看護師(認知症看護)(前編)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療のパートナーとして看護師と関わることになるでしょう。本連載では、様々なチームで働く看護師の仕事をシリーズで紹介しています。今回は、東京都健康長寿医療センターの認知症看護認定看護師、白取絹恵さんと木村陽子さんにお話を伺いました。

認知症の方が、安心して治療を受けられるように

先生

――お二人は認知症看護を専門にされていますが、認知症看護の仕事とはどのようなものか、教えていただけますか?

白取(以下、白):私たちの病院は高齢者の方を専門とした急性期病院なので、院内の全病棟に認知症の方がいらっしゃいます。以前院内で行った調査では、認知症の診断を受けている方は入院患者全体の約2割、それ以外でも入院時に認知機能が低下している方、一時的なせん妄のある方などは約3割という結果が出ています。

そのなかで私は、認定看護師として精神科リエゾンチームに所属し、認知症の方への病棟横断的なケアに取り組んでいます。このチームは精神科医・臨床心理士・ソーシャルワーカー・薬剤師・看護師で構成されており、週1回の定期的なラウンドを行っています。ラウンドでフォローできない分は個別に相談を受け、チームにつないでいます。

木村(以下、木):私は病棟師長を務めているので、主に自分の病棟で、認知症の方がなるべく安心して治療を受けてもらえるよう、必要な支援を行っています。例えば、重度の認知症で治療の内容が理解できない方の場合、治療の際に怖い思いをしないように療養環境を整えたり、身体拘束を最低限にするなど、ケアの仕方を工夫しています。

認知症の方が不穏な状態になるのには理由があります。ただしその要因は人によって様々です。他の看護師や精神科リエゾンチームとも相談しながら、ご本人の困っていることを知り、関わり方を工夫したり、ご本人やご家族、ケアマネジャーさんを交えて話し合ったりしています。

――病院内に認知症の方が多くいらっしゃるなかで、全体を横断的に見ている方と、一つの病棟を担当する方がいらっしゃるのですね。お二人は日々の業務以外に、教育などに携わることもありますか?

:はい。認知症看護の専門家として、院内の研修や勉強会を主導することもあります。また、各病棟に認知症リンクナースを設け、リンクナースの集まる委員会で勉強会や事例検討を行っています。

――勉強会ではどのようなテーマを扱うのでしょうか?

:勉強会では一つのテーマについて議論します。例えば、「食事を出しても食べない方にどう関わるか?」というテーマです。認知症の方の場合、つい「認知症だから食べられない」と判断して、胃ろうにするかどうかなど、すぐ次の処置を考えてしまいがちです。しかし私たちは、まずは「なぜ食べられないか?」を考えるようにします。もしかしたら前回の食事の際に気持ちが悪くなってしまった記憶が残っていて、食事を怖がっているのかもしれません。認知機能の低下によってお箸を使えないけれども、手でつかめるものなら食べられるかもしれません。このように、患者さんそれぞれの困りごとの原因を考え、残った身体機能・認知機能で何ができるのかを、常に試行錯誤していますね。



 

看護師(認知症看護)(後編)

一人ひとりを大切にする看護を積み重ねていく

――看護をするうえで大切にしていることはありますか?

:認知症に限らず、高齢者の方の看護においては、人生の最終段階に立ち会います。体が衰えたり、できていたことができなくなったり、予期せぬ不調もあります。そのようななかで一番大事にしていることは、患者さんの人としての尊厳をいかに大切にできるか、ということです。「私たちにケアしてもらってよかった」と思ってもらえるような看護をしたいと思い続けています。

:以前私たち二人が関わった忘れられない患者さんがいます。

重度の認知症の方で、自宅でご家族が介護しており、毎回1時間以上かけて食事介助をしていましたが、徐々に食べる量が減ってきている状況でした。尿路感染症や肺炎で入退院を繰り返すようになり、そのたびに「経口摂取はもう無理かな」と感じていた矢先、発熱で他の病院に入院し、そこで胃管が挿入され経管栄養が実施された状態で当センターに転院してきました。

ご家族からのお話で、この患者さんはかつて「自分が食べられなくなったら管などは入れず、何もしないでほしい」と話していたことがわかりました。そこで、胃管からの栄養管理はこの方にとって最善の治療なのかということについて、ご家族を交えて多職種で話し合いました。その結果、本人の意思を優先することとなり、胃管を抜いたところ、食事を食べることができたのです。

:その患者さんにとって何が最善なのかを考え、倫理的な看護をする姿勢が求められたケースでしたよね。倫理的な看護を行う力は一朝一夕では身につかないので、定期的な振り返りが欠かせません。

病気や症状、家庭の環境は一人ひとり違います。そのなかで、「一人ひとりを大切にする看護ができている」という実感の積み重ねが、私たちのやりがいにつながっています。ただし、一人ひとりを大切にする看護は、一人では実現できません。病棟スタッフも含め、全員が同じ方向を向いてケアができるよう、工夫し努力しています。

患者さんのQOLを考える医師になってほしい

――お二人が共に仕事をしたいと感じるのはどのような医師ですか?

:その時々の状況に即した提案を受け入れてくれる先生です。例えば、事故防止の観点から「ベッドで安静に」という指示が出たものの、実際にはベッドの上である程度動けている患者さんがいるとします。その患者さんが「トイレに行きたい」と言ったとき、私たち看護師がその状況を伝えたら、「では可能な範囲で自由にしてもらって、私たちはそれを見守ろうか」と言ってくださるような先生がいいですね。

:きちんと患者さんの現状を捉えて、本人の希望も聴いて、治療の選択肢を柔軟に考えてくれる先生だと、仕事をしやすいと感じます。なぜなら、ゴールは患者さんのQOLですから。

――最後に、医学生へのメッセージをお願いします。

:まずは高齢者の方とたくさん話してみてほしいですね。「高齢者はこういうもの」と型にはめることなく、その人が何を望んでいるか聞いてみてほしいです。

:高齢者看護に「こうあるべき」はありません。人生の先輩として敬いつつ、患者さんが何を望んでいるのか話を聴いて、様々な治療を選択できる医師になってもらえたらうれしいです。

 

白取 絹恵さん(写真左)
東京都健康長寿医療センター
認知症看護認定看護師・精神科リエゾンチーム

木村 陽子さん(写真右)
東京都健康長寿医療センター
認知症看護認定看護師・整形外科病棟師長

 

 

No.33