国民のみなさまへ 健康に関する情報や日々のくらしに役立つ情報などを提供いたします。

イベント・その他
健康・医療
新規ウィンドウでリンクします。

禁煙推進活動(およびたばこ税)

禁煙推進委員会(プロジェクト)答申

平成17年12月
日本医師会

平成17年12月

日本医師会長
植 松 治 雄 殿

禁煙推進委員会(プロジェクト)
委員長 藤 森 宗 徳

禁煙推進委員会(プロジェクト)答申

 本委員会では、平成16年11月27日付をもって貴職より諮問のありました「未成年者の喫煙防止対策」について、鋭意検討をいたしました。
 本委員会の審議結果をとりまとめましたので、ここに答申いたします。

禁煙推進委員会(プロジェクト)
委 員 長 藤森 宗徳 千葉県医師会会長
副委員長 若林 明 大阪府医師会代議員会議長/「子どもに無煙環境を」推進協議会会長
委  員 上島 弘嗣 滋賀医科大学教授
大島  明 大阪府立成人病センター調査部長
小川 英治 日本小児科医会副会長
加藤 治文 東京医科大学教授
川端 正清 日本産婦人科医会常務理事
見城美枝子 青森大学教授
篠山 重威 浜松労災病院長
丸木 一成 読売新聞東京本社編集局生活情報部長
渡部 通子 「女性・こども・命・未来」を守る会事務局長
「未成年者の喫煙防止対策」 目 次

1.はじめに

2.日本における喫煙の現状

3.包括的取り組みの重要性

4.急ぐべき課題

  • (1)
    たばこ価格の引き上げの実現に向けての働きかけ
  • (2)
    自動販売機の撤廃に向けての強力な働きかけ
  • (3)
    禁煙治療の制度化に向けての働きかけ
  • (4)
    学校における喫煙防止教育の強化に向けての働きかけ
  • (5)
    胎児、乳児、幼児の受動喫煙防止と喫煙開始防止に向けての働きかけ

5.すでに一部実施されてはいるが、さらに強化を求めるべき課題

  • (1)
    学校の敷地内禁煙をはじめとする公共の場所における禁煙推進のための働きかけ
  • (2)
    たばこ広告規制の強化に向けての働きかけ
  • (3)
    たばこパッケージの警告表示の強化に向けての働きかけ

6.たばこ規制対策推進に向けての政府と関係組織団体との連携

1.はじめに

欧米先進国では、たばこ規制対策の推進に伴って、喫煙による死亡者数が減少しているのに対して、日本では、たばこ規制対策の取り組みの立ち遅れにより、喫煙による死亡者数はいまだに減少の兆しが見えていない。平成12年には、11.4万人もの多数が喫煙のため死亡したと推定されている。最新の日本における喫煙の実態調査によると、成人の喫煙率および未成年者の喫煙率は改善の傾向が認められるものの、国際的に見て依然として高い水準にある。

日本医師会は、平成15年3月に禁煙推進に関する日本医師会宣言(禁煙日医宣言)を採択するなど、禁煙推進に向けて様々な活動を行ってきた。特に、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)の採択、署名、批准と履行に向けて政府に対して再三の要請を行ってきた。

FCTCは、平成17年2月27日に発効し、平成17年12月2日現在の締約国は、日本を含めて114か国を数えている。この条約は、現在及び将来の世代をたばこ使用の害および、たばこ煙の曝露の害から守ることを目的としている。今後の課題は、FCTCに盛られたたばこ規制の各条項の誠実な履行である。

なかでも、喫煙開始年齢の若年化と未成年者における喫煙の流行は、日本の将来にとって大きな問題である。未成年からの喫煙の開始は、ニコチン依存症に陥りやすく、また、発育途上の未成年者に対する喫煙の害は、単に喫煙期間が長くなる以上に大きくなる。従って、早急に効果的な対策を講じる必要がある。

