ケーススタディ 倉敷スイートタウン
回復期・慢性期の現場に行ってみました!(前編)
ここからは、実際の回復期・慢性期の現場をご紹介します。
まずは、現場で活躍する多職種の方々のお話を伺いました。
お話を聞いた方たち
山本 久美子さん
病棟看護師
田中 理絵さん
病棟看護師
新名 早希子さん
医療ソーシャルワーカー(MSW)
藤田 慎一朗さん
リハビリテーションセンター センター長
【施設紹介】
複合型の地域包括ケア拠点「倉敷スイートタウン」
▽倉敷スイートホスピタル(病院)
医療的なケアを必要とする、急性期から慢性期の患者さんが入院する、196床の病院です。
▽倉敷スイートレジデンス
(サービス付き高齢者向け住宅)
病院と同じ建物内にある、130室の高齢者住宅です。在宅療養しながらも医療的なサポートを必要とする方が多く入所しています。
ご本人・ご家族の思いを踏まえて
自宅での生活につないでいく
――この病院にはどのような患者さんが入院されていますか?
新名(以下、新):急性期病院で治療を終えられた方が転院してくるケースが多いです。ご高齢で、肺炎や感染症によってADLが低下した方、整形外科の手術後の方などが主ですね。他にも脳卒中や心疾患、がんの末期の方などもいらっしゃいます。また当院には障害者病棟がありますので、神経難病の方や重度の障害がある方なども入院されています。
――急性期病院からこちらに転院する際の、大まかな流れを教えてください。
新:医療ソーシャルワーカー(MSW)が窓口となり、事前に急性期病院のMSWや看護師から、患者さんの病状や転院の目的などの情報を得ます。その後、院内の多職種で情報を共有します。
山本(以下、山):病棟で受け入れるにあたっては、患者さんの状態や医療・ケアの必要度を考慮して、入る病室を調整します。急性期病院に比べると看護師の数も少ないので、気管切開や胃ろうのある患者さんは、看護師が見やすい部屋に入っていただくなどの工夫をしています。
新:転院にあたって、患者さんご本人やご家族が不安を抱えている場合や、転院後の療養生活についてイメージできていない場合には、事前に面談を行い、しっかりと説明を行っています。急性期病院の入院期間が短くなるなかで、ご本人・ご家族が「医療機関の都合で転院させられた」などと感じないように丁寧に配慮しながら、受け入れの準備を進めています。
――受け入れ後は、どのような点に気をつけながらケアを行っていますか?
新:転院相談を受けた直後から、当院を退院した後のことを想定して、退院調整を始めるようにしています。自宅に帰ってからどのように過ごしたいか、患者さんご本人やご家族の思いを聞き、かつリハビリによるADLの評価を踏まえて、在宅復帰後のサービスの組み合わせを考えていきます。当院はまさに、急性期と在宅の間をスムーズにつなぐクッションのような役割を果たしていると思います。
藤田(以下、藤):リハビリは、機能を回復することだけを目標とするのではなく、退院後の生活に必要な機能の維持や、自宅の環境設定を重視しています。訓練プログラムを作るうえでは、自宅の状況を把握しておくことが非常に大切です。ケースによっては患者さんの自宅に足を運び、身体能力に合わせて、手すりの設置や動線の確保、段差の解消といった住宅改修の提案を行うこともあります。
田中(以下、田):例えば自宅のベッドが右寄せであれば、病室のベッドも右寄せにして、病棟でも自宅を想定した生活をしていただくようにしています。
山:また、ご家族の不安を軽減することも大切です。自宅に帰ってからご家族がどのように介護されたいかという思いを聞いたうえで、リスクなども踏まえ、どのような関わり方ができるかをお伝えしています。
――入院の段階では自宅に帰ることを目指していても、場合によってはこのまま自宅に帰るのは厳しいという判断をすることもありますか?
山:もちろんあります。認知の度合いや、転倒のリスク、独居であることなどが判断の基準になる場合が多いですね。
新:ただ、患者さんご本人が「自宅に帰りたい」と言っているのに、こちらが一方的に「帰れません」と言うだけでは、信頼関係が崩れてしまいます。どういう思いで「帰りたい」とおっしゃっているのかによっては、一旦老健や特養、介護サービス付きの住宅などに入居し、そのうえで在宅復帰を目指していただくよう提案することもあります。私たちが正しく情報を提供し、ご本人やご家族に選択していただくことが大切なので、納得いただくまで何度も話し合いを重ねるケースもありますね。
ケーススタディ 倉敷スイートタウン
回復期・慢性期の現場に行ってみました!(後編)
病状や治療経過だけでなく
その人のこれからの生活を考えて
――こうした現場で働くうえで、共に働く医師にはどんなことを期待しますか?
