地域の救急医療を支えるしくみ

医学生が取材!
救急医の役割とやりがい-(中編)

複数の救急医がいたほうが効率的に救急医療ができる

救急医療機関の集約

――救急医療機関は生命を救う上でとても重要だと思うのですが、なぜ救急医療機関をたくさん作るのではなく、集約することが必要なんですか?

中:救急医療の専門医資格を取るためには、ある程度いろいろな病気や怪我を治療した経験が必要ですが、こういった医師はまだ需要を満たせるほどたくさんいるわけではありません。だから、あちこちにある「救急指定病院」と呼ばれる病院には、外科系と内科系の医師が交代で当直にあたるところが多いのです。けれど外科系と言っても幅は広く、整形外科も脳外科も泌尿器科も全部外科系にあたります。そうすると、「事故で骨折している患者さんがいます」という要請が来ても、「私は泌尿器科なのでわかりません」と断らざるを得ない状況があり得るのです。

このような事態を避けるため、ありとあらゆる重症患者に対応できる「救命救急センター」が設置され、そこに救急を専門とする医師が配置されています。救急医はどんな患者でも受け入れて、簡単な手術・処置をすることができます。しかし1人の救急医が24時間365日勤務し続けられるわけではないので、1つの病院には一定数以上の救急医が必要です。ですから救急医の数が不足している現状では、救急医療機関をたくさん作るのではなく、集約することで救急医療体制を維持しているのです。

しかしそうすると、救急の専門医がいる病院はまばらにしかない状況になります。そこでヘリが活躍します。救急車で1時間かかる場所でもヘリだと10分ちょっとで行けるので、より広域の患者さんを救命救急センターに集めることができ、効率よく救急医療を行うことができます。

とはいえ、まだまだ課題も少なくありません。例えば、ヘリは昼しか飛べません。でも救急の患者さんは、夕方から寝るまでの時間が一番多いんです。ヘリが出動できない時間にどう対応するかは、大きな課題の一つですね。

現場は医師が“裸にされる”場所

フライトドクターとしての成長

――ドクターヘリに乗って現場で活動してるフライトドクターは、特別な訓練を積まれているんですか?

中:ヘリだからという特別なことはほとんどありません。病院の中でちゃんと平時のERの業務ができているかどうかが大事ですね。だけど現場に行くことには、かなりプレッシャーがかかります。患者さんを早く設備が整った病院に連れて行く必要があるから、現場に滞在する時間は短くしなければならない。その短い時間の中で、患者さんに何が起きているのか、必要な情報を的確に選んで、要らない情報を捨てなければならない。そして、CTなどの高度な診断機器に頼れないから、身体所見である程度わからなければならない。処置も、病院のようにコンディションが整ったところでできるわけじゃない。時間がないし、最後のワンチャンスかもしれない。そういう意味で医師が裸にされるところが、現場というところだと思います。

――とても緊迫感があるように感じます。だいたい何年目ぐらいの医師が、現場に行けるんでしょうか。

中:東海大のある神奈川県の場合は、医師2人、看護師1人がヘリに乗ります。医師が2人いれば、必要な処置が同時進行でできます。重症なときはベテラン2人で行きますが、だいたい先輩と後輩で一緒に行く場合が多いですね。5年目ぐらいの医師と研修医、とか。基本的には専門医の資格を持っている医師が上について指導に当たっています。

災害時の救急医の役割

――卒業したら救急をやってみたいと思っています。ただ、何年か経験して何でも診られるようになったら、地元に戻ろうと思うんです。東日本大震災のときには、救急の医師がすごく必要とされたし、今後もそういうことがあるかもしれないので…。

中:いい心がけですね。また災害が起きたら、救急の医師は絶対に必要になります。東海大も東日本大震災のとき、宮城県石巻市へ2か月ほどの間、様々な診療科の医師を交代で派遣しました。

最初のころに中心になったのは救急のメンバーでした。なぜなら、普段から現場に行っていることもあって、どんなことが起きても対応できるからです。けれど、ある程度時間が経つと、例えばパーキンソン病の患者さんならそれまでのパーキンソン病の治療についても考える必要が出てきます。僕ら救急医が、「今までこんな薬飲んできました」と言われても、その科の専門じゃないと、どれぐらいの量で薬を加減したらいいかはわからないんです。そうなってくるともう救急では対応しきれなくて、各科の専門の医師たちの出番になる。だから、災害時の医療提供体制にも、それぞれに役割があるんじゃないかなと思います。そういうところでは、救急はいちばん最初を担うのが役割。何が出てきても大丈夫っていうのが救急の強みですからね。