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医の倫理の基礎知識 2018年版

【医師と患者】23.遠隔医療とその問題点

森久保 雅道(東京都医師会理事)


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 ICT技術の進展とAI機器の進歩は目覚ましく、その応用は日常診療のなかにも入ってきている。「遠隔医療」は情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為と定義されている。オンライン診療、オンライン受診勧奨、遠隔医療健康相談、オンライン診療支援者、診断行為等が含まれる。

 医師法第20条は「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」といわゆる無診察診療の禁止を謳っている。

 厚生労働省はオンライン診療の重要性からこれを容認する方針に転じ、この法令の解釈を平成9年の局長通知で示し、その後2度にわたって通知の改正を行ってきた。平成23年3月31日には、「診療は、医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである」としている。また、平成17年に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を公表し、累次の改正を行ってきた。平成30年4月から診療報酬上にも「オンライン診察料」が新設された。

 診療報酬における「遠隔診療(情報通信機器を用いた診療)」は以下に大別される。①専門医師が他の医師の診療を支援するDoctor to Doctor (DtoD)と、②医師が遠隔地の患者を診療するDoctor to Patient (DtoP)に分けられる。DtoDの代表例は遠隔放射線画像診断や遠隔術中迅速病理診断である。DtoPは島しょ地域、在宅や介護施設などで療養する患者に情報機器応用して診療するものである。その内訳はi) 情報通信機器を用いた診察。医師が情報通信機器を用いて患者との離れた場所から診療を行うもの。オンライン診療料、オンライン医学管理料、オンライン在宅管理料、精神科オンライン在宅管理料、電話等による再診料が認められた。ii) 情報通信機器を用いた遠隔モニタリング。情報通信機能を備えた機器を用いて患者情報の遠隔モニタリングを行うもの。在宅患者酸素療法指導料、在宅患者持続陽圧呼吸療法に遠隔モニタリング加算が設けられた。

 遠隔診療の基本的考え方は次の6点にある。

①医師-患者関係と守秘義務

 医師-患者間の関係において、診療に当たり、医師が患者から必要な情報の提供を求めたり、患者が医師の治療方針へ合意したりする際には、相互の信頼が必要となる。 このため、日頃より直接の対面診療を重ねている等、オンライン診療は医師と患者との間に直接的な良好な関係が既に存在する場合に限って利用されることが基本である。

②医師の責任

 オンライン診療により医師が行う診療行為の責任については、原則として当該医師が責任を負う。 このため、医師はオンライン診療で十分な情報を得られているか、その情報で 適切な診断ができるか等について、慎重に判断し、オンライン診療による診療が適切でない場合には、速やかにオンライン診療を中断し、対面による診療に切り替えることが求められる。

③医療の質の確認及び患者安全の確保

 オンライン診療により行われる診療行為が安全で最善のものとなるよう、医師は自らが行った診療について、治療成績等の有効性の評価を定期的に行う必要がある。 また、患者の急変などの緊急時等で、オンライン診療の実施が適切でない状況になった場合においても、患者の安全が確保されるよう、医師は、必要な体制を確保しなければならない。

④オンライン診療の限界などの正確な情報の提供

 医師は、こうしたオンライン診療による診療行為の限界等を正しく理解したうえで、患者およびその家族等に対して、オンライン診療の利点やこれにより生ずるおそれのある不利益等について、事前に説明を行わなければならない。

⑤安全性や有効性のエビデンスに基づいた医療

 適切なオンライン診療の普及のためには、その医療上の安全性・必要性・有効性が担保される必要があり、医師は安全性や有効性についてのエビデンスに基づいた医療を行うことが求められる。

⑥患者の求めに基づく提供の徹底

 オンライン診療は、患者がその利点および生ずるおそれのある不利益等について理解したうえで、患者がその実施を求める場合に実施されるべきものであり、研究を主目的としたり医師側の都合のみで行ったりしてはならない。

 

 遠隔医療の一部である遠隔診療は、厚生労働省も数々の指針を出し、その普及に努めている。診療報酬上にオンライン診療料等が記載されたが、ICTの飛躍的進歩によりさらに拡大していくものと考えられる。今後の診療報酬改定を注意深く見ていく必要がある。また、遠隔医療に関して、診療報酬上に記載がない項目、いわゆる自費診療に関して拡大適応が見られることが懸念されている。遠隔医療の継続のため法外な自費診療料を請求されることも懸念される。法整備が追い付いていないことも問題である。いずれにしても遠隔医療が発展途上にあることを忘れてはならない。そこに求められるのは、対面診療の原則の上に立った、患者との相互信頼に基づく、患者本位の診療である。

参考文献

1)日本遠隔医療学会:遠隔診療 通知・指針.
http://jtta.umin.jp/frame/j_14.html
2)日本医学放射線学会:遠隔画像診断に関するガイドライン.
http://www.radiology.jp/content/files/700.pdf
3)厚生労働省:オンライン診療の推進:平成30年3月9日.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/health/dai4/siryou1.pdf
4)厚生労働省:オンライン診療の適切な実施に関する指針.平成30年3月.
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf
5)厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン.平成30年4月.
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000166260.pdf
6)総務省:ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン.平成20年1月30日.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000166465.pdf
7)総務省:ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン.平成22年12月.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000166469.pdf
8)経済産業省:医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン.平成24年10月.
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/privacy/iryougl.pdf

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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