医療者のための情報リテラシー
情報化社会のシステムを知り、上手に活用するために

テレビ番組で納豆やバナナが取り上げられると全国各地で売り切れたり、雑誌で特集されたサプリメントが大人気になったり、なんてことがよくありますよね。
メディアではよく、こういった取っつきやすい情報が大きく取り上げられ、一般の人々に大きな影響を与えています。実はここには根深い問題があり、それは医師にとっても無関係ではありません。
正しさとわかりやすさ
そもそも実際の科学や医学の正しい知識は、画一的に「こうですよ」と言えるものではありません。その一方で、テレビや新聞の科学や医療についての情報は、一般の人々が知りたいと思うことを反映してわかりやすく単純化されています。「納豆が身体に良い」というように。こうしてほんとうは重要なことが取りこぼされることも多いのです。
他にも例えば、地震や放射能について、一般の人々が主に求めているのは「安全なのかそうでないのか?」という単純明快な答えです。しかし、科学的には安全か否かの線引きは簡単ではありません。放射能の影響がどの程度あるのかは確率的にしか表現できない、といった事情があるからです。ところが、こういった詳細な背景は、報道されるときには無視されてしまうことがあります。
そのような性質をもつメディアに寄りかかってばかりではいけない、ということが、幸いにも少しずつ認知されはじめています。近年注目されている「患者学」もそのひとつです。患者が与えられる情報や医療行為をただ受け入れるだけでなく、積極的に情報収集をし、それを理解するためのリテラシーも高めていこう、というものです。
しかし、患者がよりよい情報を手に入れようとしても、今のところ日本語で手軽に閲覧できる良質な情報は多くはありません。
専門家による情報発信
そこで、医師側の「伝える」努力が必要となります。これまで以上に積極的に、専門家のあいだで一致した意見、学会などによりオーソライズされた情報を、「わかりやすく」公開していくことが求められているのです。
しかし、正しさとわかりやすさのジレンマは根強く残っています。例えば、学会サイトの「一般の方へ」といったページを見てみてください。専門的な情報を一般向けに公開する際の参考になることもあるでしょうし、これではわかりにくいな、と気づくこともあるでしょう。
わかりやすくするために単純化し過ぎるのも問題ですが、正しさを追求しすぎて難しくなると、そもそも読んでもらえない可能性があるということに注意が必要です。誰を対象にするのかということをきちんと分析した上で、情報を提供する必要があります。
医学生だからこそできること
みなさんは医学を勉強している途上にありますから、すでに医師になっている人たちよりも「わかりやすさ」に敏感だと思います。習慣になってしまうと自分が専門用語を使っていることにもなかなか気づけませんし、そういった表現は想像以上に一般に伝わりません。
まずは、患者さんなどにどう説明したら伝わるか、ということを意識しながら勉強してみてください。そしてなにより、今の「わかりにくい」という感覚を忘れないでください。みなさんが将来、一般向けの情報提供を行ったり講演をしたりするとき、その能力はきっと役に立つはずですから。



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