
患者である強みを活かし
1型糖尿病の診療をより良くしていきたい
【糖尿病・代謝内科 番外編】黒田 暁生医師
(徳島大学糖尿病臨床・研究開発センター)-(前編)
医師でもあり、1型糖尿病の患者でもある、17年目の先生です。
一患者であることの強み

――ご自身が子どもの頃から1型糖尿病と付き合ってこられていますが、いつから先頭に立って1型糖尿病の臨床を変えていこうと思われたんですか?
黒田(以下、黒):糖尿病に関わりたいと思って医師になったのですが、実際に臨床に出てから、引っ張って行かなければという気持ちが出てきました。学生時代は、進路よりも自分の病状の方が心配でしたね。大学の授業で合併症について学んだこともあり、こんな状態で僕は50歳まで生きられるだろうか、と。
――どんなきっかけがあったのでしょうか?
黒:診療に携わるようになってみてわかったのは、まだまだ1型糖尿病の臨床をちゃんと診られる先生が少ないということ。病態を研究している先生はいても、どのくらい食べないと低血糖で倒れるとか、インスリンをどれぐらい打たないと高血糖になってしまうとか、そういう血糖コントロールの方法に詳しい先生はほとんどいなかったんです。でも僕は自分が1型糖尿病だから経験で知っていることがたくさんあって、それを教えたら劇的に良くなった患者さんが何人もいました。一患者であることはこんなにアドバンテージになるのかと驚いたのと同時に、僕の持っているノウハウをもっと広めていかなければと思うようになったんです。

1型糖尿病とは?
糖尿病は、血糖値を下げる作用を持つインスリンが適切に働いていないことによって起こる疾患です。その原因から大きく2つに分けられており、膵臓のβ細胞が破壊されてしまうことによりインスリン分泌がほとんどできなくなる自己免疫疾患を1型糖尿病、インスリン分泌が相対的に低下、あるいはインスリン感受性が低下することで高血糖を呈する疾患を2型糖尿病と呼んでいます。
1型糖尿病は20歳未満で発症することが多く、インスリン注射による適切な血糖コントロールができれば、健康な生活を送り、寿命を全うすることができます。

患者である強みを活かし
1型糖尿病の診療をより良くしていきたい
【糖尿病・代謝内科 番外編】黒田 暁生医師
(徳島大学糖尿病臨床・研究開発センター)-(後編)
研究に注力してきた
――ご自身のノウハウを広めるために、どのようなアプローチをされてきたのでしょうか。
黒:医師になって3年目ごろから1型糖尿病についての講演会などに出始めたのですが、僕の患者としての経験やノウハウは誰でも使えるものとは言いがたく、経験談を語るだけでは意味がないなと感じるようになりました。そこで、様々な研究論文を読みあさり、自分の経験と擦り合わせることをしてきました。
すると、「あれ、これは実際と違うぞ」と思うところがたくさん見えてきました。例えば、基礎インスリン療法を教科書通りの数値で行うと、患者さんは低血糖になってしまいます。臨床で患者さんの状態をしっかり見ていれば、明らかに過剰な量だとわかるにもかかわらず、教科書には昔の論文のままの値が掲載されているんです。あまりにも現実とかけ離れた内容を見て、これはまずいと思いました。
けれど、いくら僕が声高に言っても、経験談だけでは聞いてもらえない。他の人に伝えていくためには、やっぱり研究をし、しっかり症例を揃えて、権威ある雑誌に発表していかなければならない。医師であり患者でもある自分ならそれができると思いました。だから、臨床の現場に身をおきつつ、研究や論文の形で発信していくことにも力を入れています。
――基礎研究と臨床研究の両方に携わられていますが、具体的にはどんな研究をされてきたのですか?
黒:大学院時代や留学中は基礎研究をやりました。基礎研究を行うことで、糖代謝に関わる生化学や生理を理解した上で臨床的な議論もできるようになりましたね。留学中には、膵β細胞でインスリン遺伝子がメチル化により遺伝子発現を制御される機構を明らかにしました。この研究結果には多くの研究者に興味を持ってもらえて、今でも実験手法を教えてくれといろいろな先生が訪ねてきます。そういった実績を積み重ねたことは、今に生きていると感じます。
そして現在は、臨床応用に力を注いでいます。例えば、日本では長らく食事療法に食品交換表が使われてきましたが、超速効型インスリンが臨床で使用されるようになったことで、それまでの栄養管理方法では対応できなくなりました。そこで、アメリカで使用されている、炭水化物量からインスリン量を計算するカーボカウントという方法を日本にも導入しようと考えました。しかし、新しい方法を普及させるためには、学会に認められ、かつ現場で使用する栄養士にも理解してもらう必要があります。そこで、様々なデータを元に食品交換表とカーボカウントを融合させるための計算法を開発し、2年前に学会に発表しました。
1型糖尿病の診療を本当に良くしていくためには、基礎研究と臨床研究の両方が必要だなと感じます。
患者に近い視点で
――最後に、これから医師を目指す学生にメッセージをお願いします。
黒:病気がない人は、僕とは完全に立場が違うわけですから、困るところではあります。けれど、自分自身が当事者ではなくても、やっぱり患者に近い視点を持って診療してほしいです。
具体的には、学生時代から積極的に患者イベントに参加してみてほしいですね。糖尿病関連のものでいえば、小児糖尿病患者を対象としたサマーキャンプが全国各地で行われています。そういったボランティアは、どこの大学でも積極的に募集しています。今サマーキャンプを率いてらっしゃる先生方には、学生時代に参加してみて、糖尿病の面白さに気づいたという方も多いんです。教科書には絶対書いていない出来事を体験できるので、得るものはたくさんあると思いますよ。
1995年 東京医科歯科大学医学部卒業
2013年1月現在 徳島大学糖尿病臨床・研究開発センター 助教



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