医学生×新聞記者
同世代のリアリティー
新聞記者 編(前編)
今回のテーマは「新聞記者」
今回は、新聞記者として働く社会人3名に集まっていただきました。どうしてこの仕事を選んだのか、普段どのような働き方をしているのか、仕事のやりがいは何かなど、詳しくお話を聴きました。
新聞はどのように作られている?
玉城(以下、玉):皆さんの現在の仕事内容を教えてください。
神谷(以下、神):私たち3人は同じ新聞社の同期で、今年で10年目になります。私は運動部に所属していて、パラスポーツの担当記者をしています。パラスポーツの大会や選手の取材などをしていて、東京パラリンピックも担当する予定です。
天田(以下、天):私は社会部に所属しています。これまで災害や原発、裁判・事件などを広く取材してきました。最近では北海道地震の取材にも行きました。
原田(以下、原):私は放送芸能部に所属しています。芸能人のインタビューや伝統芸能の紹介などを行っています。新聞社にはあまりない、珍しい部署だと思います。
田谷(以下、田):皆さんは取材や記事の執筆をお仕事にされていますが、そもそも新聞はどのようにして作られるのでしょうか?
神:紙面を作るのは、主に取材をする「取材記者」と、記事のレイアウトを作る「整理記者」が分担して行っています。私たち取材記者は、ネタを見つけて取材し、記事を執筆します。整理記者は、記事を受け取って見出しをつけたり、紙面を整えたりします。そして紙面ができたら、校閲部がチェックします。校閲が済んだら、印刷工場で印刷が行われます。こうして作り上げられた新聞を、販売店が読者に届けます。
原:販売店は、実は私たち新聞社とは別の組織です。ただ、多くの新聞社は販売店と強固な連帯関係を築いています。泊まり込みで販売店での配達業務を経験することが、新人記者の研修の一環に組み込まれていたりもします。
吉田(以下、吉):別組織なのに、泊まり込みで実際に配達するのですか?
原:そうです。朝・夕刊を配るので、体力的になかなか厳しい研修でした(笑)。
天:ちなみに、朝刊はどの地域も同じ時間帯に届けなければならないので、到着時間から逆算して、何時までに記事を完成させるかを決めています。
玉:知らなかった。新聞を届けるまでには多くの人の連携が重要なのですね。
新人記者から一人前になるまで
玉:皆さんはもともと記者として入社したのですか?
神:そうです。私たちの会社の場合、先ほど紹介した取材記者と整理記者が、編集職という枠で一括して採用されます。
入社後、一般的に新人記者はまず地方支局に配属になり、地元のニュースを集めるところから始めます。警察署で情報収集をしたり、地域のイベントや市民団体を調べたりします。
田:記事のノルマなどは課されるのでしょうか?
天:地域面の1~2面を支局のメンバーで分担して執筆するため、どうしてもノルマが生じます。私たちの会社は地域密着を大切にしているので、地域面の分量も多く、一人あたり1日1~2本の記事を書かなければいけません。
神:実はネタがない日もあって、そういうときは結構大変です。同じような記事が並んでしまうこともありますね。
原:「市内で珍しい植物が見つかりました!」という記事が続いたこともありました(笑)。
吉:記事になる情報を自分で探し出すのは苦労しますか?
神:そうですね。でも、だからこそ常に何かネタがないか、アンテナを張るようになりました。こういう経験を重ねて、徐々に一人前の記者になっていくのだろうと思います。
医学生×新聞記者
同世代のリアリティー
新聞記者 編(後編)
仕事とプライベートの区別は難しい
田:新聞記者の働き方はどのような感じなのでしょうか? 毎日取材をして記事を書くとなると、時間的にも大変だと思うのですが。
天:社会部の場合、大きな事件などの際には長時間待ったり、現場に張り込んだりすることもあります。例えば、屋外の現場に多数の報道陣が詰めかけていて、いつ重大な発表があるかわからないときなどは、とにかく待つしかありません。多いときには100人近くの報道陣が一か所に集まりますね。他社の記者との交流もあって、互いに交代で休憩を取ったりもします。普段は取材したり移動したりしている時間が多いですね。
吉:不規則なうえに予定を立てにくそうでもあるのですが、そうしたなかで原稿はいつ書かれているんですか?
