白クマ
日医白クマ通信 No.1488
2011年12月9日(金)


第8回医療政策会議
「公的医療保障制度と民間医療保険に関する国際比較」をテーマに委員が講演

第8回医療政策会議


 第8回医療政策会議が11月18日、日医会館で開催された。

 冒頭、会長に代わってあいさつした中川俊男副会長は、TPP交渉参加をめぐる動きに触れ、「医療が中心的な話題であることが明白になってきている。医療を守るために、どういう行動がベターか追求しながら頑張っていきたい」と述べ、日医執行部の対応について説明した。

 続いて、河口洋行成城大学経済学部教授が「公的医療保障制度と民間医療保険に関する国際比較―公私財源の役割分担とその機能―」と題して講演した。

 同氏は、例えば、混合診療や株式会社が参入した場合、その費用負担を自費では賄えなくなることから、問題意識として、「民間保険の利用が医療の営利産業化のある意味では前提条件となっていると考えられる」と述べ、民間保険を活用しているOECD加盟国で想定した効果が出ているかとの観点から、以下の検証結果を報告した。

 公的医療保障制度について、多くの国は7〜8割程度を公的財源でカバーしている。税財源と社会保険の割合を見ると、社会保険方式のドイツとオランダは6〜7割を社会保険で賄っているのに対し、同じ社会保険方式の日本は、81.9%の財源のうち税35%、社会保険46%で、税の割合が高いというところが特徴である。

 公的医療保障制度の保障範囲については、税財源を主とするイギリス、オーストラリア、フィンランド、アイルランドでは、必須医療が公的病院で行われる場合のみ保障しているが、カナダは民間病院も含め保障しているが、歯科医療、外来薬剤などは保障していない。一方、社会保険料を主とするドイツとオランダでは、歯科や専門医の上乗せ価格などが部分的な保障となっている。日本は、歯科や薬剤の保障の範囲が広いと考えられる。

 民間医療保険の保障範囲は、(1)急性期医療を中心とした必須医療、(2)自己負担を補完する部分、(3)公的医療保障や主要な民間医療保険の保障外の上乗せサービス部分―の3種類あり、その機能は、一般的な公的保障を受けながらイギリスのように「二重」に保険料を払う場合、ドイツのように公的保障から離脱して「代替」的な民間保険に入る場合、オランダのように公私共に管理競争の下における主要保険の場合、フランスのように自己負担分の保障である「補足」、上乗せサービスの保障である「補完」の場合と、4つの機能に分類される。

 河口氏は、「イギリスやオーストラリア等では、公的病院の長い待ち行列を短縮するために二重保険に入り、オランダやドイツでは、公的保険に加えて代替的な民間保険を使うことができるので、オランダでは上乗せの補足保険に入る人が多い。公的保障のタイプに関わらず、自己負担が高い国では補足保険、必須医療が公的保障の範囲外である国では補完保険が使われている」と説明。

 民間保険を活用した国において、期待どおりの効果を得られたかという点については、「結論から言うと、思ったとおりにはならなかった。オーストラリア政府は民間保険の保険料の3割を補助して加入を促進したが、保険者機能を通じた効率化よりも、医療サービスの価格を引き上げ、保険料も引き上げて給付範囲を拡大した。また、国民の過半数が二重保険に入っていても、命に関わることになると公的病院に戻ってきてしまう。アイルランドも同じような形で、公的医療費の削減や待ち行列の緩和には効果がなかった」と総括した。

 その上で、「混合診療禁止ルール」に言及し、「急に全面解禁すると、日本の医療が急激に二層化することが考えられる。この時に民間保険が本当に期待した動きをしてくれるか。オーストラリアやアイルランドのように、保険料率をどんどん上げて給付範囲は広げるものの、効率的な給付ではないということであれば、必ずしも公的医療費の削減につながらない」との見方を示した。

 更に、「日本の民間保険は現在、定額保障方式が中心となっているが、本当に補完保険や二重保険として期待できるのか整理する必要があるのではないか。どういう規制や誘導策を使って民間保険を活用するかということを検討した上で、活用するなら活用するというようにすることが必要である」と述べた。

◆問い合わせ先:日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)


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