政府は、FCTCの署名、批准にあわせて、たばこ対策関係省庁連絡会議の設置を決定し、平成17年1月18日に第1回の会議を開催した。そして、「未成年者の喫煙率が依然として高率のまま推移している」ことから、たばこ対策関係省庁連絡会議の幹事会の下に「未成年者喫煙防止対策ワーキンググループ」(事務局は、警察庁生活安全局少年課少年保護対策室、及び財務省理財局総務課たばこ塩事業室の協力を得て、厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室が行う)を設置し、各省庁の密接な連携のもと、未成年者の喫煙防止対策を促進することとし、未成年者への喫煙防止教育、喫煙習慣者への禁煙指導、たばこの入手方法に応じた喫煙防止を課題として取り上げた。そして、本年6月の会議において中間取りまとめをする予定とされていたが、その取り組みの状況はいまだに公表されておらず、休眠状態にあるのではないかと推測する。このような状況を打開し、未成年者の喫煙防止のための効果的な取り組みを含め包括的なたばこ規制対策の推進に向け、喫煙率の現状を踏まえて、本委員会は以下の提言を行う。

2.日本における喫煙の現状

最新の日本における喫煙の実態調査(JT 2005年全国たばこ喫煙者率調査)によると、成人の喫煙率は、男性45.8%(前年に比し1.1%減)、女性13.8%(前年に比し0.6%増)である。年齢階級別に見ると、20歳代の男性では51.6%(1995年は64.7%、2000年は 60.9%)、20歳代の女性では20.9%(同23.3%、21.9%)であり、男性では20歳代を含む全年齢階級において減少傾向がはっきりと認められている。女性では、60歳代以上の高齢者を除いてむしろ増加傾向にあったが、最近5年間では20歳代における増加傾向も頭打ちになっている。

2004年の林・尾崎らによる未成年者の喫煙行動に関する調査(2004年度未成年者の喫煙および飲酒行動に関する全国調査)によると、毎日喫煙者(この30日間に毎日喫煙した者)の割合は、中学3年男子で2.2%(1996年の調査では4.6%、2000年の調査では5.2%)、同女子で1.2%(同1.0%、1.8%)、高校3年男子で13.0%(同25.4%、25.9%)、同女子で4.3%(同7.1%、8.2%)であった。月喫煙者(この30日間に1日でも喫煙した者)の割合は、中学3年男子で7.3%(同14.4%、14.0%)、同女子で4.8%(同5.5%、6.9%)、高校3年男子で21.7%(同36.9%、36.9%)、同女子で9.7%(同15.6%、15.8%)であった。これらの成績は、最近の未成年者における喫煙状況が改善しつつあることを示している。林・尾崎らはその要因について現在分析を進めつつあるが、2002年のたばこ価格の1箱20円の引き上げ、2003年施行の健康増進法第25条受動喫煙の防止による学校敷地内禁煙の推進、FCTCの採択・署名・批准に伴う、たばこ規制の国内外の動きに関する情報提供などが関連していると思われる。また、成人男性の喫煙率の半数割れ(2002年)、成人男女計の喫煙率の30%割れ(2004年)に伴って、社会環境の変化が未成年者にも影響していることが考えられる。

3.包括的取り組みの重要性

厚生省による平成10年度「喫煙と健康問題に関する実態調査」によると、喫煙者人口は3,363万人と推計され、このうちの推定ニコチン依存症患者は1,800万人(喫煙者の53.9%)で、現在喫煙者の26.7%は「やめたい」、37.5%は「本数を減らしたい」と回答している。また、現在喫煙者の54.7%が未成年のうちに喫煙を経験しており、41.5%が未成年のうちに喫煙が習慣化していることに注目する必要がある。

喫煙の開始、持続、そして禁煙は、社会環境によって強く影響を受けるものである。国際的に見ると、たばこ規制の取り組みは、未成年者に対する喫煙防止教育や喫煙者に対する禁煙治療のような個人の行動変容への働きかけにとどまらず、公共の政策によって実現する環境改善への働きかけへと移りつつある。

