白クマ
日医白クマ通信 No.335
2006年2月22日(水)


医療制度改革についての勉強会
社会保障審議会で議論をせずに法案提出は、重大な瑕疵

 医療制度改革についての勉強会が、2月15日、都内で開催された。
 この勉強会は、日医が都道府県医師会の役員を招いて継続的に行っているもの。

 宮崎秀樹副会長の司会で開会し、冒頭、植松治雄会長は、中央情勢の報告のほか「国民医療推進協議会では、患者負担増に反対する署名を1700万人以上の方にいただいている。特に、高齢者の負担を軽減する努力は今後とも続けていくつもりである」とあいさつを行った。

 櫻井秀也副会長は、健康保険法、老人保健法、介護保険法のそれぞれの一部改正について説明し、全体的な問題として、「社会保障に関わる議論を行う社会保障審議会が、9月中旬から開催されず、勝手に法案が作成され、国会に提出されるのは、重大な瑕疵がある。また、平成20年に施行予定の法案を十分な検討もなく国会に提出するのは、あまりにも拙速」と述べた。また、櫻井副会長は、老人保健法などに、「医療費の適正化の推進」などの文言が細部にわたり挿入されていることにも強い警戒感を示し、以下のような見解を明らかにした。

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■今国会に提出された健康保険法等の一部を改正する法律案についての日本医師会の考え方

【全体的な問題】

●今国会に提出された健康保険法等の一部を改正する法律案の基になるのは、社会保障審議会の医療保険部会、医療部会等で審議されてきたものである。しかし、社会保障審議会そのものは開催されておらず、社会保障審議会の委員は、部会からの報告さえ受けていない。このような状態のまま、法案が作成されて国会へ提出されるのは、社会保障審議会を無視し、社会保障審議会委員の存在を否定したもので、重大な瑕疵である。

●平成18年10月、平成19年3月、4月に施行が予定されている法案については、今通常国会で審議されるべきものと考える。しかし、平成20年4月、平成20年10月に施行予定の法案を十分な事前の検討もなく国会に提出することは、拙速の誹りをまぬがれない。十分検討の上、平成19年の通常国会で審議すべきである。ましてや、平成24年施行予定のものまで具体的提示をするようなことは許されないことだと考える。

●提出される各法案に共通の問題としては、患者負担増の政策については、患者負担増反対の国民の意思を尊重し考慮して、見直すべきものと考える。

●医療保険の保険料率、診療報酬などを都道府県別に設定する考え方は、国民全体で支える国民皆保険制度の理念に反する。国民皆保険制度堅持の観点から、反対である。

【健康保険法の一部改正】

●「特定療養費」を廃止して、「保険外併用療養費」と改めることにしているが、その用語から内容が分かりにくいので、「評価療養」と「選定療養」を合わせたものであるから、分かりやすく「評価・選定療養費」とすべきである。

●「全国健康保険協会」の設立については、平成20年10月施行予定であり社会保険庁のあり方が明らかになってから、審議すべきである。

【老人保健法の一部改正】

●法律の題名、目的、国や地方公共団体の責務など、まったく違う内容となっている。老人保健法の重要な部分である「第三章 保健事業等」は削除され、受け皿となる、健康増進法の改正については、検討がされていない。内容的に、まったく新しい法律なのに事前の検討がきわめて不十分である。十分に時間をかけて、その内容を検討し直すべきである。特に、保健事業を特定健康審査と名付けて、医療費適正化のためのものと位置付け、その責任を保険者に移行してしまって国と地方公共団体の責任をはずしたこと、さらに保険料率、診療報酬を都道府県別に設定しようとする考え方に強く反対する。

【介護保険法の一部改正】

●「介護療養型医療施設を平成24年3月31日をもって廃止する」という改正案は、医療法、医療保険などの関連部会で十分審議してから提案すべきであり、現時点で「まず廃止ありき」のやり方には絶対に反対である。

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■公的な負担を減らして、患者さんの負担を増やす政策に強く反対します。患者さんは、受難者であって、受益者ではありません。

*日本の国民医療費は、公費(国と地方行政の負担)と保険料(被保険者と事業主の負担)の公的負担と患者負担から構成されています。

*現在進められている医療制度改革は、公的(公費と保険料)負担を減らして、患者負担(特に高齢者の患者負担)を増加させる政策ばかりです。このような考え方には断固反対します。

*火災保険に加入していて火事に遭った人は受難者であるのと同じように、健康保険に加入していて健康を害した人(患者さん)は、受益者ではなくて、受難者です。受難者からさらにお金を取る政策には反対です。

*日本医師会の呼びかけで結成された「国民医療推進協議会」は、患者さんの負担増は国民皆保険制度を破壊するものであるとして、国民の意見を聞くために、署名運動を展開しました。その結果、1800万人近くの多数の国民から、患者負担増反対の署名を戴くことができました。
 集まりました署名については、去る1月24日に、衆参両院の議長宛に、陳情書に添えてお届け致しました。国会審議におかれまして、この国民の意思を十二分に尊重していただきますよう、お願い申し上げます。

*国民皆保険制度において、その費用が不足する場合の対応策としては;
 社会保障制度の観点からは公費部分の増額が必要であり、保険制度の観点からは、保険料率の見直しによる保険料の増額が必要です。しかるに、最近10数年にわたって進められてきた医療費財源の確保は、患者負担を増加させる方法によって実施されてきました。このことは、社会保障制度、保険制度、いずれの理念にも反するものであると考えます。

*公的な負担を減らして、患者さんの負担を増やす政策に強く反対します。

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■都道府県によって保険料や診療報酬が異なる制度は国民全体で支える国民皆保険制度の理念に反します。

*国民皆保険制度は、1億2千万人の国民全員で、1億2千万人の国民全員を支える制度です。

*仮に、長野県の医療費の額が低いからと言って、長野県だけの保険料や診療報酬を設定してしまったら、国民皆保険ではなくて、長野県保険になってしまいます。 
 長野県の中でも、平成15年度の市町村別の老人医療を比較すると、1位の坂北村と118位の泰阜村では、1.7倍以上の差があります。市で比べても、9位の岡谷市と97位の茅野市で1.2倍以上の差があります。そうしたら、長野県の中でも市町村別に保険料や診療報酬を定めなければならなくなります。茅野市の中でも、地区によって医療費は異なるだろうし、鈴木さんの家と山本さんの家では医療費の額が違うのは当然です。それを各々別個に扱っていたら、保険制度は成り立ちません。ましてや国民皆保険制度の理念とは、まったく相反するものになってしまいます。

*最初に述べたように、国民皆保険制度は、1億2千万人の国民が1億2千万人の国民を支える制度であり、保険料率や診療報酬などは、国全体としての責任として、国が責任を持つべきものであります。
 そもそも雇用者保険において、裕福な健保組合がきわめて低率な健康保険料を勝手に設定している(政府管掌保険の保険料率が1000分の82であるのに、1000分の54の保険料率の健保組合がある)ことも、国民皆保険制度の理念に反していると考えます。
 全部の健保組合が、政府管掌と同じに1000分の82の保険料率で保険料を集めたら、健康保険は大黒字になるはずです。

*なお、財源や診療報酬などは、国が責任を持つべきと考えますが、事務の効率化のために、事務的事業を都道府県に移管することについては、賛成です。

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