日本医療小説大賞の創設
医療をテーマにした小説の表彰を通じ国民の医療への信頼・関心を高めます。
医療に興味を持つきっかけとして
昨今、医師や看護師などの医療関係者が主人公になったり、先進医療などの医療行為が題材となったりする映画や漫画、テレビドラマなどが数多く放映・出版されています。これらは、人々が医療に対して興味を持ち、理解を深めるきっかけになっています。このように様々なメディアにおいて「医療…」というジャンルが確立しつつある中、活字離れの影響もあり、文学界では「医療小説」というジャンルが定着していない現状がありました。
そこで日本医師会は、厚生労働省の後援、新潮社の協力のもと、医療に特化した文学賞として「日本医療小説大賞」を創設しました。この賞は、人々の医療や医療制度への興味を喚起し、医療関係者との信頼関係を深めることに貢献した小説に贈られます。第1回の選考会は2012年3月23日に開催され、審査員の篠田節子氏・久間十義氏・渡辺淳一氏(五十音順)によって、帚木蓬生氏の『蠅の帝国』『蛍の航跡』(いずれも新潮社刊)が第1回大賞に選ばれました。
この作品は、第二次大戦中の軍医たちの手記をまとめた短編集で、いずれも「軍医たちの黙示録」というサブタイトルがついています。医療者として戦争に赴き、一般の兵士とは違った目線で戦争を見てきた軍医たちの生きざまが、丁寧に描かれた力作です。膨大な数の資料をもとに、様々な土地に派遣された軍医たち30名の手記という形で、全て一人称で語られたこの作品は、読者に戦争の悲惨さをまざまざと感じさせます。例えば、『小説新潮』6月号にも掲載されている「蠅の街」は、1945年8月、原子爆弾が投下された後の広島に病理医として派遣された研修医の物語で、被爆による死者の解剖や、“原子病”に冒された人々への往診の様子が鮮明に描かれています。作者の帚木氏は授賞式で、「受賞できたことで、亡くなった軍医の方々のいい供養になったと感じる」と述べました。
なお、帚木氏は現役の精神科医ですが、この賞は決して医療関係者の作品のみを対象としているわけではありません。審査員の渡辺氏は選考を終えて、「医学に関わってきた専門家だけではなく、一般の作家や読者もこの賞の対象となるような作品を書いてほしい」と述べています。
今や、生まれてから死ぬまで、医療と無縁に生きることは誰にもできないと言っても過言ではありません。医療というテーマは、それだけ身近でなじみ深いものです。この賞では、自分が病に倒れたときのことや、身近な人の看病や看取りの経験などをテーマとした小説も「医療小説」と捉え、スポットを当てていくことで、人々の医療への関心をより深めていくことを目的としています。今後、様々な形で医療というテーマが取り上げられるきっかけになっていくことを期待します。
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