「私がどうしたいか」をしっかり考えよう(前編)
今のうちからできることはありますか?
学生や研修医のうちから、産休・育休など、子育てしながら働くことを支える制度について、ある程度知っておくことは大事なのではないかな。
「女性医師支援が充実しています」といった病院の売り文句を見かけたら、その内容はきちんと見ておくといいと思うよ。一口に女性医師と言っても、仕事に対する考え方も、仕事と家庭のバランスも一人ひとり違うわけだし。
例えば、「給料は安いけど、難しい症例はやらなくていいし、専門医を維持できる程度のライトな働き方ができる」というのが「女性医師にやさしい」職場だと思う人もいるかもしれない。けれど、「子どもを育てながら、医師としてどんどんスキルアップしていきたい」という人にとっては、そういう職場は嬉しくないよね。
そう考えると、必要以上に負荷を減らすのではなく、高いレベルの研鑽を積めるような両立ができることを「女性医師にやさしい」と言うこともできる。
ただ、そうは言っても出産自体は女性にしかできないし、それに伴う身体的な負荷には配慮してくれないと困ってしまうから、産休などの制度を安心して利用できることは大事。
「他にも、女性医師向けの当直室があるとか、設備が充実していることを「女性医師にやさしい」と考えている病院もあるね。
「私もこうなりたい!」と思えるようなロールモデルがいるかどうかも重要だね。そういう人がいるということは、自分もそうなれる可能性が高い職場だということだから。
いずれにせよ、自分の仕事に対する価値観をしっかり意識したうえで、どういう職場が自分のバランス感覚に合っているかを考えていくことが必要だと思う。これは女性だけではなくて、男性にも言えることだよね。
Q15 あなたはこれまで、育児休暇・産前産後休暇をはじめとする「労働者の働き方を支える制度」について、知る/説明を受ける機会がありましたか?
(クリックで拡大)
A先生
4年目・子ども1歳・時短
B先生
7年目・専門医・妊娠中のため当直免除
C先生
7年目・妻も医師で育休中
D先生
10年目・専門医・子ども4歳・フルタイム
「私がどうしたいか」をしっかり考えよう(後編)
お話を聞かせていただき、ありがとうございました。でも、本当に申し訳ないのですが、先輩たちのお話を聞いても、自分がどの診療科を選んで、どの時期に出産・育児をして、どんなキャリアを積んでいけばいいのか…というビジョンは、正直なところ描けませんでした。
女性だからこういう職場がいいとか、こういう診療科がいいとかも、一概には言えないんですね。私も、「女性だから」ではなく、「私がどう生きたいか」「私がどんな医師になりたいか」をきちんと考えなくてはと思いました。
男性もそうだよね。男性であれ女性であれ、仕事に目一杯打ち込みたい人もいれば、家庭を大切にしたい人もいる。同僚を見渡しても、仕事や家庭への思いは一人ひとり違う。
今は「女性医師支援」などと、男女を分けて語られることが多いけど、これからは男女を分けるのではなく、それぞれの人の価値観に応じて多様な働き方を選べるようになっていくといいよね。
女性の皆さん、僕自身、今まで当事者意識が足りなかったなと思い知らされました。その時々でシビアな選択を迫られているという意識がなかったことを、反省しました。
私は早い時期に出産して、同期と同じように歩みを進めることはもうできないけど、「ああすればよかった」とあれこれ考えても仕方がないなと思っている。「子どものために自分の仕事を犠牲にした」と考えるのは子どものためにも良くないと思うから、私は私が選んだ道を「これで良かった」と心から思える人生にしていきたいな。
私は今お腹に子どもがいて、この先どうやって両立していくかすごく考えていたけれど、皆と話せたことで、「どうにかなる」と思えた。だから、今は無事に出産して、ただでさえ大変な乳児期の育児を乗り切ることに集中しようと思う。その先のことは、後になってから考えていこうかな。
私が学生の頃に比べると、時短勤務や当直免除といった形で女性医師が働いているのも特別なことではなくなってきた。当時は、子どもを育てながら第一線で働いている中堅の女性の先生はあまり見かけなかったけれど、今の私たちの世代にはとても増えている感じがする。
私たちの世代が肩に力を入れすぎず、充実した医師人生を歩んでいくことが、これからの世代への励ましにもなるんだろうな。これからも無理しすぎず、自然体で頑張っていこうと思ったよ。
試行錯誤しながら柔軟に対応していこう
ここまで見てきたように、ワーク・ライフ・バランスは、日々のタスクの調整、周囲の理解、譲歩や妥協など、様々なものの積み重ねで成り立っています。ですから、人によってその形もまったく違います。
また、先を見据えて計画してもその通りにいくとは限りませんし、いくつもの分かれ道のうち、どの道を選ぶのが正しいのかもわからないものです。
医学生の皆さんも、これから他人と一つの家庭を築いたり、子どもというケアを必要とする存在ができたりすると、思うようにいかないことが多くなるでしょう。そういうときこそ、試行錯誤しながら柔軟に対応していくことが重要になります。
しかしながら人は皆、自分の思い込みや先入観によって、「こうあるべき」と思ってしまいがちです。特に育児については、自分が育った家庭のことしか具体的なイメージが持てない場合が多いため、なおさら「こうあるべき」に悩まされやすいものです。
だからこそ肩の力を抜いて、まずは様々な人の様々なあり方を見てみましょう。そのうえで、改めて「自分がどうしたいか」をしっかり考えてほしいと思います。
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