医師のみなさまへ

2019年7月22日

風しん予防特別対談

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2020年に向け、40~50代の男性は、風しんの抗体検査と予防接種を

 昨年、日本では3,000人近い風しんの感染者が報告されました。風しんは、妊娠中の女性がかかると、出生児が先天性風しん症候群を発症する可能性があります。国は風しんの追加的対策として、日本医師会の協力の下、対象者への予防接種を実施しています。
 そんな中で、今回は国民に風しんの抗体検査と予防接種を受けてもらうことを目的として、元体操選手で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事の田中理恵さんと横倉義武会長が、風しんの予防法などについて対談した模様を紹介します。

風しんの大流行で、大人が警戒すべきことは

横倉 田中さんの現役時代の美しい演技には、体操ファンだけでなく全国民が魅了されました。日本代表として活躍された当時は、健康管理も大変だったのではないですか。

田中 はい。自分自身の体調管理はもちろんですが、感染症にかかってチームの皆にうつしてしまうことがないよう、毎年、インフルエンザの予防接種は欠かさず、人混みのある場所にはあまり行かないようにしていました。

横倉 試合前のコンディションづくりは一番大切ですからね。感染予防はチームの一員としての責任でもあったんですね。

田中 2013年に現役は引退しましたが、昨年出産して、また違う責任を感じるようになりました。母親として子どもの命を守らなければ、という今まで感じたことのない強い思いが湧いて。

横倉 妊娠中に、風しんの抗体検査をされたとお聞きしました。

田中 そうなんです。産婦人科の主治医から、風しんにかからないように気をつけてと言われ、調べると、抗体価がやや低かったんです。急いで、夫に予防接種を受けてもらいました。

横倉 ご家族が予防接種を受けられてよかったと思います。実は昨年、風しんが関東を中心に広まり、2,917人もの感染者が報告されました。今年も昨年を上回るスピードで感染者が増えています。

田中 今年も! 怖いですね。そもそも、風しんに感染するとどんな症状が出ますか。

横倉 感染力の強いウイルス性の疾患です。せき、くしゃみ、会話などによって空気中に飛散した病原体を吸入することで、人から人へ感染し、感染から2~3週間で発熱、全身の発疹、リンパ節の腫れが見られます。たいていは3日くらいでおさまりますが、成人が発症すると重症化することがあります。また、妊娠初期の女性が感染すると、出生児に先天性心疾患や難聴、白内障などの障害を引き起こす可能性があるんです。

田中 お母さんが風しんにさえかかっていなければ持つことはなかった障害ですよね。妊娠してからだと予防接種は受けられないんですね。

横倉 そうなんです。妊婦さんには勧めていません。ですから、パートナーや家族、職場の人など周りがウイルスをもたらさないよう、気をつけなければなりません。

感染拡大の原因は、予防接種の「空白期間」

田中 なぜ急に感染者が増えたのでしょうか。

横倉 日本では定期予防接種が行われているので、児童や若年層の感染はほとんどなくなったのですが、かつて、公的な予防接種の機会がなかった時期があり、特に免疫を持っていない成人の男性を中心に感染が広まったのです。

田中 感染の拡大を止めるために何か対策はあるのですか。

横倉 40~50代男性の約2割にあたる「風しんの抗体がない人達」の免疫を高めることが、日本で風しんの発生と蔓延(まんえん)を予防することになります。

田中 夫は30代前半ですが、風しんの予防接種を勧めたとき、はじめは「忙しい」とか「そのうちに」とか、なかなか病院に行こうとしなかったんです。

横倉 ちょうど働き盛りの忙しい年代ですからね。でも、自分が風しんにかかって大事には至らないとしても、感染源となってしまうことを考えて欲しいのです。

田中 自覚がなく、人にうつしてしまうということもあるのでしょうか。

横倉 2、3週間の潜伏期間や、症状が軽くて風しんと気づかないうちにうつすことは大いにあります。

田中 怖いですね。自分に抗体があるかどうか、分からない人もいますよね。

横倉 定期接種がなかった層でも、任意で予防接種を受けていた人はいるのですが、なかには記憶がはっきりせず、麻しん(はしか)の予防接種を受けたことを風しんの予防接種だと思い込んでいたり、記録があるはずの母子健康手帳をなくしてしまったりといったこともあるでしょう。田中さんの年代だと、幼児期に定期接種が実施されていたはずですが、人によっては予防接種を受けていても抗体価が低くなってしまうことがあるんです。まずは抗体検査を受けて、ご自分の状態を知ることが必要です。過去に風しんにかかったことがあっても、検査で十分な抗体価がないことが分かれば、予防接種の対象となります。

予防を徹底させ、日本を「安心できる国」に

田中 どこへ行けば検査が受けられるのですか?

