コロナ対応にあたる看護師(前編)
未知の状況下で直面した課題
――まずは、それぞれの現場における新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)への対応についてお伺いします。直面した課題や困りごとについても教えてください。
佐藤(以下、佐):私の所属する救急外来では、救急車でもウォークインでも、来られた人には必ず感染のスクリーニングを行っています。救急車の場合は、ゴーグル・マスク・ガウン・キャップ・手袋をつけた看護師が対応しますが、ウォークインの人への対応はまず受付事務が行うため、受付前に一度スクリーニングをかけ、一つでもスクリーニングに該当すれば、受付事務はまったく接触せずに、感染対応の看護師に引き継ぐようにしています。早い段階から、受付にアクリル板を設置したり、受付事務は紹介状などの持参物に触らないようにしたりといった対策を行ってきました。
実は、救急外来においては、明確なエビデンスに基づいた感染対応のガイドラインがありません。そのため、スタッフが少しでも安心・安全に働けるシステムを構築していくことは大変でした。正解がわからない不安はありましたが、救急外来はこれまでも他の感染症を受け入れていますし、もともとイレギュラーが多い部署でもあるため、システムの変更にも抵抗なく臨むことができたように思います。
また、保育園から「お子さんを登園させないで」と言われたスタッフもいました。そこでコロナ対応は単身者に限定しましたが、次第に患者さんが増え、今は全員で対応しています。
中垣内(以下、中):私は新設のCOVID-19専用病棟に所属しています。もともとこの病棟は感染症も扱う呼吸器センターでした。コロナ患者の受け入れ初期は、救急外来と同様に選抜された単身者が受け持っていましたが、流行期に入ってからは完全に専用病棟となったため、全員で受け持つようになりました。
不安だったのは、自分が感染してしまうかもしれないこと、無症状の自分が誰かに感染させているかもしれないことでした。特に初期は一般の患者さんと並行して看ていたため、重篤な患者さんへの感染リスクを考えると、プレッシャーが大きかったです。また、スタッフから陽性者が出てしまうと、受け入れ病棟としての機能が止まってしまい、救急外来など至るところに影響が出てしまいます。自分たちだけの問題ではなく、地域の人々の命も背負っているという緊張感は今も続いています。
武藤(以下、武):私の所属しているICU/CCUでは、重症化し、人工呼吸器やECMOが必要となった患者さんに対応しています。部屋はガラス張りの個室で、一般の重症患者とコロナ患者をワンフロアで看ているため、その日にコロナ患者を担当するスタッフは限定されます。初めは単身者が担当に選ばれましたが、今は妊娠しているスタッフ以外は均等に担当するようにしています。
同じ重症患者でも、コロナ患者は先の経過が見えにくく、病状が急激に悪くなることが多いです。どんなに良い看護を提供しても亡くなってしまう方もいて、そのことで大きなストレスを抱えるスタッフもいるため、いつも以上にスタッフの心のケアが必要だと感じます。
コロナ対応にあたる看護師(後編)
看護するうえでのもどかしさ
――コロナ患者の看護は、通常とどのように違いますか?
武:ナースコールが鳴っても、感染対策をしなければすぐにベッドサイドに行けないので、もどかしさがあります。
中:感染管理室からも、「部屋に入る回数を少なく、滞在時間を極力短く」と指導されており、ベッドサイドに行ける回数が限られてしまうため、重症化の兆候に気付きにくいことが歯がゆいです。大人数で看ることができないこともあり、「自分ならもっと違う観察点があったかもしれない」「もっと複数の目で看られたら悪化は防げたかもしれない」と、誰もが日々振り返っています。通常よりも担当看護師の観察力が求められますね。
佐:緊急入院で陽性がわかった患者さんは、そこで家族と引き離さなければなりません。感染から守るためとはいえ、家族の支えが得られないまま入院生活に入ると思うと心が痛みます。
中:病棟では、患者さんからご家族に電話することはできます。でも、動いている姿を見るほうがご家族は安心するようなので、私たち看護師がタブレットで動画を撮り、ご家族が荷物を届けに来たタイミングなどにお見せするようにしています。
武:ICU/CCUでは携帯電話が使えません。そのなかで精神的に不安定になった患者さんに医療者のPHSをお貸しし、ご家族と会話したことで落ち付いたことがありました。ご家族とのやりとりが患者さんにとって大切なことであり、またご家族にとっても安心につながることを実感しました。
中:コロナ患者のお看取りも通常とはかなり違いますね。ご家族は、私たち看護師からの電話で状態の悪化を受け止めていくしかありません。たまたま亡くなる直前にご家族が病院にいらしたケースがあったのですが、部屋の外から見守るしかない状況で、とてもつらかったです。
佐:救急外来で患者さんが亡くなった場合も、画像で肺炎の所見があったら、検査をしてからでないとご家族は近付けません。ご家族がそれを理解して受け入れてくださるのも、見ていて切ないです。
――思うように看護ができないもどかしさをどのように乗り切り、次につなげていますか?
佐:やはり人と話すことですね。
中:カンファレンスで話して、つらさを引きずらないようにしています。デスカンファレンスでは、急変時の様子や前兆について振り返って共有し、「一つひとつの看護ケアを大切にしようね」と確かめ合っています。
状況の変化に応じて病棟体制が変わることに、気持ちが追いつかないこともあります。そんなときも、皆であれこれ言い合い、受け止め合い、「よし頑張ろう」という結論に至っています。
武:ICU/CCUではスタッフ全員が臨床心理士と面談し、そこで初めてつらさを吐露できた人もいました。病棟では皆が頑張っているので、弱音を吐けなかったのかもしれません。また、自分のつらさに気付いていなかった人もいたようです。フォローが必要な人には継続して面談が行われています。
面談でなくとも、誰かにちょっと話すだけでもいいんです。看護師だけでなく、医師とも話して色々な意見が聞けたら、考え方や視点も変わって、次の段階に進めるきっかけになるのではと思います。
看護師の強みを活かしてほしい
――最後に、医学生や若手医師へのメッセージをお願いします。
中:まだまだ未知のコロナですが、症例を重ねるたびに「こうなると悪化するな」という予測ができるようになってきました。その情報は先生方とも共有し、理解していただいています。そういった経験を踏まえた対応ができるのは、看護師ならではかもしれません。
武:確かに、看護師の目線だからこそ気付けることはきっとあると思います。
佐:救急には、「看護師さんの第六感を信じている」とおっしゃる先生が結構います。ベッドサイドにいなければ発見できないような情報を得ることは治療につながるはずですから、ぜひ活用していただきたいですね。
中:患者さんのことだけでなく、それを取り巻く人々の仕事にも興味を持っていただきたいです。患者さんと関わる様々な職種との良い関係が、治療の質を高めていくことを心に留めておいていただけたらと思います。
武藤 理恵さん
名古屋第二赤十字病院
ICU/CCU 看護師
中垣内 祐美さん
名古屋第二赤十字病院
COVID-19専用病棟 看護師
佐藤 亜紀江さん
名古屋第二赤十字病院
救急外来 看護師
※この取材は2020年10月下旬に行いました。
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