医師への軌跡
医師の大先輩である大学教員の先生に、医学生がインタビューします。
問診と身体診察はこれからの医師にも必須のスキル
中野 弘康
聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科 助教
手を当て、話を聞く
石井(以下、石):5年生の臨床実習で先生にご指導いただき、患者さんに手を当て、話を聞くことを重視する姿勢に、「私の理想とする医療はこれだ」と感動しました。大学病院の医療では問診や身体診察よりも検査を優先する雰囲気を感じたこともあったので、衝撃的だったんです。先生は、問診と身体診察の必要性をどのようにお考えですか?
中野(以下、中):問診と身体診察は、患者さんとのコミュニケーションの手段として不可欠なものだと思います。というのも、患者さんの不安を受け止められるのが問診と身体診察だからです。患者さんの多くは、不安を抱えて病院にいらっしゃっています。そんな患者さんの話を聞きもせず、いきなり検査では、不安が増したり、医師への不信感につながってしまう可能性もあります。検査をするにしても、問診でしっかり訴えを聞き、身体診察を経て「こういう病気が考えられるので、この検査をしましょう」と言われたほうが安心するでしょう。しかし、「初めてこんなに親身に話を聞いてもらえた」と喜ばれることがあるのが現状です。喜んでいただけて嬉しい反面、それだけ患者さんの話に耳を傾けない医療が当たり前になっていることに寂しさも覚えてしまいます。
石:研修医・医学生の指導をするなかで、どんなことを感じていますか?
中:設備が整った病院の研修医は、検査に頼りがちな傾向があるかもしれません。例えば大きな病院では、CTやMRI等の高価な医療機器にボタンひとつでアクセスでき、常駐する放射線科の医師が読影してくれる仕組みがあったりします。経験が少ない医師にとって、それが安心なのはわかります。しかし、病歴や身体診察の詳細な検討をスキップして漫然と撮った画像では、異常を指摘し損ね、本来の病歴とは関係のない病変に振り回されて結果的に正しい診断にたどり着けず、患者さんの予後を悪化させるリスクもあります。検査はもちろん有用ですが、当てずっぽうではなく、狙いを定めて検査に出すというプロセスが必要だと思います。
未曾有の超高齢社会に突入している今、複数の慢性疾患を抱える高齢の患者さんの場合、「いかに治すか」ではなく「病気とどう付き合っていくか」という視点が重要になってきます。そのためには医師が患者さんやご家族と信頼関係を築いていくことが大事です。私は、問診や身体診察を重んじ、人の心身に寄り添ったケアができる医師を育てたいと思っています。
知識や興味を大切に
石:私自身も、中野先生との出会いで問診や身体診察の重要性に気付けました。そういうことを大事だとするカルチャーがある病院や医師に出会うことが第一歩なのかなと思います。
中:患者さんと接する時間を取りやすいのは、医学生や若い医師の強みです。「医師としてのスタイルは、最初の5年間で決まる」とよく言われます。ぜひ医学生のうちに、そういう病院や医師に出会って、患者さんとのふれあいから情報を得ることの重要性に気付いてほしいですね。
石:学生時代にはどんなことを学べばいいでしょうか?
中:学生時代は医学部での勉強だけでなく、コミュニケーションの幅が広がるような知識や興味を大事に養ってほしいです。音楽や絵画・映画などのアートを語れるとか、旅行やグルメが好きだとか、そういうことが患者さんとの何気ない会話のきっかけにもなります。
最先端の技術を駆使して高度な医療を提供する医師も必要ですが、大多数の医師は、患者さんの日常に向き合う「ふつう」の医師です。患者さんの訴えや言外の所見から様々なことを読み取れる、感性豊かな医師がたくさん増えてくれることを願っています。
中野 弘康
聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科 助教
2008年東邦大学医学部卒業。大船中央病院で臨床研修。現在、川崎市立多摩病院消化器・肝臓内科医長として勤務。日本内科学会認定内科医。日本消化器病学会消化器病専門医。
石井 大太
聖マリアンナ医科大学 6年
このインタビューが掲載される頃には医学部を卒業し、研修医になっている予定です。今回お話を伺って、患者さんと話す、患者さんの体に手を当てることの重要性を改めて認識できました。中野先生のような人間味のある医師を目指して、春からの研修に臨みたいと思います。



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- 医師への軌跡:中野 弘康先生
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