藤:医師に限らずですが、リハビリ・MSW・看護師・栄養士など、現場で働く多職種がしっかりと方針を共有し、足並みを揃えて患者さんと向き合うことがとても大事だと思います。
新:医師の先生方には、ぜひ疾患だけでなく、患者さんの背景も一緒にみていただきたいと私は思っています。疾患の治療も大切ですが、患者さんには人生があり、今までの生活があり、これからどう生きたいかという思いが絶対にあります。そして、それを聞いているのは、看護師やリハビリ、MSWだったりします。
田:日頃から患者さんと一番関わっているのは看護師なので、看護師が観察している内容を共有することができたら、患者さんの生活がよりイメージできるのではないかと思います。
新:だから先生方には、ぜひ私たちの声を聞いて、患者さんの今後のことを一緒に考えていただきたいですね。
――急性期病院で働く医師や他職種に伝えたいメッセージがあれば教えてください。
田:患者さんの情報が、急性期病院に入院した時のまま更新されていないことがあります。充実したサマリーでなくてもいいので、ぜひ直近の状況を教えていただきたいですね。また、病状と治療経過だけでなく、急変時はどのような状況だったのか、ご家族にどこまで病状を説明されているのか、ご本人やご家族はどう受け止められているのか…といった周辺情報があると、とても助かります。
藤:リハビリも同様で、身体機能に関することだけでなく、その方の生活に関連した情報が少しでもあると助かりますね。また急性期病院から転院してきた患者さんで、主となる病名以外の症状・合併症の情報が申し送られないことがあります。どの病名に対して、どんな目的でどのリハビリをするか、という情報をきちんと教えていただければ、スムーズに受け入れることができると思います。
新:さらに、急変したときにはどうすればいいか、ご家族に少しでも話をしておいてもらえると大変助かります。というのも、その先の生活のことを考えると、何かあったときの対応はとても大事だからです。ご家族にあらかじめ心構えがあると、当院の医師が説明する際にもスムーズに伝わりますし、いざというときに適切な対応をしていただけるように思います。
細かいことではありますが、どれも患者さんのために必要な情報なので、MSWが急性期病院に電話して確認することもよくあります。こちらから連絡しなくても、あらかじめ情報提供をしていただけたら、とても嬉しいですね。
CASE1
Aさん(70代・男性)
・脳卒中を繰り返し、ほぼ寝たきり状態(要介護5)であった。妻の介護のもと、自宅で生活していた。
・呼吸苦で急性期病院に救急搬送され、誤嚥性肺炎と診断される。入院中にCO2ナルコーシスが起こり気管切開。
・状態が落ち着いたので、リハビリと在宅復帰を目指して倉敷スイートホスピタルに転院。
・コミュニケーションはYes/Noが表明できる程度。
事前に奥さんと面接をし、患者さんの状態はもちろん、奥さんの思いなども聞き取り、院内で共有した。また、入院時から退院を見据えて、在宅復帰のための調整を始めた。
できるだけ離床時間を増やし、廃用症候群を予防するためのリハビリを行った。また、奥さんの介助で車椅子に移る際、無理なく介助が行えるよう助言をした。
「できるだけ自分でケアしたい」という奥さんのご希望を叶えるべく、入院中から奥さんに痰の吸引などの指導を行った。
CASE2
Bさん(90代・女性)
・一人暮らし。要支援2と認定され、介護ヘルパーを利用して自宅で生活していた。
・インフルエンザでADLが低下した後に下血の症状が出て、急性期病院に入院。直腸潰瘍と診断され、内視鏡手術で治療した。
・今後の一人暮らしは難しいと判断され、息子さん家族との同居も視野に入れながら、リハビリを目的に倉敷スイートホスピタルに転院。
住み慣れた地域を離れ、ケアマネジャーも変わったため、より丁寧に情報を共有。ご本人の意欲が高まるよう、生活がイメージできるような福祉用具の提案を多職種で行った。
MSWやケアマネジャーと共に家屋調査に出向き、ご本人もご家族も無理なく生活できるような環境の提案を行った。調査を踏まえ、自宅での生活を想定した訓練プログラムを作成。
入院中はトイレとおむつを併用したが、自宅での排泄はどうするか、ご本人・ご家族の希望を聞きながら介助指導を行った。また下血があった際はすぐに相談するよう働きかけた。
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- 医師への軌跡:藤谷 幹浩先生・尾川 直樹先生
- Information:Summer, 2019
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