子どもたちの成長・発達と、
お母さんたちの社会復帰を支援する
~秋山 千枝子先生~(前編)
子どもたちの成長過程に応じた支援を
熊谷(以下、熊):秋山先生のクリニックは昨年20周年を迎えられました。開業のきっかけは何だったのでしょうか。
秋山(以下、秋):開業する前、私は障害児施設の嘱託医を10年ほど務めていました。施設では保育士・看護師・リハビリ職・歯科医師など、子どもたち一人ひとりに多職種が関わり、成長を見守っていました。そのうちふと、「障害のない子どもたちにも同じように関わった方が良いのでは?」と思ったのです。健常であっても、皆が心身ともに健康に育つとは限りません。障害のない子どもたちに対しても様々な大人が関わって、成長過程に応じた支援をしていく仕組みがあっても良いのではないかという思いが大きくなり、開業することにしました。
熊:開業後、秋山先生は広く事業を展開されています。どのような経緯だったのでしょうか。
秋:最初は病児保育から始めました。働くお母さんたちが子どもの急な病気の時に困っていることはわかっていましたし、私自身も子育てをしていた時、大変だったからです。病児保育はやりがいがあり、今度は病気になっていない子どもたちの保育もしてみたいと思いました。そこで認証保育所を設立し、小児科医として大切にしたい「生活リズムを整えること」「身辺自立ができること」「歩く保育で身体をつくること」を三本柱にした保育を提供してきました。
障害のある子どもたちに対しては、訪問看護事業と児童発達支援事業を展開してきました。というのも、私は障害児施設に勤めていた頃から、人工呼吸器での管理やたんの吸引などの医療的ケアを必要とする子どもたちのお母さんたちのことが気になっていたからです。当時、障害児の中でも医療的ケアを必要とする子どもたちは、市の施設では受け入れられない状況でした。そのため、お母さんたちは子どもに付きっきりで、働くことができなかったのです。そこで私は、子どもたちをデイケアで受け入れることで、お母さんたちの社会復帰を支援していきたいと考えたのです。
熊:先生のように、家族の支援もしてくれる医師がいると、とても心強いですね。
子どもたちの成長・発達と、
お母さんたちの社会復帰を支援する ~秋山 千枝子先生~(後編)
成長・発達を定期的にみて子どもたちの健康を維持する
熊:先生のクリニックで特徴的なのが、開業当初から続く早朝の一般診療だと思います。これも、働くお母さんたちのスケジュールに合わせた診療ということなのでしょうか。
秋:そうですね。勤務後に子どもを病院に連れて行こうとしても、診療が終わっていることが少なくありません。ですから、出勤前に連れて行ける早朝の方が、都合が良いのではないかと思いました。加えて、私自身が診療と育児を両立するためにも良いスケジュールだったのです。まず7時半から1時間だけ診療して幼稚園へ子どもを送り、9時半から診療を再開します。11時半にはお迎えに行き、子どもとお昼を過ごし、おやつを食べさせ、15時半から午後の診療を行います。夜は子どもと一緒にいたいので、17時半には診療を終わらせていました。
熊:なるほど、そうやって時間を上手に使っていらしたのですね。スタッフの方々に早朝診療の重要性を理解してもらうには、難しさもあったのではないでしょうか。
秋:いいえ、スタッフも早朝診療をしているうち、この時間に診療をすることの大切さをわかってくれるようになりました。というのも、実は一日の中で早朝の診療件数が最も多いのです。早朝診療の様子を見ているだけで、一日のだいたいの動きが予想できるくらいです。スタッフの理解があるからこそ、この早朝診療を続けられていると感じます。
熊:今後力を入れていきたいことなどはありますか?
秋:健診と健康教育です。健診は私たち医療者にとって、子どもたちの成長や発達をみる、とても良い機会だと思います。東京都の6か月健診・9か月健診のように、細かく成長をみていくことが必要だと感じています。また、近年まで3歳児健診の次は就学時健診という流れが一般的でした。すなわち、幼稚園・保育園に通う子どもたちに、専門家が介入する機会が少なかったのです。特に発達障害は、子どもが集団生活をし始めるようになってから気が付くケースが多いですから、5歳児健診をもっと根付かせていく必要があると思っています。
熊:先生は東京都医師会の次世代育成支援委員会で、「5歳児健診事業-東京方式-」の立ち上げにご尽力なさいましたものね。親が気付かないケースも多いことを考えると、専門家が支援できる体制づくりは重要ですね。
秋:さらに言えば、学校保健の枠組みの中にも、かかりつけ医が子どもたちの成長・発達をみられるような機会がもっとあった方が、早期介入ができて良いと思います。
熊:先生は2016年から、医師として初の東京都教育委員会の委員も務められていますから、教育現場にも医療側の意見を伝えてくださると期待しています。
秋:はい。東京都教育委員会の委員として、健康教育がより普及するよう協力を仰ぐなど、子どもたち一人ひとりが健康に育っていけるような働きかけをしていくことも、今後の抱負です。
やりたいことを続けるために「これだけは」を諦めない
熊:最後に、診療以外の場面でも様々な役職を務められ、精力的に活動されている先生に、その秘訣を伺ってみたいです。
秋:まず、独りで抱え込まないことですね。開業当初から、近隣の先生方や医師会には大変助けていただきましたし、現在もスタッフの協力と理解があってこそ続けられていると感じます。
独りで抱え込まないというのは、学生さんにとっても大切な心がけだと思います。基礎的な力を身につけたうえで、もし「こうした方が良いのではないかな」と思うことがあったら、積極的に口に出して、先輩方に相談するのが良いと思います。そうすると、色々な人がその気付きに対して意見を言ってくれます。その意見を聞きながら、自分の方向性を定めていってください。そのうちに、小さな気付きが堅固な土台となり、実現へとつながることでしょう。
それから、「絶対にやりたい」と思うことは諦めないことも大切です。私がここまで色々なことを実現してこられたのは、どうしてもやりたかった乳幼児健診を、「これだけは絶対に続けたい」と思って積み重ねてきたからかなと思っています。出産・育児などで、他のことは一時的にできない時期があるかもしれない。その中でも、絶対にやりたいことだけは何とか続けてみてください。その積み重ねはきっと、その先の自分のあり方につながっていくと思います。
語り手
秋山 千枝子先生
あきやま子どもクリニック院長、東京都教育委員会委員
聞き手
熊谷 みどり先生
日本医師会理事(取材当時)
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