![]() ■医療構造改革構想(第1版) 1997年7月29日 日本医師会 医療構造改革構想(7月29日) 目 次 A.総論的事項 日本医師会は21世紀の少子高齢社会を迎えるに当たって当面の医療構造の抜本改革について昨年来鋭意検討を重ねて来たところであるが、今般、日本医師会案としての提言をとりまとめるに至ったので、その構想を国民に明らかにし、構想実現を期して政府与党にも申し入れを行うものである。 I.日本医師会は憲法で保障された「国民の健康権」を守るために医療提供体制と医療保険制度双方の抜本的改革を行い、後世に継承できる優れた医療制度の確立を図ることをその基本理念とする。
II.21世紀の少子高齢社会を乗り切るためには、1)高齢者の健康増進、2)高齢者および女性の雇用拡大、3)育児支援などによる社会の活性化こそ、その政策の基本でなければならないと考える。そのためには医療を始めとする健康投資こそ何にも増して優先されるべきものと確信する。
III.先般、政府から提示された財政構造改革案は財政至上主義の政策案であり、国民の命と健康を軽視するものと言わざるを得ない。特に、今後医学・医療が進歩し、高齢化が急速に進行する社会を考えるとき国民所得の伸び率の範囲内に医療費を抑制するという方策では社会保障の理念は遂行できなくなり、国民の支持が得られないことは明らかである。
IV.21世紀を迎えて今こそ国民の望む医療とは何かを考えねばならない。それは、1)誰でも何時でも何処でもかかれる医療、アクセスのよい国民皆保険体制の維持、2)良質で適正な医療の提供、この2点に集約できる。
V.国民の医療ニーズに的確に対応し、医業経営の安定化を進めるためには、診療報酬による対応だけでは不可能になってきており、総合的医療政策の推進が必要である。すなわち、税制、補助金や融資制度など様々な政策手段を十分に活用することによって医療財源を補完し、医療の質とコストのバランスが図れるよう工夫すべきである。
VI.疾病予防のため、保健事業を評価し、積極的に推進すべきである。将来的には予防検診の実施等に対する予防給付を保険給付の対象として位置づける必要がある。
このような視点から日本医師会が当面取り組むべき施策として、以下の事項がある。 〔1〕情報公開と医療提供体制の再構築 インフォームドコンセントによる患者と医師との信頼関係こそ医療の原点であることを確認する。又、患者のプライバシーを確保しつつ、各医療機関の機能について、詳しい情報を出来るだけ国民に分かり易く提供できる体制を構築する。 地域医療の中心は「かかりつけ医」であり、患者の大病院集中は地域医療システムに様々な混乱を来している。これを至急に改めるため、病診ならびに公私の役割分担をそれぞれ明確にして効率的な医療提供体制を構築する。
〔2〕薬価差依存体質からの脱却 物と技術の分離を徹底し、技術料評価を重視する診療報酬体系のあり方を追求する。一方、薬価算定の機構とルールの透明化を進め、薬剤費の適正化を強力に推進する。
〔3〕定額払方式の有効活用 病院と診療所、入院医療と外来医療、慢性期医療と急性期医療といったそれぞれの特性に見合った支払方式を選択し、適切に組合せることが必要である。 又、国民から厚い信頼をかち得てきた国民皆保険体制を堅持するために、限られた医療資源の有効活用に十分配慮すべきである。
〔4〕老人医療保険制度の創設 高齢者も独自に保険料を負担し、年金制度との整合を図り、高齢者全員を被保険者とする新しい老人医療保険制度を創設する。現行の拠出金制度を段階的に廃止する。完全実施の目標年度を設定し、速やかに介護保険制度との合流を図るよう制度の設計を行う。 I.薬価制度の改革 〔1〕基本方針 物と技術の分離を実現し、薬価差依存の経営体質からの脱却を図る。
〔2〕基本原則 1.医業経営原資としての薬価差をなくし、技術料を再評価すること。 2.必要な医薬品の安定供給、購入可能な価格であること。 3.適正処方を堅持すること。 以上の3原則を満足させる制度改革を実現するために、以下に示す具体的方法を提案する。