喫煙は、たばこ会社による広告・販売促進活動によって助長され、未成年者の間に始まる依存症であるととらえる必要がある。未成年者の喫煙を防止するためには、単に未成年者に喫煙防止を働きかけるだけでなく、喫煙するのが当たり前の社会から喫煙しないのが当たり前の社会へと、社会規範を変えていかなければならない。このためには、環境改善への働きかけを含む包括的な取り組みが必要である。この対策には、たばこ価格の引き上げ、公共の場所における禁煙、自動販売機の撤廃などの政策が含まれる。

4.急ぐべき課題

(1) たばこ価格の引き上げの実現に向けての働きかけ

たばこ価格の引き上げが、未成年者の喫煙防止に有効な対策であることに関しては多くの証拠がある。また、FCTCの第6条には「たばこの需要を減少させるための価格及び課税に関する措置」の規定がある。たばこ税・価格の引き上げが最も費用効果比の高い対策であり、日本のたばこ価格は先進国の中で非常に安い部類にあることを考えれば、たばこ価格の引き上げは早急に実現するべき対策である。

なお、これまでの欧米での経験ではたばこの増税は、たばこ税収の減少につながっていない。世界銀行の推計によると、日本のような高所得国ではたばこ価格が10%増加しても消費は4%減少するにすぎない。これは、所得レベルが高く価格の値上げだけでは影響を受けない人やニコチン依存症のためにやめられない人が存在するためである。日本のたばこ価格はまだまだ上げる余地があり、たばこ価格を1,000円に引き上げると税収は1兆円増加するという日本での調査結果もある。

外国におけるこれまでの調査によれば、青少年と低所得層が価格の引き上げには、より敏感である。これらのことは、たばこ価格の引き上げが、青少年および経済的弱者をたばこの害から守り、たばこ対策の財源の確保につながることを意味している。

平成17年5月31日に国民医療推進協議会に結集した日本医師会をはじめとする37団体は、たばこ価格の大幅な引き上げとこれによる税収増を国民の健康のための施策に充てるよう、政府に対して要望した。これに引き続き、たばこ価格の大幅な引き上げを実現するべく、政府、国会等に対して働きかけていくべきである。

(2) 自動販売機の撤廃に向けての強力な働きかけ

日本には約62万台のたばこ自動販売機があり、未成年者のたばこの主要な入手方法となっている。しかし、日本政府は、FCTC原案の自動販売機禁止との文言に抵抗し、修正を行った。その結果、FCTCの第16条「未成年者への及び未成年者による販売」には、「締約国は、国内法によって定める年齢又は十八歳未満の者に対するたばこ製品の販売を禁止するため、適当な段階の政府において効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を採択し及び実施する。これらの措置には、次のことを含めることができる。(a)たばこ製品のすべての販売者が未成年者に対するたばこの販売の禁止について明確な、かつ、目につきやすい表示を販売所の中に掲げること及び疑義のある場合にはたばこの購入者に対し成年に達していることを示す適当な証拠の提示を求めることを要求すること。(b、c略)(d)自国の管轄の下にあるたばこの自動販売機が未成年者によって利用されないこと及びそのような自動販売機によって未成年者に対するたばこ製品の販売が促進されないことを確保すること。」と規定されることとなった。そして、未成年者が自動販売機を利用できない方策として、財務省や日本たばこ協会では、現在、たばこカードと成人識別装置付き自動販売機の導入を計画しているが、その効果はない、あるとしても極めて小さいと考えられる。

警察庁では、「たとえ成人識別装置を設けている自動販売機であっても、対面による販売と同等以上の効果が期待できない。自動販売機については、その成人識別その他の装置の性能にかかわらず、将来的には、国民的な合意のもと、撤去されることが望ましい」との見解を示している。

たばこカードの導入と新機種の自動販売機への全面切り替えなどには800億から900億円の初期投資が必要とのことであるが、これらの投資は全くの無駄遣いとなる可能性が大きい。また、国際的に見てもこのような自動販売機を導入している国はなく、こうした手法を未成年者の喫煙防止策とすることはふさわしくない。未成年者の喫煙防止を効果的に図るため、たばこ自動販売機を撤廃し、厳格な年齢確認によるたばこの対面販売に限定するよう、政府に強く求めるべきである。

