地域医療ルポ
地域のみんなの「刺身のツマ」として
滋賀県東近江市 小串医院 小串 輝男先生
東近江市は、滋賀県の南東部に位置する人口約11.5万人の都市。小串医院のある五個荘地区は近江商人発祥の地といわれており、「三方よし」は、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」にちなんで「患者よし、機関よし、地域よし」を掲げている。

飄々とした佇まいで、誰にでも自身から明るく声をかける。いつも少し肩を下げた姿勢で、機会があるたびに周囲の人を惜しげなく褒め称える。自身を「アホ」と名乗るなど、とぼけた発言も魅力だ。「オードリー先生」という愛称で呼ばれ、多くの人に親しまれている。
大学病院で放射線科医として働き、留学もしたし、助教授も務めた。50代のころ、先代の院長である舅に「そろそろ帰って来い」と言われ、はじめて地域医療に足を踏み入れた。
「地域の医師会長になり、いろいろな会合に参加しているうちに、この地域の医療・介護を何とかしようと頑張っている人たちがいることがわかってきたんです。地域医療というと、医師が24時間365日休みなく診るという所も少なくない。しかし、これからは多職種が連携してやっていかなければならないし、ここならばできるのではないかと感じました。」
そうしてでき上がってきたのが、小串先生が代表を務める東近江地域医療連携ネットワーク「三方よし研究会」(以下、三方よし)だ。立ち上げから8年、会員は500名近くにのぼる。住民が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる町づくりを目指して、互いに顔の見える関係を構築している。
例えばメーリングリストでは地域の在宅医による往診の様子が共有される。患者さんの生活の様子だけでなく、認知症で徘徊のある患者さんに対するご近所の方の関わりや、看取りについてのご家族の思い、それに対する医師の対応…など、その内容は具体的だ。書き込みに対し、メンバーは自由に感想や思いを返信し、毎日のように、「こんな医療をしていこう」「良い取り組みを広めていこう」というやり取りを繰り広げている。
また月1回の定例会では、地域の医療機関や介護サービス事業所などが持ち回りで症例発表を行い、百名を超える多職種がフラットな立場でグループディスカッションを行う。「誰でも気軽に発言でき、楽しく参加できる雰囲気があるのは、小串先生が精神的支柱になっているから」と、メンバーは口を揃える。
「僕は自分が引っ張ってきたというより、みんなに引っ張ってもらっただけ。あくまでも『刺身のツマ』なんです。わかりあえる仲間がいるから、僕は前に出ずに『好きなようにやってくれ、どんなことでも責任をとるよ』と伝えています。
患者さんとご家族を中心に、ご近所をはじめとした地域のみんなが互いに助け合う心を育むのが、三方よしの目指すところと考えています。」



(写真中央)診療所の外観。
(写真右)「三方よし研究会」の様子。



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