江本 駿さん(周期性ACTH-ADH放出症候群)
協力団体:患医ねっと NPO法人患者スピーカーバンク
インタビュアー:宝田 千夏(昭和大学医学部3年)、河上 哲朗(昭和大学医学部4年)
―― 珍しい病名ですね。
江本(以下、江):「周期性ACTH-ADH放出症候群」はその名の通り、周期的にACTHとADHが分泌される疾患で、日本には100人ほどしか患者のいない稀な疾患です。
私の場合は7歳のころに発作が出始めました。1~2週間に1回くらい激しい腹痛と嘔吐が1日近く続き、それが終わるとケロッと元気になる、という感じでした。発作の間は、お腹に爪を立てたり引っ掻いたりしながら腹痛に耐え、脱水症状になるのを防ぐためスポーツドリンクを飲んで寝ているぐらいしかできない状態でした。
診断がついたのは2年後でした。はじめはいろいろな病院を回っても病名がわかりませんでした。親も「この子はもうダメかもしれない」と思っていたらしく、悔いのないようにといろいろなところに旅行に連れて行ってくれていたと後から聞きました。診断がついたきっかけは、親が発作を記録していてくれたことです。記録を見ると症状に周期性があることがわかり、その記録を持って病院に行ったら、たまたま同じような症状の女の子が入院していて、そこで診断がついたんです。
―― 診断がついて変わったことはありましたか?
江:この後どのような経過をたどるかがわからない不安が大きかったので、診断がついたことですごく安心しました。
この病気は思春期ごろには治るとされているんですが、私の場合、実際に発作が出なくなったのは18歳の冬でした。けれど「本当に治ったのかな」という疑問はまだあるので、現在も小児科に通院しています。
―― 学校生活はどのように過ごしていましたか?
江:先生には発作のことは説明していました。1週間に1回は休むので、勉強はどうしても遅れていました。テストの日に発作が出たときには、普段の成績から見込みで点数を出してもらったこともありました。高校入試・大学入試の時は発作の日と重ならなかったのでよかったのですが、これが重なっていたら大変だったと思います。
―― 友達付き合いの中で、つらいと感じたことは?
江:正直、なんで自分だけ…と思っていました。ただあまり自暴自棄になることはなく、静かに絶望しているという感じでした。もともとひょうきんな性格だったので、クラスでもいじめられるようなことはありませんでしたが、「どうせ9日経ったらまた発作が出るんだ」と思うと暗い気持ちになりました。周りに同じ痛みやつらさをわかる人が全くいなかったので寂しい思いもしていました。あとは、勉強も運動も好きで、いっぱいやりたいことがあるのに体がついていかなくて、もどかしさを感じていましたね。
―― 病気と向き合えるようになったのはいつごろですか?
高校生ぐらいのころです。理解のある両親と親友の支えもあり、この発作ともうまく付き合っていこうと思えるようになったんだと感じます。「どうせ発作が出る」と絶望するのではなく、「発作が出るなら、前倒しでこれをやっておこう」と計画的に考えることができるようになりました。
―― 昨年、患者会を立ち上げられたそうですね。
江:稀な疾患ではありますが、周囲にわかってくれる人がいなくて困っているのは自分だけではないと思い立ち、元患者としてできることをしたいと、2012年に患者会を立ち上げました。今はまだ参加者を募るなどの準備段階ですが、患者会を通じて、病気のことや生活の知恵を共有できたらいいなと思いながら活動を続けています。
発作の記録をもとに発症当時の様子を語る江本さん(中央)
7歳で周期性ACTH-ADH放出症候群を発症。2年後に診断がつき、闘病生活の中で高校・大学受験を経験してきた。現在、大学院で患者会の研究を行いながら、自らも2012年2月に患者会を立ち上げ、同病患者・家族同士の情報共有に努めている。東京大学医学系研究科修士1年在学中。慶應義塾福澤諭吉記念文明塾修了。
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