10年目のカルテ

命の責任を負う者として
知識と技術に裏付けられた強さを持っていたい

【麻酔科】宮本 真紀医師
(岐阜市民病院 麻酔科)-(前編)

「命の橋渡し」をする麻酔

宮本医師

――初期研修のころから麻酔科を目指していたんですか?

宮本(以下、宮):いえ、はじめは消化器内科をイメージしていました。ただ、ローテーションで様々な科のがん患者さんを診るうちに、緩和医療に興味を持つようになりました。そんな中、ちょうど「今日からお願いします」と麻酔科に挨拶に行った日に、腹部大動脈瘤破裂の患者さんの緊急手術があったんです。すぐに麻酔の手伝いに入って、何もできないながらも麻酔の過程を一通り見て、命が助かっていくのを目の当たりにしました。最終的にはその方はフルリカバリーして、何の障害もなく退院されていったのですが、手術麻酔には命の橋渡しのような側面があるということにカルチャーショックを受けましたね。入眠させて覚醒させて…というと簡単なようですが、実は危ない橋を渡るための生命線を守っているという感じがして、さらに興味がわきました。緩和と麻酔って、一見すごく離れたところにあるんですが、それが混在しているのも面白いなと。

――術中は、外科医は複数人いても、麻酔科医は一人という場合が多いですよね。

宮:はい。専門医は一人で麻酔をすることが多いため、判断も一人で行うことが多くなります。何か判断に迷った時にはとにかく安全を最優先にして動くようにしています。安全が保証できない場合や、リスクがある場合は、手術内容や手術の時期を再検討していただくように外科サイドに提案することもあります。命を守る責任を負うという意味で、麻酔科医はより多くの症例を経験し、自信を持って治療法を選択するために、常に新しい知識や技術を習得する必要があると感じています。

宮本医師1WEEK
10年目のカルテ

命の責任を負う者として
知識と技術に裏付けられた強さを持っていたい

【麻酔科】宮本 真紀医師
(岐阜市民病院 麻酔科)-(後編)

麻酔科の醍醐味

――救急で運ばれてきた患者さんを救うというと、救急科や外科のイメージが強いですが、麻酔科の醍醐味とはどんな点なのでしょうか。

宮:まずは緊急手術の麻酔です。救急処置や外科手術を無事終えるためには、麻酔や呼吸・循環管理が不可欠です。ところが、緊急手術だと、何の既往があるのか、合併症があるのかなどが全くわからない状態から始まることも多いので、目の前の患者さんの身体所見、採血や心電図、レントゲンなどから、ある程度の状態を把握し、リスクヘッジをしていく必要があります。例えば「腎機能が悪いな」とわかったときに、症例に応じて腎保護を優先できる状況にあるのか、腎機能を優先するよりもまずは最低限の生命の担保そのものが重要であるのか…など、瞬時に判断しながら麻酔の計画を立てなければなりません。こうした優先順位のつけ方が非常に重要なんです。

対して予定手術における麻酔の醍醐味は、いかに良い麻酔を提供するかという質の追求にあります。事前に既往などを聞いておけるとはいえ、限られた時間の中で患者さんの情報を得て、様々な麻酔の方法を検討しなければなりません。短期間で信頼関係を構築し、「手術ではこういう麻酔をします」「こうしたリスクがあります」と説明して、患者さんが安心して手術を受けられるようにすることが大切です。患者さんや外科医の期待に応える麻酔を1症例ずつ積み重ねることにより、麻酔そのものの質の向上につながると信じて毎日努力しています。

――他科の先生とはどのような関わりがありますか?

宮:術後にICUに入る場合では、外科や整形外科など主科のドクターとともに、私たち麻酔科医も一緒に担当につきます。ICUは重症で煩雑なので敬遠する気持ちがある医師も多いですが、重症な症例は、集中治療の専門医の先生に教えていただきながら評価・診断・治療を繰り返すことで、幅広い知識を得ることができ、とても勉強になります。その知識や技術は救急や麻酔の現場で再度活かされます。全身の知識を幅広く有してはじめて麻酔科の本分を発揮できるため、麻酔科にとって知識の整理・活用・刷新になるICUはとても重要です。高齢になると合併症がない方がむしろ珍しいので、私たちは呼吸や循環のプロとして全身を管理し、合併症が出ないかどうかを注意して診ています。全身状態が安定した際は、病棟管理で問題ないか検討し、病棟にお戻しします。

今後のキャリア

――女性でも働きやすい環境でしょうか?

宮:オン・オフははっきりしていますね。手術が長引く場合や、急変もありますが、当番でない限り呼び出しもないので、女性が働くにも魅力的な科だと思います。私も結婚して家庭を持つ身ですが、仕事もバリバリやっています。比較的家庭との両立がしやすい科だと思います。

今後のキャリアについては、リスクのある患者さんの麻酔をいかにマネジメントするかや、その後の集中治療に興味があります。あとは原点に戻って、緩和やペインにも携わってみたいですね。麻酔は、頭の先から指の先まで、解剖生理を全部知っていなければできないので、勉強はずっとしていきたいですし、学位も取りたいと思っています。


宮本 真紀
2004年 岐阜大学医学部卒業
2014年4月現在 岐阜市民病院 麻酔科

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