えきれません。叶うことならお会いして直接お礼が言いたいです。私のドナーさんは、最高の素敵(すてき)な女性に違いありませんからね。

 病を宣告され、なぜ私なの?と神様を恨みもし、スイッチを切り替えるように無かったことにしたかった。でも私はこの闘病生活から実に多くを学び、気づきました。

 いつも空気のようで、その存在を特に意識もしませんでしたが、一旦(いったん)危機に直面すると強く頼りになる家族の絆。心優しい友人たち。生涯ついて行こうと決めた信頼できる医師との出会い。そして私は多くの方たちと繋がって生かされていると教えてくれたドナーさんあなたに、心から感謝します。

 沢山(たくさん)の想いをしっかりと胸に受け止め、今度は私が誰かのお役に立てるよう、あなたから頂いた大切な時間を生きてまいります。

 私に奇跡が起きたように、あなたにも幸せが山ほど訪れますよう願っています。かしこ