Blue Ocean
本連載は、医師不足地域で働く若手医師に、地域医療の最前線で働くことの魅力についてお尋ねするコーナーです。今回は埼玉県の深谷赤十字病院に勤務する本淨桃里先生と、秩父市立病院に勤務する福岡謙徳先生にお話を伺いました。
埼玉県と高知県で患者さんと深く交流しながら働く
研修は高知と埼玉のへき地で
――ご出身はどちらですか?
本淨(以下:本):私は中学生まで徳島県で過ごしました。そこは高知県との県境で、高校から高知県に移りました。出身校の自治医科大学(自治医大)には高知県枠で入学しています。
――自治医大に入学された理由をお聞かせください。
本:自治医大の「47都道府県から学生を集め、へき地で働く医師を養成する」という使命に感銘を受けたからです。また、徳島にいた頃は同級生30人が幼稚園から中学までずっと同じという環境だったため、全国から来た人々と会えるのはすごく楽しそうだと思いました。田舎育ちなのでへき地で働くことには抵抗がなく、むしろやり甲斐を感じたことから受験しました。
――高知県枠で入学された先生が、埼玉県で勤務しているのはなぜですか?
本:結婚相手が自治医大の同級生で埼玉県出身だったからです。自治医大の卒業生同士で結婚した場合、出身都道府県間で結婚協定*が結ばれ、互いの出身都道府県で一緒に働きながら義務年限を過ごすことができます。私たちが結婚したのは3年目の後半頃で、二人とも義務年限が6年残っていました。そこで前半3年間は埼玉、残りの3年間は高知で働くこととなりました。
――臨床研修から3年目までは高知県で働かれていたのですね。
本:高知医療センターでの臨床研修を終えた後、医師3年目は町立国保梼原病院に赴任しました。梼原町は人口4千人弱で、高知市内から車で1時間半のところにある町です。病院には常勤医師が5人いました。
この町では、専門医へ紹介することが容易ではありません。田舎で高齢者が多く、例えば80代の方が骨折された場合、遠方の病院にどう通うのか、家族が付き添えるかといった問題が出てきます。自分たちで診られる範囲かどうかを見極めながら、専門科の先生のお話も聞いて、なるべく地域内で完結できるよう努めていました。
――4年目からの埼玉県ではどちらに行かれましたか?
本:まず、国保町立小鹿野中央病院に赴任しました。秩父市街地よりさらに30~40分先の山奥で、人口が1万人ほどの町です。病院には、内科医が6名、整形外科医が2名、常勤で働いています。訪問診療や在宅ケアに力を入れており、私自身も訪問診療を数多く経験し、緩和ケアも上の先生に教えていただき、とても学びが多かったです。5年目の今は深谷赤十字病院に勤務しています。
*結婚協定…自治医科大学卒業生同士が結婚する場合、各出身都道府県の配慮のもと、特例的に配偶者の出身都道府県での勤務が認められる制度のこと。義務年限の振り分け方は、それぞれの都道府県の事情に合わせて協議するため様々なパターンがある。
地域に密着して人と関わる
――患者さんとの関わりで印象的だったことはありますか?
本:地域では、「私が作った野菜」「わしが釣った鮎」「先生、ちゃんと食っとるか?」と、皆さん食べ物をくださいます(笑)。スーパーや町中で患者さんに会って挨拶することもしばしばでした。梼原にいたときは、年の差65歳の友達もできたんです。「先生とは初めて会った気がしない。昔からの友達のようだ」と、山奥のお宅にお茶に呼ばれました。
また、小鹿野から深谷へ転勤する時は、患者の皆さんと記念写真も撮りました。プライベートでは患者さんと交流したくない人もいると思いますが、よそ者でも一度受け入れたら心を開いてくれる田舎の人の温かさが私は嬉しかったです。
――将来はどの地域でどのような働き方をしたいですか?
本:そこについては悩んでいます。自治医大卒の医師は、義務年限中に専門医資格を取れるかどうかという状況に置かれます。地域のために働きたいけれど、そのためにも専門性を高めたい、というところにジレンマを抱える人も多いです。
私は今のところ、義務年限の終了後は救急専門医として研鑽を積みつつ、土日や夜の当直などで人手不足の地域に赴きサポートしていこうと考えています。
――最後に、医学生へのメッセージをお願いします。
本:学生時代には様々なコミュニティの人と関わってほしいと思います。私も多くのアルバイトを経験し、理不尽な目にも遭ったりしましたが、それも含めて医学部以外の人々の生活や働き方を知ることができ、いい経験になったと思います。学外活動では医療系サークルで、他大学生との交流に刺激をもらいました。医師の世界は狭く、「病院内の常識は世間の非常識」とも言われるので、外の世界を知るのは良いことだと思います。
将来的には、どの科に進む人も、一度はへき地で働き、大病院にお願いする立場を経験してほしいです。患者さんの生活や、何に困って医療機関に来るのか、医療資源がいかに限られているのかを知ってほしいですね。
最後に、学生時代には遊べるときに遊んでおくことも大事だと思っています。コロナ禍で大変だとは思いますが、楽しい思い出を作って、悔いのないよう過ごしてほしいと思います。
本淨 桃里先生
2018年 自治医科大学卒業
深谷赤十字病院 救急診療科
※取材:2022年5月
※取材対象者の所属は取材時のものです。
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