10年目のカルテ

患者さんと会話しながらじっくり痛みに向き合える
ペインクリニックで働く

【麻酔科】藤原 亜紀医師
(奈良県立医科大学附属病院 麻酔科)-(前編)

手術麻酔からペイン専従へ

藤原医師

――いつごろから麻酔科に進むことを希望していたのでしょうか?

藤原(以下、藤):大学5~6年の病院実習で、各診療科を回ったときでした。ちょうど私が見学させてもらったのが心臓外科の手術で、麻酔のプランニングや輸血のタイミングなどを麻酔科の女性の先生が中心になってやっているのを見て、「かっこいいな」と思ったのがきっかけでした。

麻酔科に入局して、はじめに経験させてもらったのは全身麻酔です。整形外科や耳鼻科など基礎疾患のない患者さんの全身麻酔のみの手術に入り、上の先生に指導してもらいながら一緒に麻酔をかけます。それができるようになったら硬膜外麻酔などの局所麻酔併用の全身麻酔を経験し、さらに脳神経外科・呼吸器外科・心臓外科などの手術に入ってより複雑な麻酔を行うようになります。これらがひと通りできるようになるのに丸2年ぐらいかかります。

約2年で麻酔科標榜医の資格を取得することができ、さらにその後にペインや集中治療、緩和といったスペシャリティを身につけていきます。

――様々なスペシャリティがある中で、ペインクリニックを専門にしようと思ったのはなぜですか?

藤:手術麻酔だと、手術中ずっと患者さんを診ているものの、患者さん側に意識がないことも多いです。何年か麻酔を経験してみて、私はもうちょっと意識のある患者さんと、コミュニケーションをとりながら治療をしていきたいなと感じたんです。そこでペインクリニックを選ぶことにしました。

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10年目のカルテ

患者さんと会話しながらじっくり痛みに向き合える
ペインクリニックで働く

【麻酔科】藤原 亜紀医師
(奈良県立医科大学附属病院 麻酔科)-(後編)

痛みの専門家として

――ペインクリニックの外来には、どのような痛みを訴える患者さんがいらっしゃるのでしょうか?

藤:一番多いのは整形外科疾患の患者さんです。手術をするほどではないけれど、骨などに変形があって痛いという方や、ヘルニアの急性期の方がいらっしゃいます。帯状疱疹痛などの皮膚科疾患の患者さんも多いですね。

この病院はペインクリニックの手技の中でも特に「神経ブロック」に力を入れています。針を刺して、神経に直接薬剤を投与する治療法なのですが、ただ痛みを止めるだけでなく、神経系をコントロールすることによってその症状自体を治すこともできるんです。

例えばヘルニアは、ヘルニアが神経に直接当たることで痛むと考えられがちですが、そうではなくて、当たった神経が腫れてしまうことで痛みが生じているんです。つまり、この腫れを抑えることができれば、痛みが引くだけでなく、そのまま治る可能性も十分にあるということです。

またヘルニアが2~3個ある人ならば、ブロックをやってみることで、どの神経が痛みの原因になっているのかを診断することもできます。整形外科の先生に、「手術の前に一度ブロックをやってみて診断をしてほしい」と依頼されることもありますよ。

侵襲性の低いものであれば外来で施術ができますが、侵襲的なブロックや脊髄に電極を入れる手術もしています。当院には、ペインクリニックの病床は5床あります。

ときには「この方は心を痛めているんだろうな」という感じの方もいらっしゃいます。痛みの定義は「不快な情動」なので、すでに痛みの原因がなくなっていても痛みを訴える慢性疼痛の方もよくいらっしゃるんです。そういう方に対しては、ブロックをするのではなく、話をじっくり聞いて、内服薬等をうまく使って経過をみることもあります。痛みをゼロにすることを目指すのではなくて、その人のADL(日常生活動作)を保つことをゴールにするわけです。「先生に週1回注射してもらえたら、なんとかやっていけるわ」と言う方なら、そのリズムを保って、患者さんが痛みと付き合いながらもなんとか過ごせるようにするのも、私たちの役割です。

――それぞれの痛みに対してどう対処するべきか、見極めるのが難しそうですね。

藤:はい。これはもう人対人の関わりという感じがしますね。ペインクリニックの医師として様々な経験を積んでいくなかで、身体所見、患者さんの印象や話の内容などを総合的に考えていくと、だんだん患者さんに適した治療がわかってくるような気がします。

今後のキャリア

――これから先、どんなキャリアを考えていますか?

藤:私はもともとは、どこかの町の市中病院でペインクリニックをやりながら、手術麻酔もやって…という感じを希望していたんです。でもご縁があって、この1月に大学のペインクリニック分野でポストを得られたので、この機会にちょっとがんばって学位をとろうかなと考えています。

今後も、ずっと外来でペインクリニックをやっていたいですね。痛みを訴える患者さんたちとじっくり付き合う医師になりたいなと思っています。

藤原 亜紀
2002年 奈良県立医科大学医学部医学科卒業
2014年現在 奈良県立医科大学附属病院 麻酔科

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