(3)禁煙治療の制度化に向けての働きかけ

今後、喫煙しないのが当たり前の社会規範が確立するのに伴って、禁煙したいと思う喫煙者が、容易に禁煙治療にアクセスできるような制度の実現も急がなければならない。禁煙治療の有効性は、成人喫煙者に対しては確立しているが、喫煙を始めて間がない未成年者に対しても認められている。

FCTC第14条「たばこへの依存及びたばこの使用の中止についてのたばこの需要の減少に関する措置」には、「締約国は、たばこの使用の中止及びたばこへの依存の適切な治療を促進するため、自国の事情及び優先事項を考慮に入れて科学的証拠及び最良の実例に基づく適当な、包括的及び総合的な指針を作成し及び普及させ、並びに効果的な措置をとる。」と規定されている。

米国では、米国厚生省公衆衛生サービス局により2000年に出版された、「たばこ使用とニコチン依存症のガイドライン」(AHRQ版、AHCPR版は1996年出版)を受けて、多くの保険者が何らかの禁煙治療サービスを保険償還の対象としている。

英国では、健康教育当局(HEA)の委託により「保健医療専門職に対する禁煙治療ガイドラインと費用効果」が1998年に作成され、これを受けて1999年度より、禁煙治療が国民保健サービス(NHS)のもとで公的サービスとして広く実施され成果をあげている。しかし残念ながら、平成17年11月現在日本では、医療の場における禁煙治療は保険医療の中にまだ組み込まれてはおらず、禁煙治療は私費で受けなければならない。

「やめたいのにやめられない」喫煙者に対する禁煙治療はニコチン(たばこ)依存症という病気に対する治療であり、しかもその有効性は確立している。喫煙は、肺がんをはじめとする多くのがん、虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患など多くの疾病の、予防しうる原因であって、禁煙治療は、虚血性心疾患・脳卒中予防における高血圧症、高脂血症、糖尿病などの治療と同列に扱うべきである。さらに、禁煙治療の効率は極めて高く、高血圧症や高脂血症に対する薬物治療よりもはるかに費用効果比が優れていることにも留意する必要がある。早急に禁煙治療を保険給付の対象とするよう、関係機関に働きかけるべきである。

(4)学校における喫煙防止教育の強化に向けての働きかけ

学校教育においては、未成年の段階から喫煙をしないという態度を育てることを目的として、保健体育など学校教育全体を通じて、喫煙防止に関する指導が行われている。学習指導要領等に基づき小学校「体育」、中学校、高等学校「保健体育」、および関連する教科において喫煙と健康との関わりについて指導している。

また、特別活動においても、健康の保持増進の観点から学級(ホームルーム)活動等において喫煙防止を取り上げることができるようにしており、道徳では、公徳心をもって社会秩序と規律を高めるよう指導することができるようにしている。文部科学省では、これまで教師用指導資料「喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引」(小学校編、中学校編、高等学校編)を作成・配布してきた。

このような学校における喫煙防止教育の強化のために、学校医、あるいは都道府県医師会学校医部会や日本学校保健会などの組織は、学校や文部科学省、教育委員会に対して、従前以上に協力をする必要がある。ただし、喫煙防止教育単独の長期間にわたる効果は必ずしも明らかでなく、学校への働きかけは、学校敷地内禁煙の実現や喫煙教師に対する禁煙治療などを含めた包括的な取り組みを行うべきである。

(5)胎児、乳児、幼児の受動喫煙防止と喫煙開始防止に向けての働きかけ

胎児、幼児、乳児に対する受動喫煙の害は明らかであり、特に妊婦の喫煙は、本人はもとより胎児に対しても深刻な影響を与える。このことについて社会一般の認識を深めるよう医師は率先して働きかけるべきである。

従って、医師と医療機関は、妊娠を契機に妊婦をはじめ周囲の成人に対して禁煙を励行するように支援する必要がある。さらに小児医療機関での家族への禁煙指導も極めて効果的である(パンフレットの配布、診療録や母子健康手帳への家族の喫煙歴の記載など)。

