白クマ
日医白クマ通信 No.1598
2012年9月26日(水)


第1回第XIII次生命倫理懇談会
諮問は「今日の医療をめぐる生命倫理―特に終末期医療と遺伝子診断・治療について―」

生命倫理懇談会


 第XIII次生命倫理懇談会の第1回会議が9月19日、日医会館で開催された。

 担当の羽生田俊副会長の司会で開会。冒頭、挨拶に立った横倉義武会長は、「昨年来、超党派の議員連盟による尊厳死法制化の動きが活発となり、現在2つの法案が提示されているが、尊厳死法制化については日本医師会として十分な議論が尽くされていないと考える。一方、遺伝子診療・治療の新しい動きとして、今月から限定された医療機関で妊婦の血液を用いた出生前診断が導入されるが、この革新的な検査法は生まれてくる生命に、患者のみならず、医師としてどう向かい合うべきかという新たな倫理問題をもたらすことは明らかである」と述べ、これまで生命倫理懇談会で継続的に検討されてきた課題と新しい医療課題に対し、生命の尊厳という観点からの慎重な議論を要請した。

 つづいて、横倉会長は、座長に久史麿日本医学会長を、副座長に薬袋健山梨県医師会長を指名し、諮問「今日の医療をめぐる生命倫理―特に終末期医療と遺伝子診断・治療について」を久座長に手交した。

 久座長は、「尊厳死法制化を含む終末期医療と遺伝子診断・治療という二つの問題については、いずれも緊急に日本医師会としての考えを明らかにする必要がある」とし、委員の協力を求めた。

 議事では、会長諮問に対するフリートーキングが行われ、まず、羽生田副会長が「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」について説明。当初の法案では、「患者の意思に基づく延命措置の不開始」の免責が焦点とされていたが、医療現場では「患者の意思に基づく延命措置の中止」の方が問題であるとして、現在、延命措置の「不開始」を規定した第一案と、不開始だけでなく延命措置の「中止」も含めた第二案の二つの法案が示されていると報告した。また、藤川謙二常任理事は、患者のリビングウィルがあったとしても、その実行に際しては家族の同意を得られるかという難しさがあり、法制化には慎重であるべきと述べた。

 委員からは、現在、日本尊厳死協会のリビングウィルを12万5,000人が所持しており、自分の終末期に関する意思が尊重されるべきだという意見が見られる反面、健康な時の意思表示が病気になってから変わる可能性があることや、同法律案にある「民事上、刑事上及び行政上の責任」を問われないとする記述が医師の過剰防衛と言われかねないと懸念する意見もあった。

 また、出生前診断に関しては、着床前診断を重篤な遺伝性疾患に限って行う中、妊娠後の羊水検査や絨毛検査は自由に実施されているという矛盾が指摘され、日本産科婦人科学会の自主規制では対応しきれない現状があることから、法制化を求める意見があった。このほか、「母体保護法とも関連する難しい課題である」「生殖及び生殖補助医療全般に関する基本的な法律がないのが問題」「日医としても見解を示すべき」などの発言があった。

 羽生田副会長は、多様化する生殖補助医療を踏まえ、日医に「生殖補助医療法制化検討委員会」を設置したことを報告したほか、石川広己常任理事は遺伝子診断の商業化について遺伝子情報の取扱いを重視した議論を、藤川常任理事は採取した血液等の目的外使用といわゆる包括同意についての議論を提案した。

 次回は、尊厳死をめぐる問題と日本老年医学会の「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」について、それぞれヒアリングを行う予定である。

◆問い合せ先:日本医師会企画課 TEL:03-3946-2121(代)


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