同世代のリアリティー

総合商社 編

医学生 × 総合商社

医学部にいると、同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われています。そこでこのコーナーでは、別の世界で生きる同世代との「リアリティー」を、医学生たちが探ります。今回は、総合商社で働く社会人3名と医学生3名で座談会を行いました。

今回のテーマは「総合商社」

今回は、総合商社で働く社会人3名に集まってもらいました。どのような仕事をしているのか、仕事のやりがいは何か、どのようなキャリアを歩むのかなど、詳しくお話を聴きました。

総合商社って何をするの?

筧:まず、総合商社とはどのような業種なのでしょうか?

濱野(以下、濱):総合商社の仕事には、主に次の二つがあります。一つ目は売り手と買い手の取引を仲介して、その際の手数料を利益とする「トレード」、二つ目が他の会社を買収したり出資したりしてリターンを得る「事業投資」です。

木寺(以下、木):従来、総合商社はトレードをメインにしていたのですが、近年メーカーの海外進出が進んだことや、インターネットの普及などで、売り手と買い手が商社を介さず直接取引ができるようになりました。この影響で、事業投資に力を入れる流れができつつあります。そのため「総合商社は投資会社化している」と言われることもあります。

田邉(以下、田):取引の際に総合商社が仲介に入ると、取引相手にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

木:総合商社が仲介すると、大きな船をチャーターして大量の商品を一気に輸送したり、輸出入に関わる手続きを一手に引き受けたりすることができるので、雑務に煩わされなくなります。

福田(以下、福):また、お客さんからは普段のやり取りのなかで弊社との取引以外の悩みをお聴きすることも多いのです。そうした日々のやり取りのなかで築いた信頼関係から取引先のニーズを汲み取り、別のお客さんや業界とマッチングさせ、新たなビジネスにつなぐといった提案ができます。

木:新しいビジネスを始める際は、計画を立てるだけではなく、私たちも人材や資金を提供します。そういった、共にリスクを取ろうとする姿勢も、ビジネスパートナーとしての信頼につながっているように思います。

宮脇(以下、宮):規模の大きい取引が多く、常に緊張感がありそうな仕事というイメージを抱いていたのですが、実際はどのような雰囲気なのでしょうか?

福:普段からお客さんやメーカーの仲介役として気を遣う場面が多いからか、人当たりの良い、優しい社員が多いように感じています。ただ、仕事にストイックな人は多いです。ミーティングなどでは互いに自分の意見を述べ合い、良い成果を生み出そうという環境です。

木:上司・部下関係なく、気になった点は互いに指摘し合える、風通しの良い職場ですね。

筧:労働時間はどうでしょうか?

木:残業は少ないです。残業が少なければ少ないほど新しい仕事をもらえるので、全社的に残業をしない体制になっています。残っていると早く帰りなさいと急き立てられることも多いです。

意外と地味!?な日々の仕事

筧:皆さんは、具体的にはどのようなお仕事をしているのですか

福:僕は入社4年目で、エネルギー関連の部署に所属しています。

木:僕は入社3年目で、主にトウモロコシや大豆などの輸入を担当しています。

濱:僕は入社3年目で、日本のメーカーから金属製品を買い、それを海外の会社に売っています。

宮:どのような流れで取り引きをするのですか?

濱:お客さんから「こういう商品が欲しい」と言われたら、その商品を届けるまでが一つのプロセスになります。商品に関するお客さんからの質問や依頼に答えたり、輸出入の煩雑な手続きや、船舶の出荷や船積みの連絡を代行したりと、サプライヤー*やお客さんのお使いのような仕事が多いですね。

田:一日の具体的なスケジュールを教えてください。

福:時差があるため、朝は海外のお客さんやサプライヤーからのメール、マーケットの情報などを確認することから始まります。夕方になるとリアルタイムでやり取りしたり、海外のプロジェクトの決算を管理したりもします。そういった日々の積み重ねで、大きなプロジェクトを実現させていきます。華やかなイメージを持たれがちなのですが、日々の仕事は意外と地味なものが多いのです。

筧:お客さんと直接会うことはあるのでしょうか?