また、保育所、幼稚園など乳幼児を対象とした施設においても厳しい受動喫煙防止対策が必要である。「子どものそばでは必ず禁煙」、「子どもは歩く禁煙マーク」と認識すべきである。また、駅その他公共の場所における喫煙室、喫煙車両、喫煙席に「未成年者の入室禁止」を表示することは、子どもをたばこの害から守る上で大きな効果があると思われる。

同居家族に喫煙者がいる場合、子どもの喫煙率が高くなるというデータもある。従って、未成年者の喫煙を防止するためにも、子どもの周辺にいる成人が禁煙を励行するよう、働きかける必要がある。社会的にも家庭的にも優しい愛情のこもった無煙環境の実現が望まれる。

5.すでに一部実施されてはいるが、さらに強化を求めるべき課題

(1)学校の敷地内禁煙をはじめとする公共の場所における禁煙推進のための働きかけ

受動喫煙の防止については、平成8年の厚生省「公共の場所における分煙のあり方検討会報告書」で、病院、学校、役所は禁煙原則に立脚した対策が求められるとされていたが、平成15年5月から施行された健康増進法の第25条に「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用するものについて、受動喫煙を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない」として受動喫煙防止の規定が盛り込まれた。

残念ながら、罰則規定はなく施設管理者に対する努力義務規定でしかないが、世論の支持をバックに平成15年の施行以降、病院、学校、役所の受動喫煙防止の状況は大きく変わりつつある。しかし、飲食店における受動喫煙の防止が守られていない現状があり、今後さらに受動喫煙を防止するためにも、罰則規定を設けるなど、厳しくしていく必要がある。

文部科学省による平成17年度受動喫煙防止対策実施状況調査によると、学校敷地内全面禁煙措置を講じているのは、総数53,039の学校のうち24,082校、45.4%であった。学校での禁煙化が進んでいる学校ほど、生徒の喫煙率が低いことが英国の研究によって明らかになっており、喫煙防止のための環境整備として、まず敷地内禁煙実施校の割合をさらに高める必要がある。病院や学校、役所や公共施設での禁煙が実施されることにより、たばこは吸わないのが当たり前の社会へと社会規範が変わり、未成年者の喫煙防止につながる。また、医師は自らたばこ離れを励行し、医師会会館と病院・診療所の全館禁煙を率先垂範した上で、あらゆる機会を捉えて学校の敷地内禁煙と役所などの全館禁煙の実現を働きかけるべきである。

特に、学校医、都道府県医師会学校医部会や日本学校保健会などの組織は、個々の学校や文部科学省、都道府県・市町村の教育委員会に学校の敷地内禁煙の実施を強力に働きかけるべきである。

(2)たばこ広告規制の強化に向けての働きかけ

未成年者のたばこに関するイメージの多くは、たばこ会社の広告宣伝によって形成される。大半の喫煙者は、健康に関する「十分な情報に基づく選択」を下せないような低年齢で、喫煙を開始し、「十分な情報に基づく選択」が可能な年齢に達したころには、大半の喫煙者はたばこ依存症に陥っている。たばこ産業は、喫煙が男らしいとか、あるいは逆に女らしいとか、ロマンチックだとか格好いいとかのイメージ広告を用いて喫煙を広めてきた。喫煙は「コミュニケーションが引き起こす伝染病」といわれる所以である。

FCTC第13条「たばこの広告、販売促進及び後援」では、「1 締約国は、広告、販売促進及び後援の包括的な禁止がたばこ製品の消費を減少させるであろうことを認識する。2 締約国は、自国の憲法又は憲法上の原則に従い、あらゆるたばこの広告、販売促進及び後援の包括的な禁止を行う。この包括的な禁止には、自国が利用し得る法的環境及び技術的手段に従うことを条件として、自国の領域から行われる国境を越える広告、販売促進及び後援の包括的な禁止を含める。」と規定している。

日本は、憲法での表現の自由の観点からたばこ広告の禁止はできないとの態度をとり、たばこ広告を法的に禁止するのでなく、財務省の指針に沿って、たばこ業界の自主規制に任せることとしている。たばこ業界の自主基準では、新聞雑誌の広告は依然として残っており、また、規制されているはずのテレビでは、たばこのブランド広告ではないもののJTの企業イメージのアップを図る広告は依然として行われている。