神:原稿は、車の中やカフェで書くことが多いです。時間がほとんどないときは、駅のホームやベンチで書いたりすることもあります。
玉:短い時間を何とかやりくりしているんですね。
天:他にも、夜間に起こる重大事に対応するため、宿直を設けている部署もあります。
原:いつ呼び出されるかわからない場面もある一方で、何もなければ自己裁量で働くことができます。体調が悪いときは朝ゆっくり過ごすなど、バランスを取ることはできますよ。
神:そうやって適度に息抜きをしながら働かないと、常に駆り立てられているような気持ちになってしまうかもしれません。この仕事はある程度、図太いくらいでないとやっていけないと思います。
田:公私の切り替えも自分次第、という感じですか?
神:そうですね。でも正直、両者を完全に切り離すことは難しいと思います。私はもう仕事とプライベートの区別は考えなくなりました。
天:情報提供者との人間関係を考えても、公私の切り替えはとても難しいと感じますね。関係が悪化してしまうと、情報をもらえなくなることもあります。
吉:難しいですね。
新聞記者を目指したきっかけ
玉:皆さんはなぜ新聞記者を目指したのでしょうか?
神:書くことを仕事にしたかったからです。というのも、昔から話すことは得意ではなかったのですが、文章ならうまく思いを伝えられる気がしたんです。それで高校生の頃から、ずっと書くことを続けていました。
天:私は中学生の時の被災体験がきっかけです。豪雨で自宅の1階が浸水し、2階での避難生活を余儀なくされました。テレビもラジオも動かないなか、販売店の方が自衛隊のボートで新聞を配ってくれたおかげで、多くの救援情報にアクセスできたんです。その体験で新聞の力を感じて、今度は自分が被災者に勇気を与えられる記事を書きたいと思うようになりました。入社後に災害を担当することになり、念願が叶いました。
原:私は学生時代の気付きがきっかけでした。大学では中国史を専攻し、図書館で漢文を読みふけっていたのですが、ある時読んだ西田幾多郎の言葉に衝撃を受けました。それは西田の人生の単調さを皮肉った言葉だったのですが、私自身の人生もこのままでは単調になってしまうと感じたのです。そこからもっと刺激に満ちた生活をしたくなり、「ならば歴史が生まれるその瞬間に行こう!」と思い至って、マスコミを志望しました。
得意分野を活かし面白い記事を!
吉:日頃ネットニュースなどを見ていると、とにかく早く発表することを競い合っているように感じることもあります。
天:確かにそう感じるのも無理はないと思います。しかし、記事を書く以上は、ただ公式に発表された情報を書くだけでは足りないと私は考えています。私たちを取り巻く社会をしっかりと見つめ、問題だと感じたことを、自分なりの人脈や得意分野を活かして面白い記事にすることこそが、記者の真骨頂だと思います。自分が気付いて記事にすることによって、社会が変わるきっかけになるような記事を書けたら一番ですね。
田:皆さんの得意分野はどういうところですか?
神:天田さんはネタをどんどん取ってくることが得意ですね。警察担当も長いし、取材対象の自宅に張り込んで話を聞き出したりもしているので、すごいと思います。私にはできないです。
天:神谷さんは、弱い立場の人に寄り添った思いやりのある記事を書くのに長けていると思います。時間をかけて丁寧に深掘りした記事がとにかく上手です。
原田さんは私たちとはまた違った、何色にも染まらない独特のカラーがあります。よく紙面にも登場していますよね。
原:確かに体験ルポを書くことは多くて、自身の姿が写った写真を記事に掲載したりもしています。最近だと歌舞伎の隈取りの体験ルポを行いました。
吉:面白そうですね! 読んでみたいです。
原:事件記事以外は署名も載っていますので、ぜひ手に取って私たちの記事を読んでみてください。
玉:今日は新聞記者さんの仕事内容を詳しく聴けて興味深かったです。これから今までと違った感覚で新聞を読めそうです。
吉:新聞の完成までには様々な人が関わっていることが印象的でした。医師と似ているところもあるのかなと考えながら話を聴いていましたが、知らないことも多く刺激的でした。
田:日頃聴けないようなお話をたくさん聴くことができて良かったです。どうもありがとうございました。
※この内容は、今回参加した社会人のお話に基づくものです。
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