〔3〕具体的方法 当面以下に述べる問題点を早急に解決することにより、平成10年度からでも実現が可能である。 1.薬価差を技術料で適切に評価 地域別、診療科別、病院規模別による現行薬価差の評価 2.薬剤管理コストの評価 3.価格再算定のルール化 長期収載品目の価格引き下げ 市場拡大、効能拡大による価格引き下げ 実勢価格調査(毎年) 4.薬価算定の透明化 ・薬価算定方法の再検討 薬価算定機構(第三者機関)を設置 薬価算定の情報公開 5.保険請求方法の改革(薬価差解消のため) 新薬価:メーカー仕切価(出荷価格)とする・・・・(a) 購入価:(a)+流通手数料 ・・・・(b) (定率を設定) 保険請求価:(b)+薬剤管理コスト+消費税
〔4〕薬価基準制度の廃止論に対する日医の見解 財政構造改革会議は来年度から薬価基準制度の廃止を提案しているが、以下に指摘する問題を解決することが前提である。 1.自由価格制 (1)現行の薬価差を技術料として診療報酬で評価することが先決である。 (2)(購入価+薬剤管理コスト+消費税)を保険請求額とする。 (3)薬剤の低価格化へのインセンティブが働く場がない。 (供給が需要をリードする特異な市場) (4)薬剤価格の上昇の可能性が大きい。 (5)同一薬剤の価格が医療機関によって異なる。 (6)同一医療機関でも購入時期によって異なる。 (購入価格のチェック方法) 2.参照価格制度 (1)給付格差による処方制限の問題が発生する。 (2)参照薬剤をどのようにグループ化するかが課題である。 (3)参照価格設定の方法をどのようにするか。 (4)国による後発薬剤の有効性・安全性の保証が不可欠である。 3.医療機関の窓口事務の繁雑化が避けられない。 II.診療報酬支払い制度の改革 〔1〕基本方針 適切な医療情報の提供と患者の選択権を確保し、患者と医師の信頼関係を構築できる診療報酬支払い制度を作る。
〔2〕基本原則 1.医療の質の確保 2.適正な医療サービスへのアクセスの確保 3.効率的な診療報酬支払い制度 以上の3原則を満足させる制度改革を実現するためには、医療提供体制の再構築を含めた、以下に示す具体的な方法を提案する。
〔3〕具体的方法 診療報酬体系の見直しについて議論を進めるためには、わが国における多岐にわたる医療提供体制の機能分担を踏まえて考えなければならない。 1.病院と診療所 適正な医療サービスへのアクセスを確保するため、医療機関の機能分担・連携が求められている。
2.入院医療と外来医療
3.急性期医療と慢性期医療 患者の医療ニーズに適切に対応するために、急性期医療は出来高払い制を堅持し、慢性期医療の定額払い制を検討する。
〔4〕その他の支払方式についての見解 1.DRG/PPSについて DRG/PPS導入に向けての調査研究、対象病院、試行期間などを十分に検討することが必要である。特に、わが国においては医療提供施設が多種多彩であり、その適用に向けては十分配慮することが大切である。以下、DRG/PPSについての利点、問題点を列挙する。 (1)利点
(2)問題点
2.ドクターフィーとホスピタルフィーについて 入院医療における固定費用部分と技術費用部分との区別を行う必要がある。現行の診療報酬支払い制度では、物と技術の分離が明確でない。
〔1〕基本方針 老人医療の体系化を図り、高齢者全員を被保険者とする新しい医療保険制度を創設するとともに、介護保険制度との統合を図る。
〔2〕基本原則 1.世代内、世代間の連帯を踏まえた社会保険制度の原則を維持する。 2.医療提供体制や診療報酬体系から老人医療の体系化を図る。 3.介護保険制度との整合性を図る。
〔3〕具体的方法 1.老人医療保険制度の創設
2.老人医療の体系化 (1)医療提供体制
(2)診療報酬体系
(3)その他
3.老人医療保険制度と介護保険制度の整合性 (1)老人医療保険制度 老人医療の体系化を医療提供体制と診療報酬体系の面から再構築した上で制度の創設を図る。(財源の枠組みのみの議論であってはならない)
老人医療保険制度との整合性を図り得る制度設計とし、制度の見直しに柔軟に対応出来る仕組みとする。
2000年を目途に、介護保険制度と老人医療保険制度をそれぞれ創設し、5年間の運用及び施行期間を経た上で両保険制度の整合性を図り、速やかに両制度の統合を行う。 この間、老人医療保険制度に伴う医療提供体制や診療報酬体系を統合に向けて見直し、高齢者介護基盤整備を更に一層進め、運用内容を含め統合に向けての抜本的見直しを行う。 |