白クマ
日医白クマ通信 No.1117
2009年3月26日(木)


第5回医療政策会議
「医療における公共部門の役割と財政改革」について講演

第5回医療政策会議


 第5回医療政策会議(議長・田中滋慶大大学院教授)が3月18日、日医会館で開催され、池上岳彦立教大学経済学部教授が、「医療における公共部門の役割と財政改革」と題して、講演を行った。

 池上氏は、憲法の国民の医療における公共部門の役割は、生存権、幸福追求権を保障することとし、傷病リスク分散の理念のもと、(1)相互扶助、(2)患者は“受益者”ではなく、“健康な状態に戻る権利を持つ人”、(3)健康な人も含めて、国民が納める保険料・租税が医療に使われるのは当然である―との前提を強調。患者が、適切な治療等を受け、健康を回復出来るようにすることが公共部門の任務だとした。

 日本の医療費と財政規模については、OECD Health Data 2008に基づき、国民医療費のGDP比や1人当たり額が他の先進国に比べ相対的に少ない一方、公的支出の割合が高いことを示した。公的支出の割合は、イギリスが87.3%、スウェーデンが81.7%、日本が81.3%で、フランス、ドイツ、カナダが70%台であるが、アメリカは45.8%と突出して低い。池上氏は、莫大な医療費を費やしていながらも、平均寿命が相対的に低く乳児死亡率の高いアメリカのパフォーマンスの悪さを指摘するとともに、日本のパフォーマンスは、高い平均寿命、低い乳児死亡率で相対的に良好であるとした。

 そのうえで、「医療費適正化」の名のもとに行われてきた最近の医療制度改革を取り上げ、「医療費抑制との主張が見られるのは、医療が公的・非営利部門であり、営利投資の対象になりにくいからだ」と指摘。「税が少ないほど良い社会」(営利第一主義)の立場からは、「公共サービスとしての医療は国民の負担」という宣伝が展開されるが、それは誤りであるとし、「民間主導」や「規制緩和」を進めるほど、アメリカのように医療費が急増することから、必要なのは「小さな政府」ではなく、「信頼される、しっかりした政府」であるとした。

 医療保険制度の在り方については、年齢・職業を超えた制度の統一が望ましいとし、そこでは患者負担を引き下げ、高齢者・乳幼児はとくに低負担とする必要があるとした。また、規模については、都道府県レベルとし、都道府県が個人住民税・事業税(外形標準課税)の一部を保険税として運営し、年齢・所得の相違は、地方交付税により調整するべきだという私見を示した。

 さらに、医療費財源拡大のためには、(1)所得税の総合課税拡大(金融所得に対する増税も含む)、(2)資産課税(相続税、贈与税)、(3)事業税の外形標準課税(付加価値割拡大)―など、消費税率を引き上げる前に行うべき増税があるとした。

◆問い合わせ先:日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)


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