沖縄県医師会医学会賞(研修医部門)(前編)

優れた研究発表を行った研修医を
年2回、表彰しています。

県医師会の医学会が研修医向けの賞を創設

沖縄県は、県外からも多くの研修医が研鑽のために訪れる地域です。1979年に琉球大学に医学部が開設される以前から、県立病院がアメリカ式医学教育を積極的に取り入れてきたという背景もあり、新臨床研修制度が始まる前から、各研修病院に熱心な指導医が多かったのです。沖縄県医師会は、県外から若い医師が来ることで、沖縄の医療が活性化することを期待していますが、全国の研修病院が教育に力を入れている中で、沖縄県にやって来る研修医の数は2006年をピークにやや減少傾向にあります。

そこで、研修医のモチベーションを高め、沖縄での研修の魅力を向上させるべく、沖縄県医師会医学会では「沖縄県医師会医学会賞(研修医部門)」という賞を創設しました。学会の中で研修医がポスター発表する機会を年に2回設け、その発表の中から優秀者を各回ごとに3名選んで表彰するという取り組みです。この賞について、沖縄県医師会医学会副会長の田名毅先生にお話を伺いました。  

「2011年の12月に、第1回目の沖縄県医師会医学会賞(研修医部門)を選考しました。初期研修2年目の医師を対象とし、毎年6月と12月の計2回、最優秀賞1名・優秀賞2名を表彰しています。2013年6月までに計12名の研修医が表彰されました。表彰式は翌年の4月、1年目の研修医を集めたレセプションパーティーで行われます。頑張った成果を後輩の前で表彰されることが、若い先生方にとって誇らしく、モチベーションにつながっているようです。また、研修医だけでなく、指導医のレベル向上もこの賞のねらいのひとつです。各研修病院から1~2名の研修医を推薦する仕組みになっていますので、指導医の先生も、『病院やチームの代表として頑張ってもらわなければ』と指導に熱が入るのです。そのためにも、演題を絞って推薦してもらっています。」

ポスターポスター2

現場で感じたことを重視して

発表の内容は主に、研修中に経験した症例の報告が多いそうですが、その症例を通じて関心を持った分野について、指導医の協力を得ながら過去数年間の症例を集めて検討するようなケースもあるそうです。ただ、審査側からは「医師になったばかりなのだから、現場で患者さんを通して感じたこと・勉強させてもらったことをしっかりと演題の中に入れて、自分の言葉で表現するようにしてほしい」と伝えているそうです。先輩方からの意見は貴重ではありますが、自らの経験に基づいた発表を行うことで学びを深め、その学びを若手同士で共有していけるような場にしたいと考えているとのこと。  

「県医師会の医学会ということで、専門の学会よりもプライマリ・ケアやQOLの観点を重視した内容に近づけていきたいと考えています。研修医は受け持ち期間も短いですし、まずは研修医として関われる範囲内の内容で構わないのですが、患者さんとの会話から感じたことや、その人の生活背景や人生についてどのように捉えたのかという点に関しては、しっかり表現してほしいと伝えています。 自分たちの学んだ内容を発表することで、同じく現場で頑張っている若い先生たちが知識を共有し、最終的に医療・医学の質が向上していくことを期待しています。また、若い先生が県医師会とこのような形でつながりをもつことで、沖縄の地域医療を支えることに少しでも関心をもってもらえたらと思っています。」

田名毅先生ポスター


沖縄県医師会医学会賞(研修医部門)(後編)

平成25年6月  第116回沖縄県医師会医学会賞(研修医部門)最優秀賞
「若年で肝性脳症を繰り返す非肝硬変症の一例」
琉球大学医学部附属病院 研修医 山城 貴之先生

山城貴之先生研修で消化器内科を回っていたとき、救急から肝性脳症による意識障害の患者さんが運ばれてきました。肝性脳症は、有害物質であるアンモニアが体内に溜まってしまうことにより意識障害を起こす疾患です。多くは肝硬変など肝臓の機能が傷害されていたり、あるいはシャントが起こってアンモニアが体内に回ってしまう場合に発症することが多いのですが、この患者さんの場合、肝性脳症を起こす一般的な原因が全く見られず、何度か同じ症状で運ばれてきては、原因不明とされていました。

気になって、患者さんが退院した後も、上の先生に相談しながら論文などを読んで調べました。すると、小児では先天性の遺伝子欠損によってこのような症状を引き起こす例があることがわかり、この患者さんにもあてはまることがデータから推測されました。若年成人では珍しい例だったので、「こういう症例もあります」という形で、学会で紹介させていただきました。

現在患者さんは、食事制限をしながら定期的に外来を受診しており、再発を防ぐことができています。 このように論文や資料などを自分で探し出して調べた症例発表は初めてでした。これからの発表や研究の基礎になるような経験ができたので、とてもいい機会をいただいたなと思っています。