日本医師会生涯教育制度(前編)

医師になってからも、
常に主体的に学び続けるための制度があります。

医師の専門性と生涯教育の必要性

小森理事

医学生のみなさんには、現在自分が大学に所属して体系的な教育を受けていることは、当たり前のことのように感じられることと思います。しかし、ひとたび大学を卒業し、臨床の現場に出たらどうでしょう。医療・医学は常に進歩していきますが、新しい知識や技能を身につける機会は、学生の頃に比べると極端に減ってしまうでしょう。学会の専門医を取得するために学んだり、病院などで開かれる勉強会に参加したりするという方法もありますが、働き方によっては、必ずしもそのような手段をとれるとは限りません。医師として働き始めてしまうと、学生の頃のように、自分から何もしなくても学習の機会が向こうからやってくるという状況ではなくなってしまうのです。

しかし、医師であるからにはまず専門職としての能力をきちんともつ必要がありますし、最新の知識と技能を修得するために生涯にわたって学習を続けることは必要不可欠です。また、医師に対する患者の信頼を高く維持するためにも、医師が常に学び続ける姿勢を示すことが必要でしょう。

このような背景を踏まえて、日本医師会では、医師のみなさんが生涯学習を効果的に行えるよう、生涯教育制度を設けています。本制度は昭和62年に発足し、今日に至るまで数回の制度改定を行い、質の向上と内容の充実を図っています。中心にある理念はプロフェッショナルオートノミー、すなわち医師が専門職として自らを律するという考え方です。

日本医師会生涯教育制度

日本医師会生涯教育制度の目的は、医師の研修意欲をよりいっそう啓発すること、また、医師が勉強に励んでいる実態を社会に対して示し、国民からの信頼を高めることです。

制度に参加する医師は、連続した3年間に、本制度が定める単位とカリキュラムコードを合計60以上取得することで、「日医生涯教育認定証」が発行されます。1単位は1時間以上の学習に相当し、30分0.5単位から取得できます。カリキュラムコードについては、日本医師会生涯教育カリキュラム〈2009〉に基づき、84のカリキュラムコードが設定されています(表)。

 

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単位やカリキュラムコードを取得する手段としては、日本医師会e-ラーニングでの学習のほか、日本医師会雑誌に掲載される問題への解答や、講習会・講演会・ワークショップ・学会等への参加など様々なものがあります。このように日本医師会は、いつどこにいても、学びたいと思ったらすぐに学習できるような機会を整えているのです。


日本医師会生涯教育制度(後編)

生涯教育制度と専門医の認定

日本医師会は、今後日本医師会生涯教育制度を専門医の認定に取り入れることも視野に入れています。厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」の報告書(平成25年)においても、専門医の認定・更新にあたって、日本医師会生涯教育制度などの活用を考慮するという内容が明記されています。とくに、カリキュラムコード84項目のうち、基本的医療課題(CC1~15、80~83)を、あらゆる専門医の認定・更新要件として必修化することが検討されています。

生涯教育認定証 同報告書には、専門医の定義として、「それぞれの診断領域における適切な教育を受けて十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」と定められており、また、専門医の資質として、「医の倫理や医療安全、地域医療、医療制度等についても問題意識を持つような医師を育てる視点が重要」と書かれています。すなわち、どんな専門医も、地域を診るという視点を持って、全人的な治療を行うことが求められているのです。そして、医師であるからには、すぐれた技術を身につけるだけでなく、医の倫理や医療安全、地域医療や他職種との連携にも積極的に関与していかなければならないと言えるでしょう。

「医師である以上、プロフェッショナルオートノミーに基づいて、安全で質の高い医療を提供すべく、自らの意志によって生涯学習を続けていくべきです。そして、医療・医学に関する知識はもちろん、倫理や諸制度についても、学問的に整理された中で、体系的に学ぶことができる制度は、日本医師会生涯教育制度しかありません。医学生のみなさんも、将来ぜひこの制度を活用し、自己研鑚に励んでほしいと考えています。」(小森 貴常任理事)

(写真)日本医師会生涯教育制度を利用した際に発行される日医生涯教育認定証

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