日本医師会の取り組み
勤務医と医師会

医師会が勤務医の先生や若手の先生の意見を掬い上げることの重要性とそのための取り組みについて聞きました。

今回は、城守国斗日本医師会常任理事に、担当分野である「勤務医」に関する活動についてインタビューを行いました。

全ての医師の意見を集約する

――医師会はしばしば「開業医のための団体だ」と捉えられがちですが、勤務医と医師会の関係は、どのようなものなのでしょうか?

城守(以下、城):まず大前提として、医師会の役割について確認したいと思います。医師会は患者や国民に良い医療を提供する体制を構築していくために、国に医療政策を提言している団体であり、地域医療の主役です。

わが国の医療提供体制は、勤務医・病院経営者・開業医・研究者など、様々な医師によって支えられています。医師会はそれらの医師全ての代表であり、様々な立場の医師の意見を、バランスを取りながら集約し、政策提言を行っています。だからこそ国は、医師会の意見を「全ての医師を代表した意見」と捉え、政策を決定しているのです。そして医師会は、地域の医療提供体制を支えるための活動を主体的に推進しています。

――城守常任理事は日本医師会の勤務医担当として、勤務医会員の意見を医師会活動や政策提言に活かすための活動をされていると伺いました。

:はい。現在、日本医師会の会員の約半数を勤務医会員が占めています。しかし、勤務医の先生方は医師会活動に積極的に携わる機会があまり多くはなく、その声を政策に結び付けることが難しいのです。そこで日本医師会では、勤務医の先生方の意見や医療現場の声を聴く場として「勤務医委員会」を設置しています。私はこの委員会の担当者として日々活動しています。

勤務医の先生方に直接関わってくる今日的な課題としては、「医師の働き方改革」や「専門研修に関する制度」などが挙げられるでしょう。医師会としてはぜひ、多くの勤務医の先生方の意見を聴いていきたいと思っています。しかし、勤務医の先生や若手の先生にとって、医師会はまだまだ遠い存在のようですね。医師会の活動に興味を持っていただき、様々な声を寄せてもらうところには、なかなか苦労しています。

勤務医の意見を集めるために

――勤務医の声を聴くための工夫について教えてください。

:私は地元の京都府医師会の副会長をしていた時、「若手ビジョン委員会」を立ち上げました。京都府下の各医師会や、京都府医師会の勤務医部会から、50歳以下の先生方を推薦していただき、40名ほどの先生にご参加いただいています。そこでは、医師会から一方的に伝達事項を伝えるのではなく、「医療に対して先生方はどう思っているか?」「医師会に対してどのようなイメージがあるか?」といったテーマで議論していただいています。私は議論の中心に入って仕切るのではなく、議論を横で聴きながら、委員の皆さんに「辞書代わり」に使っていただくようにしています。議論するなかで何かわからないことが出てきたら、用語の意味や背景知識、医師会としての立場や見解などをわかる範囲でお答えして、議論の助けにしていただくのです。

現在、若手ビジョン委員会の参加者はかなり増えました。参加者からは、「医師会の目指すところがわかった」「情熱が伝わる」といったありがたい感想を頂き、手応えを感じています。こうした場を通じて、勤務医の先生方を含む若い人たちの考え方や問題意識を拾い上げ、政策提言や医師会活動につなげることも、日本医師会の勤務医担当として重要な役割ではないかと感じています。

私と医師会活動
医師会への入会は、自分の意見を国に届ける手段

――城守常任理事が医師会活動に関わるようになったきっかけを教えてください。

:病院経営に関わるようになったことがきっかけです。私は医師になって20年ほど、勤務医として働いていたのですが、実はその頃は医師会に入会もしておらず、医師会活動には全く関心を持っていませんでした。当時勤めていた病院で「この病院を、患者さんから信頼される、地域で一番の病院にしよう!」と奮闘するなか、ある日親族から「うちの病院の経営を手伝ってほしい」と頼まれ、しぶしぶ引き受けることにしたのです。

経営者になって初めて、「国の政策によって病院はこれほど影響を受けるのか」と痛感しました。厚生労働省に勤務する友人に「なぜ国は現場を振り回すような政策を作るのか」と尋ねたところ、友人は「我々は、日本医師会を医療界の代表として認識している。医師会と交渉することで政策を決定している」と答えました。「医師会に入らないと自分の意見を届けることもできない」と気付いた私は、慌てて入会することにしました。

入会後は、誘われるままに様々な活動に携わりました。「医師会はこんなに真っ当なことを考え、発信していたのか」と驚くことも多かったですね。活動を続けるなか、「日本医師会で仕事をしてみないか」とお誘いいただき、現在に至ります。日本医師会に来てから、国との交渉や、他の医療関連団体との関係など、都道府県医師会では見えてこなかった部分の重要性を強く意識するようになりました。

――若手のうちから医師会活動に興味を持ってもらうためには、どのようなアプローチが必要でしょうか?

:国民はもちろん、勤務医や若手医師・医学生に、「医師会とは何か」ということを明確に伝えていく必要があります。私は日本医師会の広報担当でもあるので、そうした活動にも注力したいと思っています。

例えば今年の3月、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書が取りまとめられましたが、多くの報道では、「時間外労働の上限を年間1,860時間とする」という部分だけが強調され、独り歩きしてしまいました。皆さんの中にも、「医師会は勤務医を守る気がないのか」と感じている人がいるかもしれません。ですが日本医師会は、2008年に「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」を立ち上げて以来、勤務医の先生方の健康確保を第一に、地域の医療提供体制も守る方策を考え続けてきました。厚労省の検討委員会における「年間1,860時間」の規定も、「上限いっぱいまで働かせていいものではない」という前提があってのものです。ただ、働き方改革の推進は各医療機関の努力だけでは難しい部分も多く、過渡期にはどうしても上限を超えることがあるかもしれない。それで罰則が適用され、地域の医療提供体制が崩れる事態を防ぐため、あえて高めの水準が設定されたわけです。こうした意図についても、医師会自身がしっかりと発信していかなければなりません。

しかし、どんなに広報に尽力しても、医師会に興味のない先生方の心に響くものにはならないでしょう。まず興味を持ってもらうためにも、地域で医師会活動をしている先生と勤務医・若手の先生が集まり、医療のあり方についてざっくばらんに語り合ったり、若い先生方のささやかな疑問や不安に応じたりする場を広げたいと考えています。私が京都で開いている「若手ビジョン委員会」もそうした場の一つになっていると自負しています。

ドクタラーゼの読者の皆さんにとって、医師会は遠い存在のように感じられるかもしれません。しかし、医師会活動は決して皆さんと無関係ではないのです。意見があれば、ぜひドクタラーゼ等を通じて知らせてください。

城守 国斗
日本医師会常任理事