白クマ
日医白クマ通信 No.348
2006年3月14日(火)

 愛知万博が終了して5か月。当初の予想よりはるかに多くの人々が参加し、国家的イベントは大成功といえるだろう。その成功の裏には、われわれの知らないドラマがある。開催期間中における地域医師会の活動の一環として、愛知県医師会から報告があったので掲載する。

万博会場に一番近い総合病院としての取り組み

 先日、会場跡を通る機会があり、全く面影もなくなった情景を見て、わずか四か月前までのあの暑い日々を、一月の寒さの中で懐かしく思い出した。二時間も三時間も炎天下でただひたすら待つあの試練に耐えられたのは、誰もがそうしているあの平等さだからだと思うのである。

 さてわが公立陶生病院は、長久手会場から直線距離にして五キロもない立地で、会場から最も近い総合病院である。それで我々は愛知万博に三つの形で協力することとなった。

 第一は、会場内の診療所への医師と看護師の派遣である。毎週木曜日の午後に医師と看護師一名ずつ、延べ52名が北診療所で傷病者の対応に携わった。

 第二は、会場内での集団災害への対応である。もし会場で大きなトラブルが発生するようなことがあれば、いやおうなく大勢の傷病者が殺到することは避けられない。夏を越える会期中に集団食中毒が発生するかもしれない。会期中にデマも含めれば非常に高い確率でテロが発生しうるとの憶測もあったが、たとえそれがデマであっても、来場者がパニックから将棋倒しにでもなれば、やはり大惨事である。それでそのような事態に備えるため、万博の二年ほど前から集団災害への対応訓練を病院をあげて行った。幸い食中毒もなければ、テロを企てる不届きものもなく、無事会期は過ぎていった。

 第三は、会場から搬送される傷病者の受け入れである。陶生病院では、年間七千台以上の救急車を受け入れており、救急外来のスタッフは鍛えられている。少々救急車が増えても心配ないと思う一方、平均入場者数八万人と予想されている大イベントであり、町が一つ突然誕生するようなものと思うと、どんなことになるのか想像もつかなかった。特に心配したのが、言葉の通じない異国からの旅行者が重病で来院する事態であったが、外国人のほとんどは各国のパビリオンのスタッフで、通訳の方が付き添っていらっしゃって混乱はなかった。

 会場から外部医療機関に搬送された傷病者662名のうち、なんと451名(68%)を陶生病院が受け入れた。入院を要したのは107名で、手術を要した患者は8名、カテーテル検査も9名に行われた。緊急のカテーテル治療で救命された心筋梗塞の2名や緊急手術で助かった急性大動脈解離の2名など、重症例も10名以上含まれている。急性大動脈解離の女性とくも膜下出血の女性の二名は、治療の甲斐なく亡くなった。遠方からのツアー客の場合、入院させるか帰すかは非常に難しい判断を迫られるが、後で問題の生じた事例はなかった。

 陶生病院の協力に対して、万博協会から一台のAEDが贈られた。このAEDは玄関脇に展示されている。有形のものはこれだけであるが、我々は万博から非常に多くの経験を得られたと思う。愛知万博の成功に微力ながら貢献できたことを、我々は誇りに思う。

 AEDを見るたびに、あの暑い日々が懐かしく思い出されるのである。

◆問い合わせ先:愛知県医師会業務第1課 TEL:052-241-4138

(文責:公立陶生病院 味岡正純)


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