日医ニュース 第857号(平成9年5月20日)

医療政策決定の「新しい流れ」を

日医総研が発足

 前号日医ニュース(第856号の2面)に掲載したように、4月17日に第1回会議が開催され、いよいよ日医総研が発足した。日医総研については、これまでにもいろいろな機会を通じて紹介してきたが、正式な発足をみた今、直接、坪井会長に日医総研の現時点での状況と、将来への展望について、改めて解説してもらうことにした。

日医独自の政策立案機構

 4月17日に日本医師会総合政策研究機構(日医総研)を、正式に発足させた。

 日医総研設立の目的は、「国民に適正な医療を提供するため、日本医師会が医療政策を研究・立案し、国民の選択によって立法化する政策決定の新しい過程を作りあげる」ことにある。

 具体的には、都道府県医師会の医療情報の収集機能を活性化し、医療現場の情報を日医に集積し、これを評価する。そして、この情報を、一方では、日医の医療政策決定のための資料として活用し、他方では、地域医師会へフィードバックして、地域医療の向上の推進に生かしてもらう。このように、貴重な医療情報を双方向的に活用していくことに目標を置いている。

 これまでの医療政策は、厚生省が行政手法による動機づけに基づいて政策の案文をつくり、おおよその道筋をつけた上で、所管の審議会でオーソライズしてもらい、これを国会に提出して法制化する。こういう手法で決定されてきた。このように行政主導の政策づくりのみでは、必ずしも地域の医療ニーズに応えておらず、一方的・強圧的な政策になりがちである。それを防ぐためには、実際に地域医療に携わっている現場からの動機づけが必要である。

 いい換えれば、日医が独自の医療政策決定機構をつくり、厚生省などの政策と対峙させながら、それぞれの政策について国民の選択を求めていく 。このような「医療政策決定の新しい流れ」をつくる。これが日医総研の行動目標であり、執行部の意思決定のシンクタンクとして、さらに整備を図っていかなければならない。

組織および事業内容

 日医総研は、情報調査部門、政策研究部門、教育研修部門という3つの部門から成り、人員構成は、常勤研究員4名、非常勤研究員6名、客員研究員若干名である。

〔1〕情報調査部門

 この部門は、各都道府県の医療情報を収集し、蓄積する。情報を収集するにはネットワークが必要で、それは地域医師会と日医の情報交換の場にもなる。それが「総合的情報ネットワーク化構想」である。

 現状では、情報収集を含めた基本的な事業指針については、既存の日医情報化検討委員会が取り組んでいるので、当分の間はここがネットワーク化に関する実質的な仕事場のひとつになると思う。日医で集められた情報は、日医総研(シンクタンク)に集積され、分析・評価される。会員情報の収集はすでに日医会員情報室が行っているが、将来は、日医総研が総合的・横断的な評価によって、医療政策決定のための情報化を図っていくことになる。

 さらに、情報収集事業として、継続的に指定した「医療機関総合実態調査」いわゆる「定点観測」は、情報収集の最も重要な手法であり、早急に有効な定点を選定して実施していきたい。定点は、全国の医療機関の中から選ぶ。この方法での調査が成功すれば、わが国におけるもっとも強力な医療情報収集機構として、重要な位置を占めることになる。

〔2〕政策研究部門

 政策研究部門は、執行部ならびに非常勤研究員が主宰する研究室から提案される政策課題を情報資料に基づいて検討し、政策提言としてまとめあげていく部門である。

 この際、もっとも重要なことは、国民が必要としている医療政策に合致する政策を、いかなる動機づけをもって選択するかという日医執行部の能力であり、日医総研の真価を問われるのも、この部門の活動いかんによると考えている。

 アメリカ医師会の政策決定の機構をみると、日医総研に該当するのは保健医療政策研究センター(これを含むアメリカ医師会の活動全般を管理・指導するが、EVP=Executive Vice President)である。今後、この部門との研究協定を約束してある。

〔3〕教育研修部門

 教育研修部門の事業の目的は、人材育成にある。

 そのひとつとして、ハーバード大学公衆衛生院にある武見プログラムを活用し、若い有為な人材を派遣して、日医の中に人材の育成を図っていく。今年度事業として、9月から1年間、日医職員を研修留学生として派遣することになっている。

 もうひとつ事業として、国内外からの研修希望の受入れを行うこととし、主に全国の大学の研究室から留学生を公募する予定である。