白クマ
日医白クマ通信 No.624
2007年3月29日(木)


定例記者会見
「グランドデザイン2007−国民が安心できる最善の医療を目指して−総論」を発表

唐澤会長

 日本医師会は、高齢社会における公的医療保険制度や、医療提供体制のあるべき姿などについての考え方を示した、「グランドデザイン2007−国民が安心できる最善の医療を目指して− 総論」をまとめ、3月28日の定例記者会見で、その概要を明らかにした。後期高齢者医療制度の財源の9割を公費で賄うことを改めて提案したほか、高齢化のさらなる進展に向けて病床、施設を整備する必要性を指摘し、必要病床数等の推計値を示した。唐澤人会長は会見の中で、「少子高齢化に対してどのような医療をつくるのか、また介護保険、後期高齢者医療制度の方向性について、私どもなりに示させていただいた」と表明。今回のグランドデザインは、総論という位置づけであり、今後より具体的な提案を書き込んだ第2弾(各論)を夏までにまとめ、公表したいと話した。

 中川俊男常任理事の説明では、「グランドデザイン2007」は、(1)あるべき医療の実現に向けて(2)国民のニーズにこたえる医療提供体制(3)医療保険制度のあり方(4)社会保障財源の可能性について−の4章構成。

 このうち、あるべき医療の実現に向けてでは、OECD加盟国との医療費、医療提供体制の比較を通して、日本のとるべき方向性を探った。それによると、日本のGDPに対する総医療費支出の割合は8.0%で、OECD加盟国平均の8.8%をはるかに下回り(2003年データ)、最新データでは、かつて、待機患者の多さや医療従事者の不足で医療提供体制が脆弱だとされてきた、イギリスにさえ、追い抜かれようとしている。日本は1人当たりGDPが平均以上であるのに、1人当り総医療費支出は平均以下の水準に止まっており、経済力では国際的に優位にありながら、医療費は低く抑え続けられてきた実態が浮き彫りになった。

 日本がOECD加盟国平均並みの医療費水準になるには、総医療費支出で約10%、1人当り総医療費支出で約15%の引き上げが必要だとしている。

 医療提供体制では、75歳以上の3人に1人が独居あるいは、夫婦とも75歳以上の老々世帯であることから、「高齢者は在宅へ」という厚生労働省の政策は、危険を伴うと問題視。医療施設などの整備が求められるとして、慢性期入院病床等(医療療養病床+現在の介護療養病床を含む介護施設等)と急性期病床(一般病床)の必要数を推計した。

 厚労省は現在、医療・介護合わせて38万床ある介護療養病床を2012年には、医療療養病床15万床のみにまで削減する方針を打ち出している。これに対しグランドデザインでは、医療療養病床は2010年度時点で24万床、2015年度には27万床が必要と推計、厚労省方針が現実性に乏しいことを示唆した。介護施設等も加えたトータルの必要慢性期入院病床等は、2015年度が44万床、2025年度が51万床。一方、急性期病床は、2015年度に98万床、2025年度には2005年度の105万床を上回る108万床が必要になるとしている。 定例記者会見の様子

 「あるべき医療費」として、医療費の将来推計も行った。最近の医療費の伸びをベースにした推計に、「医療の安全・安心のために追加すべきコスト」として、(1)医療安全従事者の配置のためのコスト(2)医療従事者の質を確保する観点から世間並みの賃金上昇率を保証(3)電気・ガスなどの他のライフライン産業と同様に再生産(再投資)のためのコストを織り込む−を加味した点が特徴。2015年度は43兆円、2025年度は52兆円と推計している。

 医療保険制度のあり方では、公的医療保険の範囲について、「拡大することはあっても、後退はさせない」と明記。先進医療等の保険導入については、「普遍性、社会性が高まった時点で、すみやかに保険の範囲に吸収し、包容力の高い公的医療保険を追及する」とした。

 具体的制度設計で、後期高齢者については、疾病の発症リスクが高く保険原理が働きにくい、保険料や患者一部負担が大きな負担になる−ことから、「後期高齢者が所得格差の不安なく過ごせるよう、国は『保障』の理念の下で支えるべきである」との基本理念を示した。これにもとづいて、後期高齢者医療制度には、国庫負担を中心に公費を集中投入し、後期高齢者医療費の9割を公費、残り1割を保険料と患者一部負担で賄う。一般医療保険制度(0〜74歳)は、公費を一切投入しない代わりに、保険者の財政を圧迫しかねない後期高齢者支援金(現在の老人保健拠出金)を廃止。財源構成は、医療費の8割を保険料、2割を患者一部負担とする、完全な「保険原理」で運営する。

 この制度設計をベースに給付費(一般+後期高齢者)をシミュレーションすると、2015年度は37兆円、2025年度は46兆円となる。厚労省は、医療制度改革実施後の給付費として、それぞれ37兆円、48兆円と推計しているが、2015年度は厚労省推計とほぼ同額、2025年度はむしろ厚労省推計を下回る水準であり、日医案実現の可能性は高いとみている。

 なお、正式公表は4月1日の日医代議員会を予定。

◆問い合わせ先:日本医師会広報課 TEL:03−3946−2121(代)


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