BOOK-書評-

「精神科の患者」の見方を変えてくれる一冊

 著者は現役の精神科医であり、この度の第1回*医療小説大賞の受賞作家でもある。

 著者の出世作である本作は、タイトル通り精神病院が舞台であり、入院する登場人物たちの一人ひとりが丁寧に描かれている。作中に「**精神分裂病という病名は、人間を白人や黒人と呼ぶのと大して変わらないのではないだろうか。(中略)そんな風に考えてから、チュウさんは自分の病名をとんと気にしなくなった。」という箇所があるが、私たちは精神科はもちろん他科でも「患者」を「病名」で一括りにしてしまいがちだ。しかしこの作品では、一人ひとりの「患者」が、それぞれの「症状」を抱えながらも活き活きと日常を生きている姿が描かれる。その描写は「精神科の患者」への見方や理解を変えるものだった。また、読後感も爽やかで、気楽に手に取れる、読みやすい小説でもある。

*2012年に日本医師会主催で創設された、国民の医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰する賞。
**本作執筆時は、統合失調症は「精神分裂病」と呼ばれていました。

『閉鎖病棟』帚木 蓬生/新潮文庫/590円

様々な「誤診」を通して医師の思考を探る

 本書は、ハーバード大学で指導医を務める著者・グループマン医師の憂慮に端を発したものだ。「優秀な」研修医たちは、臨床アルゴリズムやエビデンスについては豊富な知識を持っているが、注意深く話を聞いたり患者を観察したりすることについては、あまり興味がないようであった。患者の抱える問題の本質について深く考えようとしない研修医たちを見ている中で、ふと彼は思った。「医師はどのように考えるべきか?」と。

 生身の患者と向き合い、患者にとって最も効果的な治療法を選択する――その過程においては、どんな医師でも間違った診断をしてしまう可能性がある。そしてその大半は医師の知識不足ではなく、思考法の欠陥によるものであるという。そこで本書では、様々な「誤診」を通して医師の思考を探っていく。「どうやってよりよく思考できるかを理解すれば、間違いの頻度と重度を軽減することは可能だ」と彼は語る。これから臨床に出ていく医学生にぜひ読んでほしい一冊だ。

『医者は現場でどう考えるか』ジェローム・グループマン(著)/美沢 惠子(翻訳)/石風社/2,940円

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