看護師(皮膚・排泄ケア)【後編】(1)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療のパートナーとして看護師と関わることになるでしょう。本連載では、22号より、様々なチームで働く看護師の仕事をシリーズで紹介しています。今回は、東京逓信病院の皮膚・排泄ケア認定看護師、宮本乃ぞみさんと秡川恵子さんにお話を伺いました。

今回は、前号(26号)に引き続き、皮膚・排泄ケア認定看護師を紹介します。前号に掲載した前編では、皮膚・排泄ケア認定看護師の資格と業務内容について取り上げました。後編では、皮膚・排泄ケアの重要性や、患者さんとの関わりなどについてお話を伺います。

褥瘡のケアの仕方

先生

――お二人は認定看護師として、院内の褥瘡の発生データなどをとって分析しているそうですね。

秡川(以下、秡):はい。褥瘡というと、高齢の方にできやすいという印象があるかもしれませんが、データをとって調べてみると、そうとも限らないことがわかります。褥瘡の原因は、圧迫や摩擦などの外力によって皮膚の血流が途切れることです。そのような状態になれば、高齢者に限らず、若い人や赤ちゃんにも褥瘡は生じます。手術時間が長かった場合、手術中に褥瘡ができてしまうこともあります。

宮本(以下、宮):また、寝たきりの方にだけできるとも限りません。特に高齢者の場合は、独居の方も、家族と同居の方も、日中は一人で家にいることが多くなります。座りっぱなしでテレビを見たりして過ごしていると、座りだこが悪化して褥瘡になってしまうことがあります。寝たきりの方の場合、周囲も注意を払うのですが、このように少しは動ける方の方が褥瘡が気付かれにくく、悪化させてしまうリスクが高くなるんです。

――褥瘡ができてしまった場合、どのようにケアするのですか?

:褥瘡は、血流を阻害している原因を除いて環境を整えれば、皮膚が元々持つ自然治癒力で治っていくものです。ですから、まずは原因を探して取り除くことから始めます。例えば寝たきりの方の場合、体圧を分散できるマットレスに変えたり、体の向きを変える際、クッションの入れ方を変えたりします。原因を取り除けたら、次は環境を整えます。栄養状態が悪い方にはNSTチーム*1に、ADLが低下している方にはリハビリ科に介入してもらうなど、必要に応じて他職種の協力も仰ぎます。

:ただ、患者さんによっては、「褥瘡が治っている」状態がゴールにならないこともあります。例えば緩和ケア病棟に入院されていて、腹水などでお腹の張りを訴えている患者さんは、血流を良くしようと体の向きを変えると、お腹が苦しく感じてしまったりします。このように、褥瘡の原因自体を取り除くことが難しい場合は、患者さんが安楽に過ごせて、かつ褥瘡を今より悪化させないようにすることを目指してケアをしていきます。

 

*1NSTチーム…栄養サポートチーム。

 

看護師(皮膚・排泄ケア)【後編】(2)

心と体の両面をケアする

――次に、ストーマ*2ケアについて伺います。ストーマを持つ患者さんにはどのような関わり方をされているのですか?

:ストーマは、がんや炎症性腸疾患といった病気などを治すために造設するものです。ストーマを持つ患者さんには、日常生活のサポートはもちろん、精神面のケアも非常に重要です。

当院にはストーマ外来があり、私たちは医師と協力しながら、退院後の患者さんをフォローしています。退院直後は1か月に1回通院していただき、問題がないようなら、3か月に1回、半年に1回と、少しずつ間隔を空けていきます。

ただ、例えば化学療法を行っている患者さんでは、特に皮膚トラブルが出やすかったり、指先がしびれてしまったりして、セルフケアを負担に感じてしまう方も多いため、通院の頻度を上げてより細かくサポートします。また、セルフケアには問題がないけれど、月に1回外来に来られる方もいます。ただ世間話をしているだけなのですが、そうすることが安心につながっているそうで、これも大事なケアの一環かなと感じています。

:実は私たちは、ストーマ造設前の段階から患者さんに関わることも多いんです。例えば、ストーマについて一通り説明を受けたけれど、まだ意思決定に踏み切れないという方には、私たちが追加でご説明やご相談に伺ったりします。

:ストーマ造設手術の前には、マーキングといって、ストーマを作る位置を決めて印をつける作業があります。当院では、マーキングの時には、皮膚・排泄ケア認定看護師が必ず立ち会うようにしています。印をつけた場所は、患者さんが今後一生付き合っていくことになる大切な場所ですから。それにマーキングは、患者さんが「これからストーマを作るんだな」という意識づけにもつながります。

――患者さん自身が「ストーマを作る」という意識を持つことは、やはり重要なのですか?

:はい。一時的に造設する場合を除き、ストーマを造設すると、患者さんは永久的に排泄機能を失うことになります。ただストーマの場合は、事故などで突然機能を失うのとは違い、術前に「これから排泄機能を失うんだ」と予測することができます。術後、社会復帰に前向きに取り組んでいくためには、事前に心の準備をして、ストーマの存在を受容する時間がとても大切なんです。

患者さんの気持ちに寄り添う

――ストーマケアで特に意識していることはありますか?

:ストーマを作った後も、それまでのQOLが維持できているかということは、一つの指標として意識しています。例えばよく旅行に行っていた人が、ストーマ造設後にあまり行けなくなってしまったとしたら、本来の生活とは言えませんよね。

元の生活がどうだったか、今後どんな風に生活したいかという希望は、患者さんによって全く異なります。私たちはじっくりお話を聴いて、その人にとって何が本当に大切なのか探り、支援するようにしています。

:長年ストーマを装着していて、ちゃんとセルフケアできていた方が、高齢になったりご病気をされたりして、一人でケアをするのが難しくなることもあります。でも、そういった患者さんは「家族に迷惑をかけたくない」とおっしゃり、ご家族も「手助けすると本人が嫌だろう」と気を遣うなど、お互いに遠慮しあってしまうことも多いんです。私たちは、ご本人の気持ちを尊重しつつ、時期や状況を見て、ご家族にお声がけすることがあります。するとご家族も、「実はずっと、手助けしたいと思っていたんです」と言ってくださったりするんです。

:ストーマで生活することを本当に受容できているか、ということも気に留めています。受容できているか判断する目安として、セルフケアができているかということが言われますが、手術から何年も経って、セルフケアも十分できている方が、「本当はこんな手術をしたくなかった。家族にもこんな気持ちは打ち明けられない」とこぼされることもあるんです。

:一方、「この方はストーマを受容できているようだな」と感じられる瞬間もあります。以前、若い女性の患者さんが数年ぶりに外来を訪れたことがあります。その方は少し前、ストーマのことを気にかけて行動しなければならない状況があったそうです。でもご自身はそのことをすっかり忘れていて、ご主人に「ストーマのことは大丈夫なのか」と言われてやっと気がついたそうです。その方は、「私はストーマのことを忘れていられるくらい、今の生活に満足しているんだと思います」と話してくださいました。

私たちが一方的に「受容できているだろう」と判断するのではなく、こうした具体的なエピソードを通じて患者さんの本当の気持ちを汲み取り、ケアしていきたいですね。

*2ストーマ…手術などによって腹壁に作られた、便や尿の排泄口。患者自身の腸や尿管を腹部の外に出して作られ、ストーマ用の装具を貼って、排泄物を受け止める。

榎本 英子さん宮本 乃ぞみさん(写真右)
東京逓信病院
皮膚・排泄ケア認定看護師

秡川 恵子さん(写真左)
東京逓信病院
皮膚・排泄ケア認定看護師