EPISODE #03 血管内治療(前編)
済生会西条病院
愛媛県東予地区に位置し、約15万人の人口をかかえる西条市。数年前まで心臓カテーテル検査を受けられる施設は1つしかなかった。心疾患は我が国の疾患別死因の第2位であり、末梢動脈疾患が増加の一途を辿る中、患者および住民の高齢化、核家族化が進んだこと、公共交通インフラの脆弱化にともなう遠隔地への通院が年々困難となってきていることから、地域完結型医療に対する要望が高まっていた。10年目の循環器科医が、一つの病院で血管内治療ができる体制を作るにはどうすればいいか?
問題と解決策
▶血管内治療(カテーテル治療)に携わるスタッフを育成する
血管内治療は技術と経験を持ったスタッフが連携しなければ行えない。さらに治療後の急変もあり得るため、病棟スタッフに対する教育も必要であった。特に医師1名をコアとしたユニットでどのように急変時の対応を行い、スムーズな治療をし、患者対応を行うかを検討した。
▷クリニカル・パスを作成する
▷毎週カンファレンス+ミニ勉強会を開く
▷比較的難易度の低い検査・治療で自信をつける
金子先生の着任から1か月で血管撮影室を改築、2か月目から治療を開始した。スタッフに経験者はほぼおらず、使用済の材料を水洗いし、毎週練習を重ねた。
▶治療に関わることのできるスタッフを複線化する必要がある
血管疾患は可能な限り、24時間受け入れる必要がある。一人でも多くのスタッフが治療に習熟し、人員的な余裕を作らねば対応できない。また定時の手術もスピードアップし、可能な限りスタッフが定時帰宅できるようにしなければ続けられない。
▷習熟しつつあるスタッフの「定住化」と「さらなる進化」をはかる
▷検査・治療件数を増やし、「定数増」を実現
▷職種を越えた屋根瓦方式の勉強会が自然に生まれる環境づくり
スタッフはみんな仕事をしながら家事や育児もするお父さんお母さんで、時間がない。そこで金子先生は、物事の優先度を決めるなど、効率よく仕事をする方法を伝えてきた。
▶院内他科・地域の開業医と連携して患者さんの治療を行う
地域では大学医局の特性から「循環器科=高血圧や呼吸器疾患の診療」というイメージが強く、血管内治療を中心に行う認識が乏しかった。さらに院内で予算や人材資源を得るためには症例数・売り上げ双方の実績を上げねばならなかった。
▷血管内治療と連携医療の利点をプレゼンテーションする
▷関連診療科にかかっていて心臓・血管疾患を合併した患者さんに対して積極的に、
完璧な治療を行い続ける
▷連携医からの診療依頼を可能な限り受け入れる
社会福祉課地域医療連携係は、医療連携のみならず市民啓蒙活動も行っている。「顔の見える連携」を合言葉にMSW同士のつながりも構築しつつある。連携医療機関への報告は電話で「すぐに」行い、退院後も看護・服薬・リハビリ指導が継続できるようにした。
EPISODE #03 血管内治療(後編)
済生会西条病院
クリニカル・パスを再設計
金子先生は2011年の9月に赴任。3年間も循環器科が閉鎖されていたため、カテーテル治療に携わった経験のあるスタッフは少なくなっていた。カテーテル治療には、医師以外にも様々な職種が関わる。それぞれが十分な経験を持ちうまく連携できなければ、治療を進めることができない。そこでまず2か月かけてクリニカル・パスを作成した。以前勤務していた病院のパスを現在の病院に合わせて詳細化した。治療に必要なプロセスを検討する過程で、治療やケアの意味がメンバーに共有された。
「開始時のスタッフは経験のある人を中心に集めてもらいましたが、それでも不安は大きかったと思います。経験のないスタッフでも無理なく業務ができるよう、誰が何をすればいいのかを明確にしました。」
まずはコアメンバーを育成
11月からは入院患者を受け入れ始めた。本来の目標は急性心筋梗塞の患者を受け入れること。急性心筋梗塞はいつ起きるかわからないので、24時間受け入れる体制を作らなければいけない。そのためには経験あるチームが最低2つは必要だが、いきなり2チーム作るのは難しい。そこで金子先生は、まずは1チームをしっかり育成することに力を入れた。初めの1年半は救急を受け入れず、検査から治療までをある程度の時間をとって準備できる待機的な陳旧性心筋梗塞のカテーテル治療などに限って入院を受け入れ、その治療の中で経験を積み、コアメンバーを育成した。
「とにかく脱落者を一人も出さないことが重要だと考えていました。スタッフを疲弊させてしまったら、辞めてしまう。この地域では、一度辞めてしまったらもう代わりの人材はいないですから。また、循環器の一流の病院にスタッフみんなで見学に行ったり、自分達の取り組みを学会で発表していくことで士気を高め、自信を持ってもらえるように働きかけてきました。」
入院患者を受け入れる上では、カテーテル治療に携わるスタッフだけでなく、病棟の不安も取り除く必要があった。
「しばらく循環器病棟がなかったので、病棟の看護師からは『急変時に対応できるだろうか』『専門的な知識が必要とされるのではないか』という不安の声が挙がっていました。私は、『カテーテル治療を受けた患者さんで安定期であればそれほど観察項目もないし、寝たきりの高齢者よりは、元気になって退院していく人を看るほうがいいよね』と病棟に説明しました。実際、入院患者を受け入れていくうちに、スタッフも徐々に理解してくれるようになりました。」
循環器科を継続させるための工夫
コアとなる最小限のメンバーは揃った。目標である急性心筋梗塞を受け入れられる体制にするには、救急対応が可能なように、チームを複数にしていく必要があった。そのためには人を増やすだけの予算が必要だが、これまでの待機的なカテーテル入院治療により循環器部門の収益は伸び、実績が認められて、メンバーを増やすことができた。こうして2チームで交代できる人数までチームメンバーが増え、2013年からは救急対応を行っている。
「カテーテル治療以外の検査は全て外来で、かつなるべく医師がかかわらずに行うようにし、治療後もできるだけ早く退院できるようにするなど、DPC制度に対応した工夫を行ってきたことがポイントになったと思います。」
地域でカテーテル治療のできる体制を整え、継続していくために必要な連携は、院内に留まらない。金子先生は地域連携室のスタッフにも協力を仰ぎ、地域の開業医約100名と密に連携を取っている。
「この地域で継続的に循環器医療を担っていくためには、地域の開業医から患者さんを紹介してもらわなければなりません。そこで当院で治療した患者さんについては、開業医の先生が外来治療しやすいように丁寧に内服薬の調整などをして、まずはこちらから開業医の先生に紹介するいくようにしました。そうすることで、開業医の先生からも患者さんを紹介してもらえるようになりました。」
2011年9月、地元である西条市に戻ってきた金子医師が循環器科を再開させた。立ち上げ時のスタッフは先生を含む7名だけだったが、3年目になる今はメンバーも増え、年間約150件のカテーテル治療を受け入れる。
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- 医師への軌跡:窪田 泰江先生
- Information:January, 2014
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- 特集:多職種連携の現在と未来 日本医師会副会長・今村 聡先生に聴く
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- 地域医療ルポ:三重県津市|久藤内科 久藤 眞先生
- 10年目のカルテ:救急科 相坂 和貴子医師
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- 10年目のカルテ:救急科 椎野 泰和医師
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- 医師の働き方を考える:「地域の世話焼きおばさん」として、子どもからお母さんまで見守る
- 大学紹介:東京医科大学
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