また、明らかに未成年者を対象とした巧妙な販売促進活動も依然として行われている。さらに、未成年者も見ることのできるテレビドラマや映画での喫煙場面が隠れ広告となっている。これらは、業界による自主規制の限界を示している。

たとえたばこが合法的な商品であるとしても、たばこが継続喫煙者の半数の命を奪うことになることを考えれば、たばこの広告・販売促進活動の禁止は、公衆衛生の向上の観点から当然である。世界中の多くの国でたばこの広告は法的に禁止され、若年者の喫煙開始を減少させるのに役立っている。無防備な子どもたちを守ることは政府の義務であるとの観点から、現状のたばこ広告規制の不備を指摘して、法律によるたばこ広告の包括的禁止を強力に働きかけていくべきである。

(3)たばこパッケージの警告表示の強化に向けての働きかけ

FCTCの発効に備えて、財務省財政制度審議会では、たばこのパッケージの注意文言について検討し、従来の「あなたの健康を損なうおそれがありますので、たばこの吸いすぎに注意しましょう」から、より具体的な文言に変えるとともに、主要面の30%の面積を占めるよう省令を改訂し、平成17年7月から全面実施した。ただし、たばこ規制先進国の警告表示と比べると、「大きく、明瞭で、読みやすい健康警告」とはなっていない。たとえば、EUの警告表示と比較すれば、その差は一目瞭然である。EUの警告表示では、「喫煙すると早死にする」などと、非常に直接的なメッセージを写真・絵とともに示している。また、EUの警告表示には、喫煙すると性的不能になる可能性がある、喫煙は肌の老化を促進する、など若い世代に対する警告表示もある。日本の注意表示も、今後より強い警告表示に変えていく必要があり、この実現に向けて働きかけていくべきである。

6.たばこ規制対策推進に向けての政府と関係組織団体との連携

「はじめに」で述べたように、政府は、FCTCの署名、批准にあわせて、たばこ対策関係省庁連絡会議を設置し、平成17年1月18日第1回会議を開催した。連絡会議の事務局は、財務省理財局総務課たばこ塩事業室の協力を得て、厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室において処理する、とされている。また、平成17年10月1日には、生活習慣病対策室にたばこ対策専門官が着任した。

FCTC第5条「一般的義務」には、「1 締約国は、この条約及び自国が締約国である議定書に従い、多くの部門における包括的な自国の戦略、計画及びプログラムであってたばこの規制のためのものを策定し、実施し、並びに定期的に更新し及び検討する。2 このため、締約国は、その能力に応じ、次のことを行う。(a)たばこの規制のための国内における調整のための仕組み又は中央連絡先を確立し又は強化し、及びこれらに資金を供与すること。(以下略)」とされているが、ようやく、日本政府においても、行政府内にたばこ規制のための拠点ができたといえる。まだ、その基盤は極めて弱いといわざるを得ないが、今後この拠点との連絡を密にして、国民の健康を預かる厚生労働省がたばこ規制においてイニシアティブをとるように働きかけていかなければならない。

平成18年2月にはFCTC第1回締約国会議、平成19年にはたばこ規制の現状を締約国会議に報告することが予定されている。これに備えるためにも、厚生労働省のたばこ対策専門官等、たばこ規制担当者と日本医師会などの国民医療推進協議会参加団体の代表との会合を定期的に開催して、未成年者の喫煙防止対策を含め、たばこ規制の進捗状況のモニタリングとたばこ規制対策の推進に関する意見交換をする必要があると考える。

なお、「たばこ産業の健全な発展」を目的とするたばこ事業法が「継続的かつ実質的にたばこ使用及びたばこ煙への曝露を低減すること」を目的とするFCTCと相容れないものであることは明白である。FCTCを批准したからには、たばこ事業法を撤廃して、たばこ産業の完全民営化を進め、かつ、たばこに関する所管を国民の健康を預かる厚生労働省に移管する必要がある。この実現に向けて、政府、国会等関係各方面に粘り強く働きかけていかなければならない。