療育に関わる専門職【前編】(1)

皆さんは「療育」という言葉を知っていますか?療育とは、障害のある子どもが将来社会的に自立し、より良い生活を送れるように発達を支援することです。心身障害児総合医療療育センターは、療育の理念を提唱した故高木憲次博士ゆかりの施設です。今回は、このセンターで親子入園を担当するチームの方々にお話を伺いました。

多職種で遊びや摂食を支援

先生

――まず、親子入園とはどのようなものか教えてください。

山口(医師):当センターの「整肢療養園」では、主に手足の不自由な子の療育を行っています。ここで、主に未就学児で、歩くのが難しい子どもとその親を対象に、集中的にリハビリや生活指導を行うのが親子入園です。

佐々木(SW*1):入園期間は8週間です。平日は親子で泊まり込み、週末は帰宅します。9組の親子が、浴室・トイレは共用、食事も共にして生活するので、合宿のような感じですね。

平日は毎朝合同保育を行い、その後個別にプログラムを実施します。基本的なメニューは理学療法と作業療法が週3回、言語聴覚療法と心理療法が2週に1回ずつ。親御さんが対象のグループワークなどもあります。

――親子入園における、各職種の主な役割を教えてください。

田中慎(OT*2):作業療法では、主に摂食や遊びの支援を通じ、少しでも日常生活が送りやすくなることを目指します。例えば手をうまく動かせない子に対しては、手づかみで食べられるような訓練などを行います。

竹本(PT*3):理学療法は、座る・立位を保つなどの運動発達を促したり、呼吸が苦しい場合は楽に呼吸できるようにしたりと、体の動きを支援します。作業療法で手をうまく使えるようにするにも、まず姿勢の安定が大切です。そんなときは理学療法の出番です。

田中伸(ST*4):言語聴覚士はコミュニケーションを支援します。「今は泣くか笑うかでしか気持ちを訴えられないけれど、より上手な方法で伝えられるように」と期待して、当センターに来られる親御さんが多いのです。そこで、楽しく遊ばせて「もっとやりたい、もっと見てほしい」という気持ちを引き出すようにします。うまく声が出せない子の場合、相手にタッチできるならそれをサインにする、目が使えるならカードや写真を使って意思を伝えるなど、様々な手段を考えて関わります。

亀山(保育士):朝の集団保育や個別保育を担当しています。

徳井(心理士):子育ての悩みを聴いたり、子どもの遊びの工夫の相談を受けたりします。親のグループワークや、朝の合同保育にもお邪魔しています。

佐々木:SWは、入園希望の相談を受けてから入園までの調整、退園に向けた療育体制の調整などを、医療連携担当看護師と協同で行っています。

伊藤(看護師):医療連携担当看護師として、入園直後の方と面談し、退園までの課題を抽出して各職種に連絡しています。退園前にはSWと連携し、退園後の訪問リハビリや訪問診療・看護などの調整をします。

鳥飼(看護師):親子が宿泊する病棟担当の看護師として、様々な看護ケアを行います。

須山(看護師):看護係長として、重度の障害のある方を受け入れる際のベッドコントロールなど、病棟の調整業務をしています。

山口:医師の一番大きな役割は医療や福祉サービスを受けるための書類作成かもしれません。発達・子育て支援の全体的な方向性を調整するほか、医療ケアや薬が必要な子が最近増えているため、その子たちがリハビリや遊びの時間を十分とれるようにケア内容を調整したりしています。



*1 SW…ソーシャルワーカー(Social Worker)
*2 OT…作業療法士(Occupational Therapist)
*3 PT…理学療法士(Physical Therapist)
*4 ST…言語聴覚士(Speech・Language-Hearing Therapist)

 

療育に関わる専門職【前編】(2)

親子で入園するメリット

――親子で入園する良さはどのようなところにありますか?

田中慎:お子さんが集中的に訓練できるだけでなく、退園後の家庭生活も見据えた細かな支援ができる点です。例えばリハビリに親子で参加することで、親も介助法や抱き方、食べさせ方を学ぶことができます。

竹本:理学療法でも、子どもの体を親に理解してもらい、退園後に家庭でも練習が行えるように努めています。入園中に伸びた運動機能やコミュニケーション能力を、退園後も維持し伸ばし続けるところまで支援するよう心がけています。

佐々木:週末の帰宅時の様子を翌週に聴き取り、家庭生活を支援することも行っています。

徳井:同じような境遇の親子が集まること自体にも意味がありますよね。身近に同じ悩みを抱えた親がいなくて孤独だった、という親御さんも多いので。前向きになれないときや辛いとき、「たまには頑張れなくてもいいよ」と言い合える仲間がいるのは心強いことだと思います。

最初はどの親御さんも、「我が子の発達を促したい」という一心で入園してきます。でも、朝から晩まで仲間と生活を共にするうちに、子どもの生活全般にも意識が向くようになるのです。リハビリ以外の余暇の過ごし方をどうしようとか、「保育って楽しい」と感じるとか。そんな思いを抱いて家に帰れることは大事だと思っています。

亀山:親御さんがよく言うのが、「我が子がどんな遊びが好きか、どう関わればいいかわからない」という悩みです。私は保育士として、保育中の様々な場面で子どもの反応を汲み取り、「この子はこういうときにすごくいい表情をしますね」などとお伝えするようにしています。

鳥飼:「夜の様子を知れる」という利点もありますね。夜は一日の疲れが出てきやすいので。昼間に訓練を頑張りすぎて眠れなくなったり吐いたりする子もいます。親御さんも、子どもが寝た後で一日を振り返るうちに、ストレスや疲れが出てくる方が多いですね。じっくりお話を聴いてケアしたり、日勤の看護師に引き継いだりと、一日を通して支援するようにしています。

(次号、後編に続く)

 

写真前列左から、伊藤正恵さん(医療連携担当看護師)、鳥飼美那さん(看護師)、亀山布由子さん(保育士)、徳井千里さん(臨床心理科長)、佐々木さつきさん(福祉相談科係長)、須山薫さん(看護係長)

写真後列左から、山口直人さん(小児科医・リハビリテーション科医長)、田中伸二さん(言語聴覚科長)、竹本聡さん(理学療法科主任)、田中慎吾さん(作業療法科主任)