木:日本のお客さんを海外のサプライヤーのもとに連れて行くことがあります。例えば僕の部署では、海外のトウモロコシの農家さんのもとへ案内したりします。

濱:僕は来日したお客さんの観光案内をしました。鎌倉や京都などの名所を案内したり、ラグビーのワールドカップが日本で開催されていた時はそのチケットを取って一緒に行ったこともあります。

*サプライヤー…製品やその原材料、あるいはサービスなどを提供する事業者。

世界規模で考え働く魅力

筧:総合商社に就職して良かったと思うことや、やりがいを感じるのはどのようなときですか?

木:国家間の緊張が高まると、輸入ルートを変更せざるを得なくなったりと、世界情勢がダイレクトに響く仕事なので、物事を考える際の視野が広くなったように感じています。日本を支える一端を担う仕事という責任感は、やりがいにもつながっています。

濱:お客さんが求めている方向性とメーカーの方向性は、必ずしも一致しません。例えば、お客さんが求めるスペックをメーカーが実現できず、何度も価格交渉をしなければならないという事態もあります。自分がお客さんとメーカーをそれぞれ説得して、双方が少しでも同じ方向を向いてくれたときに、やりがいを感じますね。また、営業とは会社を代表し、前線に立ってお金を稼ぐことができる仕事です。それもやりがいの一つになっています。

福:株式会社に所属している以上、お金を稼ぐのは重要ですし、大きなモチベーションになりますよね。私は今の部門に来て数か月なのですが、先輩たちから話を聴くに、売り買いの世界で損・得がはっきりと分かれるスリリングで面白い仕事だと感じます。

総合商社社員のキャリアプラン

宮:いつ頃から大きな仕事を任せてもらえるようになるのでしょうか?

濱:事業投資とトレードで、いつ、どの程度自分の仕事の裁量を持つことができるかは変わってきます。事業投資の場合、若手のうち数年間はなかなか自分の裁量では仕事をできませんが、トレードなら、3年目頃には担当のお客さんを持ち、「このお客さんのことは自分が一番わかっている」という立ち位置になります。

木:事業投資とトレードではビジネスのスパンも違います。事業投資のような長いスパンの仕事の場合、年次を重ねてノウハウを蓄積していくと、指揮を任されるようになりますね。

田:海外転勤も多いのですか?

福:5~6年目になると、2~3年ほど海外に赴任します。家族がいる場合は、たいてい皆で一緒に行くようです。ヒューストンやシンガポールなどでは、日本の様々な商社の社員が集まってくるため、日本人コミュニティのようなものもあり、暮らしやすいそうです。

宮:就職した会社に定年まで勤めるという方が多いのでしょうか?

福:中には会社で得た人脈やノウハウを活かし、他にやりたいことを見つけて独立するという人もいます。

濱:ただ、社内の他の部門に移れば全く違う仕事ができるというのも商社の強みです。制度として社内公募があるので、異動の申し出など、常に自分のやりたいことを発信できる環境になっています。

医師と総合商社は協働できる!?

田:現在、日本では医療機器はほとんど輸入に頼っており、僕はそのような状況を変えようと医療機器の開発に携わっています。医療機器の輸出入に関して、総合商社の方と協働することはできるでしょうか?

木:皆さんの持つ技術の提供を受けたうえで、物流支援や、海外とのコネクションを提供することで、現在の医療機器関係で循環が滞っている部分を解消するということはできるかもしれません。

濱:医療と総合商社の関わりは未開拓のマーケットだと思うので、十分実現の可能性がある分野だと思いますね。

田:ありがとうございます。開発した暁にはぜひお願いします。

宮:今日は興味深い時間をありがとうございました。相手のニーズを汲み取って新しいビジネスにつなげるクリエイティブな発想の重要性や、「こういう仕事をしてみたい」という一人ひとりの働き方の自由度が認められている業界だと感じました。これまで医学の世界は比較的キャリアプランが固定的だったのですが、近年、働き方も自由になりつつあるので、とても参考になりました。

筧:皆さんのお話を聴き、お金を稼ぐというモチベーションを持つことはビジネスの場では健全なことだと感じました。

田:医師のうち、四人に一人は最終的に医療法人などの経営者になると言われており、僕たちももっとビジネスに関心を持つべきかもしれません。今回はビジネスマンの考え方に触れることができ、とても良い刺激になりました。ありがとうございました。

※取材:2022年3月
※取材対象者の所属は取材時のものです。

※この内容は、今回参加した今回参加した社会人のお話に基づくものです。

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