スタディ・ツアーを終えて(前編)
小池 研太朗(九州大学医学部4年)
最近よく耳にするようになった気がする「在宅医療」という言葉。イメージをしてみたものの、なんだかネガティブなものばかりが浮かんできてしまいました。ともすると、在宅医療とは超高齢社会に対する根本的な解決策ではなく、対症療法にしかならないのだろうか?なにはともあれ自分の目で見てから考えよう。参加する前は、そんなことを考えていたように思います。
実際に訪問診療に同行させていただき、先生方と患者さんの関係を見ていく中で、患者さん、そして患者家族の方から先生方が心から感謝されているのを見る中で、私は来る前は在宅を「なにで」「どのように」しているのかということをイメージするあまり、「なぜ」在宅をするのかということを見落としていたなと気づかされました。ものものしいベッドはあるものの、自分の家に患者さんがいるということは、とても当たり前で落ち着くもののように思いました。
「なぜ」在宅なのかという目で見ているうちに、吉田先生から「患者の言いなりではなく、患者中心の医療」というお話も伺いました。「患者のいうことを聞くというのは表面的なことを捉えているだけで、患者さんの環境、考え方、背景までを踏まえてアドバイザーになるのが医師である」ということでした。患者さんの希望や病状、患者さんを取り巻く背景までを考えた上で、本当に在宅が患者さんのためになるかを考えるという真摯な姿勢を見せていただいたように思っています。
今回の見学を通して特に感じたのが、患者さんの背景、考え方を捉えるということでした。どの先生方も病気を治すということだけでなく、治していく過程、治った後までを考えて患者さんに接しているのを見て、温かい気持ちになりました。命さえ救えば終わりなのではなくて、その先があるということ、健康かどうかを見届けることも医療であると再認識できました。
「医師の満足には、病気が治せたかという勝敗や功利にもあるけれど、患者の満足はまた別のところにある。病院ではなく、家という相手のフィールドに飛び込み、ある種自分が弱くなるようなことも感じる」と言いながらも、患者さんに向き合い、寄り添っていこうとする先生方の姿勢に憧れました。
最後になりましたが、今回のツアーを受け入れてくださった頴田病院ならびに松口循環器科・内科医院の先生、スタッフの皆様、本当にありがとうございました。今回の体験をしっかりと経験に変えて、これからの学生生活の糧にしていきたいと思います。
吉田 伸先生(頴田病院 臨床教育部長)
大島さんと話していて、彼の「人は見たことや経験したことからしかイメージを膨らませることができない」という言葉に共感しました。私は、在宅医療は患者さん一人ひとりの疾病と生活がどう絡み合っているかを経験できる、この上ない方法のひとつだと思っています。私は患者さんの家で一人ひとりの営みを知り、そこから様々なニーズをイメージし、自分の診療スタイルを広げていくことで、日々成長を感じています。
小池さんのレポートは、在宅医療の特徴を俯瞰しようとする姿勢があって、素晴らしいと思いました。私自身、在宅で患者さんと笑っているときは、こんなにいい医療はないと思う瞬間もありますが、それがいつも、どの患者さんにも当てはまるわけではないでしょう。医師がやりたい医療ではなくて、患者が受けたい医療は何か…そんなことをひとしきり考えながら、今日もそれぞれのお宅のドアを叩いています。
まだまだ未熟な私たちの在宅診療が、これからの世代を担う医学生のみなさんにどのように映るのか、とても興味がありました。このように言葉にしていただけると、私にとっても診療の励みになります。「経験すること」と「深く振り返ること」。みなさんとともに、私たちも成長していきたいです。一緒に頑張りましょう!!
写真左から、大島さん、小池さん、松口先生、加藤先生、吉田先生。
スタディ・ツアーを終えて(後編)
大島 壮太郎(旭川医科大学医学部6年)
私はこの半年間、日本プライマリ・ケア連合学会の後期研修プログラムを何度も見学させていただきました。北海道、沖縄の離島、山間の渓谷の村、東京のど真ん中など、全国25か所を回っています。その流れで、今回のドクタラーゼのスタディ・ツアーにも参加することになりました。
まず、今回のスタディ・ツアーを通して強く印象に残ったのは、先生方が検査機器に頼らず問診と身体診察だけで判断する診断力の高さでした。例えば、頴田病院の吉田先生は、脳梗塞後の訪問診療で、専門外来では相談しづらいようなちょっとした皮膚の心配事に対して「これは安心なものですよ。」と自信を持って説明されていました。
また、病院というホームグラウンドではなく患者さんの家、言うなればアウェーの場で受け入れてもらうコミュニケーション能力の高さにも驚かされました。竹田綜合病院の渡邉先生は、訪問先の患者さんから「先生の顔を見るだけで安心できます」と言われていました。「何回目の訪問ですか」という私の問いに「2回目だよ」とのこと、まるで何年も通い詰めているような信頼関係を感じました。渡邉先生が「患者さんは心の底から笑える環境にいるのがいいよね」と仰ったのも心に残っています。たしかに病室では、人は心の底から笑うことは難しいと気づかされました。
特に考えさせられたのは、先生方が疾病だけでなく、家族との関係の中での、また地域での生活者としての患者さんをみる姿勢を大切にしていることでした。人は誰でも、自分が生まれ育った限られた地域の中での、限られた数の家族関係の中での体験しかしてきません。若手医師は、あらゆるバックグラウンドを持つ患者さんの日常生活を、何のきっかけもなくイメージすることは難しいのではないかと思います。例えば、脳梗塞後の患者さんの生活が自分の今までの経験でどれくらいイメージできるでしょうか。実際に訪問させていただくことではじめて、その人の家族の中での位置が見て取れ、病名ではなくひとりの人として捉えることができるようになるのではと感じます。人は見たこと・経験したことからしかイメージを膨らませることができません。将来病院で勤務する専門医になるとしても、すべての若手医師が早い段階で訪問診療を経験することの重要性を強く感じました。
今回、会津・飯塚で学生の見学を受け入れてくださった先生方、家に見ず知らずの学生の訪問を受け入れてくださった患者さん、ご家族に感謝いたします。ありがとうございました。
髙栁 宏史先生(福島県立医科大学医学部 地域・家庭医療学講座)
医学生の実習を福島で受け入れることができて誠に光栄です。今回、在宅医療の現場を実際に見て、参加者の大島さんは患者さんをどのように診るかを実感できたと思います。私たちも、熱心な医学生の学びの体験を現場で聞くことで、いい刺激になりました。自らの地域、診療について改めて振り返ることができましたし、また、実習先をコーディネートする過程で、地域で活躍する医師と新たな交流を育むことができました。
学生のみなさんに覚えておいてほしいのは、在宅医療を提供する医師には、患者さんの代弁者でありながら在宅ケアのサービスをコーディネートする責務があるということです。患者さんとその家族の状況を医師の視点で把握し、よりよいケアにつながるように各職種へアドバイスすることが求められます。なので、各種サービスの内容や介護保険制度を知っていなければなりませんし、診療している地域のサービス・資源についても熟知していなければなりません。これらの知識は在宅でのケアを提供するのには必須の知識です。
医師・患者間の信頼関係の構築をより強固なものにしているのは、多職種連携への医師の自覚だということも、ぜひ覚えておいてほしいと思います。どうもありがとうございました。
写真左から、髙栁先生、大島さん、武田先生。
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- Information:October, 2013
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- 医学教育の展望:救急を基盤とした研修で大学と市中の両方を経験
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