case study 大腿骨頸部骨折の場合(前編)

事例2 77歳女性、一人暮らし。高血圧で降圧剤を内服中

日中、自宅近くのスーパーで買い物中に転倒し、大腿骨頸部を骨折して大学病院に緊急搬送された。レントゲン検査を実施して、Garden分類でStageⅢ。(転移型)と診断された。即日入院し、翌日、全身麻酔下で人工骨頭挿入術が行われた。

術後1日目から座位保持訓練や車椅子移乗訓練、2日目から歩行訓練を開始。杖を使った歩行が可能になる。

3週間の入院期間を経て、介護付き有料老人ホームに入所した。

 

 

 

お話を聞いた人

厚生労働省 保険局医療課

中谷 祐貴子先生

 

 

質問した学生

滋賀医科大学5年

坂井 有里枝

 

 

質問した学生

滋賀医科大学4年

木藤 寛敬

 

 

 

中谷先生:本症例も、搬送された医療機関がDPC/PDPS対象病院であったと想定して診療報酬を計算してみましょう。入院料や検査料、画像診断料などは包括評価に入りますが、手術料や麻酔料、術中に使用した薬剤料といった部分は包括評価ではなく出来高評価で計算します。

坂井:今回の事例では、大腿骨頸部骨折で、人工骨頭挿入術を行っていますね。「傷病名:股関節・大腿近位の骨折」「手術名:人工骨頭挿入術」の場合、入院期間12日目までは1日あたり2,462点、13日目から24日目までは1,820点で計算すると定められています。

木藤:次に、出来高評価部分を計算してみます。今回の場合の人工骨頭挿入術は、19,500点と設定されています。また麻酔料は、今回は「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔」を行ったと考えて、6,000点と計算します。それに、リハビリテーション料も出来高評価に入ってきますよね。

中谷先生:はい。また、手術料や処置料だけでなく、手術で使用した材料費や薬剤費も出来高評価で計算します。今回の場合、人工骨頭などの特定保険医療材料や、麻酔薬の費用も計上する必要がありますね。

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case study 大腿骨頸部骨折の場合(後編)

手術や麻酔は出来高評価

事例1では、脳梗塞の治療を軸としたDPC/PDPSの包括評価部分の点数が、点数全体のうちの大部分を占めていました。それに対して今回の事例2では、手術や麻酔などの点数が出来高評価で計算されるため、包括評価部分以外の割合も高くなってきます。そこでこのページでは、出来高評価部分の考え方や算定方法について見ていくことにしましょう。

基本的に、DPC/PDPSでの包括評価となるのは、主となる診療科での病棟管理の部分になります。ですから、手術室における手術や麻酔などは、DPC/PDPSでの包括評価に含まれず、出来高評価となります。

また、手術料や麻酔料は、基本的に個々の技術に対する報酬として設定されているので、医薬品や医療材料を使用した場合は、別途その費用を請求することができます。手術は、医師の持つ技術のうち専門性の高いものの一つですから、その技術に対する報酬はしっかり保証されていると言えるでしょう。

その他、急性期病院においては、リハビリテーションも出来高評価の対象となります。というのも、急性期における早期からのリハビリは、早期離床・早期退院を促進する効果があり、加算の対象とすることで入院期間の短縮を促すことができるためです。

 

適切な対価のために記録は大事

ここまでの2事例は、患者さんは退院までの間ずっと急性期病院にいる設定でした。しかし、近年急性期病院では在院日数の短縮が求められており、途中で転院する場合も少なくありません。その場合、診療報酬の算定はどのようになるのでしょうか。

急性期病院から転院する場合、通常は回復期リハビリテーション病棟や療養病棟をメインとする病院に移ることが多いです。この場合、転院先では出来高方式で医療費を算定することになります。

出来高方式では、入院料の種類や入院期間などに応じて、様々な点数の取り扱いがなされます。包括評価にせよ、出来高方式にせよ、診療の対価が医療機関にしっかりと支払われるためには、医療者が行った処置・行為等が、漏れなく正確に記録されていることが大事です。読者の皆さんも研修医になると、手術や麻酔に入る機会もあるでしょう。その際、どのような処置をしたかを記録するよう指示されることも多いと思います。術中の記録は、医療従事者が適切な報酬を得るためにもとても大切だということを覚えておいてください。