横倉 厚生労働省のホームページには抗体検査や予防接種の受けられる医療機関のリストが載っています。対象の男性は2022年3月31日までの3年間、抗体検査と予防接種が公費で受けられます。居住地の市区町村からクーポン券が届きますから、それを持って医療機関等に行けば受けられます。

田中 検査も予防接種も、無料で受けられるんですか?

横倉 そうです。会社などで働いている方は、事業主健診の機会を利用したり、居住地以外の医療機関を利用したり、最大限に機会を増やせる仕組みになっています。医療機関の協力により、土日や夜間の実施も可能です。

田中 土日や夜も対応してくれるなら、あとは本人の意思だけですね。これからは大きなイベントもあり、海外の方が日本に来る機会がますます増えます。風しんの危険がない国として迎えたいですよね。

横倉 アメリカ疾病対策センター(CDC)は、昨年10月に、風しんについて予防接種や感染歴のない妊婦は日本に渡航しないように勧告しました。今後そのようなことをなくしていかなければならないと思います。

田中 感染対策も「おもてなし」精神のひとつですね。逆に海外から感染症が持ち込まれるということはないんですか?

横倉 ある期間、特定の場所に大勢の人が集まる「マスギャザリング」においては、持ち込まれる病原菌から感染が広まる可能性が高くなります。基本的なことですが、手洗い、うがい、マスクをして、ワクチンがあるものについては予防接種を受けるようにしましょう。少しでも異変があったらかかりつけ医に相談することをお勧めします。

田中 私にも、信頼できるかかりつけ医がいます。そういうお医者さんや病院を決めていないという人はどうすればいいでしょうか。

横倉 普段、あまり医療機関を受診されないという方もいますね。今回の風しんの予防を、かかりつけ医を探すきっかけにして頂ければと思います。

田中 そうですね。40~50代の男性は、病院を面倒がらずに、ご自分の家族や会社を代表チームだと思って(笑)、ぜひ抗体検査と、予防接種を受けて欲しいですね。

風しんの定期予防接種制度

予防接種の制度は、何度か変更されたため、年代によって予防接種を受けた年齢と回数が違います。現在の制度では、1歳と小学校入学前の2回接種しますが、1979年以前に生まれた男性と、62年以前に生まれた女性は定期接種の機会がなく、一度も接種していない人も数多くいます。今回の追加的対策では、62~79年生まれの男性が無料で抗体検査を受けられ、その結果、免疫が十分でないとわかった人は、ワクチン接種も無料で受けられることを定めています。

ただし、自治体により対応は異なるので、それぞれの市区町村にお問い合わせください。

  • 田中理恵さん


    田中理恵さん
    2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事
    公益財団法人日本体操協会理事

    1987年和歌山県生まれ。体操一家で育ち、2010年世界体操競技選手権大会でロンジン・エレガンス賞を日本女子で初めて受賞。12年全日本選手権大会女子個人総合において初優勝。同年NHK杯体操女子個人総合優勝。兄の和仁、弟の佑典とともに、3兄弟でロンドンオリンピックに出場。13年に現役を引退し、テレビ出演やイベントなどで活躍。


  • 横倉義武
    日本医師会長

    1944年8月 福岡県生まれ。久留米大卒。社会医療法人弘恵会ヨコクラ病院理事長。地域に寄り添うまちづくりをモットーに福岡県で医療に従事。福岡県医常任理事・副会長・会長・日医副会長を経て、2012年から第19代日本医師会長に就任。18年に4選。かかりつけ医を中心とした医療提供体制の構築に尽力している。17年世界医師会長に就任。

    横倉義武

お問い合わせ先

日本医師会 広報課 TEL:03-3946-2121(代)

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