FACE to FACE
interviewee 守本 陽一 × interviewer 田邊 桃佳

田邊(以下、田):守本さんは、地元の兵庫県豊岡市で有志を募って地域診断をしたり、医療者や医療系学生が移動式屋台を使って地域住民と触れ合う「健康カフェ」を主催したりと、地域医療系の活動にとても積極的ですよね。でも、数年前に初めて出会った時は、守本さんは「救急医療が大好きな人」という印象が強かったです。守本さんの中で二つの分野がどうつながっているのか、ずっと聞いてみたいなと思っていました。
守本(以下、守):僕はもともと救急医療に憧れて医師を目指したんです。僕の地元の兵庫県但馬地域は、ドクターヘリの出動数が全国トップで、高校のすぐ近くにヘリの基地があったりして。今でも、ヘリの近づく音を聞けば何の機種かがわかるくらいの救急オタクです(笑)。
地域医療について考え始めたのは大学3年生の頃かな。自治医科大に入ってからも、しばらくは心肺蘇生の資格を取るなど、救急分野の活動ばかりやっていた。だけど、卒後9年間の大学の義務年限の間は自分の故郷で地域医療に従事する、という将来をだんだん真剣に考えるようになって、その9年間を有意義に過ごすために、今できることは何だろうと思って。それで始めたのが、地域診断の活動です。まずは街を実際に歩き、地理的な環境や社会資源を調べたり、住民や地域の専門職の方とお話ししたりして情報収集します。すると、「この地域は、地理的に在宅医療を行うのが難しそうだ」といった特徴が見えてくる。そこから具体的な地域の課題を洗い出し、住民と共に解決策などを話し合うんです。ただ、「地域診断」という名目だと、どうしても観察者の立場に立ってしまう。「健康カフェ」を始めたのは、もっと近い距離で地域に溶け込みたいと思ったのがきっかけでした。
田:守本さんは地域医療系の活動を始めてたった数年なのに、活動をしっかり形にしていて、本当にすごいですよね。一人でゼロから立ち上げるのって、大変ではないですか?
守:僕は、全部ゼロから作ったつもりはないんです。地域診断や健康カフェも、周りの人の活動を真似たものですから。面白い活動があったらとりあえず真似してみて、そこから少しずつ自分なりに改良していけばいいかな、というスタンスでいます。
田:今、将来についてどんなビジョンを持っていますか?
守:興味のあることがたくさんあって、正直、具体的なキャリアイメージは描けていません。でも最近は、今無理に進路を決める必要はないかな、とも思っています。とにかく9年間は義務年限があるし、その後も地域にはずっと関わっていくだろう。だったら、救急、総合診療、あるいは行政、どんな立場から地域に働きかけるかは、10年目までに考えればいいのかなって。
田:それを聞いて少し安心しました。私は大学の法医学教室で子どもの予防可能な死亡について研究していて、将来は子どもの死亡を減らすことに貢献したいと思っています。でもそれには、法医学・小児科・児童精神科・行政など様々な分野からのアプローチが考えられて。守本さんと分野は違うけれど、「立場は後から考えればいい」という姿勢は非常に参考になります。
守:何科を選び、何年目までに専門医を、という積み上げ型のキャリアにとらわれるのは、ちょっと息苦しいなと思うんです。僕らは幸い、「これがやりたい」というものが先に見つかった。今後もその思いを大切に、柔軟に活動していきたいですね。
守本 陽一(自治医科大学 5年)
1993年生まれ。兵庫県出身。大学進学後、“地域医療、地域医療”と言われるが、大学に地域を学ぶための環境がないと気付き、自ら学生コミュニティ、但馬ゆかりの医療系学生の集いを設立。地域の医療者と住民が手を取り合い、地域の健康を考えるまちづくりを目指し、兵庫県豊岡市などで活動している。今年、一緒に地域を探る仲間を絶賛募集中。
田邊 桃佳(横浜市立大学 4年)
私も故郷新潟の地域医療の現状から、より良い地域医療について考えを巡らせてきました。守本さんは積極的に地域と関わりながら、様々な分野をつなげ、また医療にとどまらない活動をされていて、とても関心を寄せています。この先、医師としてどこでどのように活躍されていくのか、ますます注目しています!
※医学生の学年は取材当時のものです。



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