他者を知る 対話する

対話し、意見を出すことが必要

ここまで見てきたように、「多様性のある組織」のあり方も、非常に多様です。組織を構成する人が様々な属性を持っている以上、「こうすれば全員が納得できる」といった唯一解はありえません。

もちろんこれまで通り、産休・育休、時短勤務などの制度を充実させたり、過重労働を減らすといった取り組みを続けていくことも必要です。そのうえで今後は、一人ひとりが「こういう仕組みや配慮が欲しい」「それでは負担が一部に偏りすぎる」と意見を出し、それについて関係者が議論し、譲歩し合いながら、落としどころを見つけていくことが求められるでしょう。

ですから、医学生や若手医師の皆さんには、先輩と後輩、性別、仕事に対する価値観といった違いを超えて、様々な人と対話をしてほしいと考えます。あるいは組織の中だけに限らず、家族やパートナーと対話することも必要かもしれません。対話を通じて互いの要望や不安を知り、信頼し合える関係性を築くことが、結果として多様なあり方の実現につながるはずです。

しかしながら、12~15ページの医学生座談会の場でも話題になったように、実際には「医学生や若手医師が上司に意見を言うのは難しい」と感じる人も多いでしょう。また、社会的にマイノリティとされる人の場合、同僚などの一見対等な間柄の相手との対話であっても、マジョリティの人に意見を述べることに気後れや抵抗を感じることもあるでしょう。

そうした立場の差を乗り越え、本当に対等に意見を交わせるような対話の場を設けることは、確かに難しいことです。まずは皆さん一人ひとりが「自分とは異なる立場の人と対話しよう」という心持ちでいることが、対話への重要な一歩になるのではないでしょうか。

他者を知り、多様であることを知ろう

読者の皆さんの中には、「意見なんてない、どんな意見を言えばいいのかよくわからない」という人もいるでしょう。

それに関連して医学生座談会では、医学生にもできることとして、「まず他者を知る」という意見が出ました。まずは外の世界で何が起こっているのかに興味を持ち、「こんな人もいるんだ」「こんな考え方もあるんだ」と知ることは、とても刺激になるはずです。皆さんの見識を広げ、自分のあり方や今後の働き方を見つめ直すきっかけになるに違いありません。

地方の大学などでは特に、多様な人と知り合う機会は多くないかもしれません。そんなときは、各大学や自治体、都道府県医師会などが開催するダイバーシティ推進や男女共同参画等のイベントなどがきっかけになることもあるでしょう。またドクタラーゼは、医学生の皆さんが他者と出会い、外の世界とつながるためのプラットフォームとして、今後も様々な機会を提供していく予定ですので、皆さんにもぜひ活用していただきたいと思います。