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【病理】勝矢 脩嵩先生
広島大学大学院 医系科学研究科 分子病理学 -(前編)

勝矢先生

――病理医はどのように経験を積んでいくのですか?

勝矢(以下、勝):一般に、病理科に出される検体の7割ほどを消化器が占めているため、まずは消化器について、がんか否か判断できるようになることを目指します。広島大学には病理系の研究室は三つあり、当研究室は主に消化器が専門のため、たくさんの症例を診ることができます。また、消化器以外の臓器の標本を診たり、術中迅速診断の経験を積んだりするために関連病院に出向くことも多いです。

消化器に関して言えば、私は入局後2年ほどでがんか否かは大分見分けられるようになりました。ただ、大腸よりも胃の方が難しく、いまだに迷うものが多いです。典型的ながんが見分けられるようになると、次は難度の高い炎症性疾患や軟部腫瘍などの診断を身につけていきます。

専門医資格を取ると、ダブルチェックなしに自分一人で診断がつけられるようになることが求められます。それまでに診断力を磨かなければならないので、若いうちから標本をたくさん診るよう指導していただいています。生検の場合は、1例につき5~6分で診断をつけることができますが、手術材料の場合は、断端や脈管侵襲などを細かく診る必要があります。標本を複数切り出してその全てを見るので、材料一つを診断するのに少なくとも30分はかかります。

――手術材料から標本を作るところは病理医が行うのですか?

:はい。病変部を肉眼で確認し、写真を撮った後にホルマリン固定を行います。固定後、取り扱い規約に沿って標本を作成します。手術材料を診る場合、標本の切り出し方で全てが変わると言っても過言ではありません。切り方を誤ると、診るべき箇所が標本にならずに二度手間になることや、標本を再度切り出すことができず評価不能になってしまうことすらあります。自信がなければ全割して全て標本にすることも可能ですが、その分時間もかかってしまいます。診断には正確さと同時にスピードも求められるため、顕微鏡で診る前に、まずは手術材料全体を肉眼的に丁寧に診るように指導されています。

――最終的に診断をつける際は、どのように判断していますか?

:まず、肉眼所見と顕微鏡で診たときの所見を突き合わせて、結果が乖離していないかを確認します。また、臨床医に提出していただいた臨床所見との比較も行い、矛盾していないかも確認します。もちろん顕微鏡で見えた結果以外を所見に書くことはご法度ですが、一方で臨床所見を無視して顕微鏡像からの情報だけに頼っても、正しい診断にはなりません。臨床医と病理医の間で所見が異なる場合は、すぐに電話をかけて確認するように指導されています。

 

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【病理】勝矢 脩嵩先生
広島大学大学院 医系科学研究科 分子病理学 -(後編)

――先生は、入局と同時に大学院に入学されていますね。

:はい。入局4年目に専門医資格と学位を同時に取れるところが当研究室の魅力です。当研究室では、外科や泌尿器科など他科の先生も多く研究されているので、臨床医ならではの視点や、検体を出す側として、診断で病理医に期待していることなどを教えていただいています。

――現在の研究内容について教えてください。

:現在は、大腸がんにおけるインテレクチン–1という糖タンパクの発現とその意義について研究しています。腸管上皮細胞に、杯細胞という粘液を産生する細胞があり、これが正常細胞の場合はインテレクチン–1が発現しますが、がん細胞では発現しなくなります。杯細胞でのインテレクチン–1の発現と比較して、それが新しい治療因子やマーカーとして使えないか調べています。また、症例によってはがん細胞からもインテレクチン–1が発現していることがあります。発現がある症例ではそうでないものと比べて予後が良いこともわかってきており、それらについて論文にまとめたいと考えています。

――最後に、医学生に向けてメッセージをお願いします。

:病理診断科には若手が少ないのでは、と心配する方もいるかもしれません。その点、当医局では年次の近い先生も多く、若手なりの苦労や悩みを共有できています。また、もし入局先に若手が少なくても、近年は医局を超えた同世代との学び合いや交流の機会も確保されています。例えば中国・四国では年に数回、若手の会が開催されています。興味のある方はぜひ、病理診断科を選択肢の一つに考えてほしいと思います。

 

医学部卒業2015年
三重大学医学部 卒業
薬学部で、マウスを使って先発医薬品とジェネリック医薬品の効果を比較する研究を行った後、三重大学の医学部に再入学しました。
卒後1年目 県立広島病院
臨床研修
生まれが広島だったこともあり、研修先も広島の病院を選びました。この頃は神経内科に興味を持っていましたが、2年目に病理診断科を回ったことがきっかけで病理に興味を持つようになりました。
卒後3年目広島大学大学院 医系科学研究科
分子病理学 入学
遺伝子の研究に興味があり、消化管の分子病理学的研究で評価の高い当研究室に入局することにしました。
卒後5年目広島大学大学院 医系科学研究科
分子病理学

 

1day

*CPC…臨床-病理検討会(Clinico-Pathological Conference)。病理解剖例について、臨床医と病理医が集まって検討する。

勝矢 脩嵩先生
2015年 三重大学医学部 卒業
2019年7月現在
広島大学大学院 医系科学研究科 分子病理学