日医ニュース 第869号(平成9年11月20日)
日本医師会設立50周年記念式典並びに医学大会
天皇皇后両陛下をお迎えして
日本医師会設立50周年記念式典並びに医学大会が、11月1日、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、帝国ホテル富士の間において、厳粛さと感動が漂うなかで開催された。
記念式典
午前10時58分、参列者630余名の歓迎の拍手のなか、坪井栄孝会長のご先導で、天皇皇后両陛下が会場に御姿を見せられ、壇上正面席にご着座になった。厳かに国家「君が代」が演奏され、式典が始まった。
明るく清楚に飾られた壇上には、両陛下を中心に、向かって右側に特別来賓として、村岡兼造内閣官房長官、伊搶@一郎衆議院議長、斎藤十朗参議院議長、バーナード・マンデル世界医師会長、小泉純一郎厚生大臣、町村信孝文部大臣、伊吹文明労働大臣が、左側には、坪井会長、糸氏英吉・森岡恭彦・石川高明副会長、吉原正智代議員会議長、森亘日本医学会長が着席した。
午前11時1分、糸氏副会長が「開会の言葉」を述べ、つづいて、坪井会長が下掲の式辞のように、「50年の国民医療と日医の活動を回顧するとともに、21世紀に向けた医療改革に臨む決意」を披瀝した。
特別来賓の祝辞として、まず、この日、ロシアのエリツィン大統領との会談のために外遊中の橋本龍太郎内閣総理大臣の「戦後の医療に貢献した日医の役割、ネパール医療援助活動などを讃えるとともに、今後の医療改革に日医とともに取り組んでいきたい」旨の祝辞を、村岡内閣官房長官が代読し、次に伊藤衆議院議長、斎藤参議院議長、マンデル世界医師会長が、祝辞を述べ、錦上に花を添えられた。
次いで、一同起立して、天皇陛下から、「戦後50年に及ぶ日医の国民医療への貢献を讃え、さらに今後の努力を期待する」旨のお言葉を賜った。坪井会長は両陛下の御前に起立して、本日の行幸啓に対し、次のような御礼の言葉を奏上した。
奉 答
「謹んで御礼申し上げます。
本日は、日本医師会設立50周年記念式典に際し、畏れ多くも天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、ただいまありがたいお言葉をいただき一同感激に堪えません。誠にありがとうございました。
わたくしども日本医師会は一致協力して本文を尽くし、もって聖旨におこたえする覚悟であります。
日本医師会を代表して謹んで御礼申し上げます」
ふたたび坪井会長がご先導し、参加者の尊崇と喜悦の拍手が鳴りわたるなか、天皇皇后両陛下がご退場になった。
その後、本日の式典のために世界各国から来日された来賓、世界医師会役員および各国医師会会長・副会長ご夫妻の紹介があった。
表彰式
午前11時30分から表彰式に入り、坪井会長が登壇し、別項掲載の会員に対し、最高優功賞・優功賞を贈呈した。
次に、日医の理念・政策の決定に貢献された加藤一郎、土屋健三郎、吉國一郎の三氏に対し、日医会長特別表彰が贈呈された。
日医医学賞は、基礎医学1名、臨床医学2名の研究者に、日医医学研究助成費は、基礎医学3名、社会医学1名、臨床医学11名に贈られた。
最後に、被表彰者を代表して、吉田信北海道医師会長が謝辞を述べた。なお、白寿会員6名、米寿会員433名には記念品として銀盃が贈られた。
記念講演
正午からは、森亘日本医学会長の「美しい死―品位ある医療の一つの結果」と題する記念講演が行われた。その要旨は、「医師は良識にもとづいて、節度ある医療、品位ある治療を行うべきであり、それが医師の裁量権の裏付けとなる」というものであった。
午後12時35分、森岡副会長の閉会あいさつで記念式典が閉会。
なお、ロビーには写真と解説で綴る日医史のパネルが展示され、多くの参会者の目を集めた。
祝賀会
午後1時30分開会。糸氏副会長の開会あいさつ、坪井会長、小泉厚生大臣、中原日本歯科医師会長、見藤看護協会長、ミルトン世界医師会議長の賞賛と期待のあいさつがあった後、吉原代議員会議長の発声で乾杯。出席者は千名を超え、午後3時30分、石川副会長のあいさつで閉会した。
国民医療に捧げた50年を回顧するとともに、医療構造改革の旗手として新世紀への飛躍を期す、歴史に残る記念大会であった。
天皇陛下おことば
日本医師会設立50周年に当たり、本日、記念式典が開催されることを誠に喜ばしく思います。
日本医師会が設立されたのは戦後の厳しい状況下であり、当時の医療に携わる人々の苦労は誠に大きなものであったと察せられます。しかし、一方で、この時期は、抗生物質などの新薬が開発され、肺炎を始め、長年人類を苦しめてきた結核やハンセン病などの治療に光明がもたらされ、医療の歴史に一時期を画した画期的な時代でもありました。
以来50年、科学技術の進歩に伴い、医学、医療は著しい発達を遂げました。今日、地域医療の担い手である医師および行政のたゆみない努力により、広く国民が医療の恩恵を受けるようになってきていることは、誠に喜ばしいことであります。ここに医師会会員の努力に対し、深く敬意を表したく思います。
今後、わが国の高齢化の進むなか、健康を預かる医師の果たす役割は、ますます重要になることと考えられます。医師会会員が、日進月歩する医学、医療についての研鑽を重ね、離島を含むあらゆる地域の国民が心身共に安らかに生き生きと暮らすことのできる幸せな社会を築いていくよう切に希望するものであります。
ここに、50年にわたり国民の医療のために尽くされてきた努力を深く多とし、お祝いの言葉といたします。
式 辞
日本医師会 会長 坪井栄孝
本日ここに天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣、衆参両院議長、世界医師会長はじめ多数のご来賓の列席をいただき、日本医師会設立50周年記念式典を挙行できますことは、身に余る光栄であり、衷心より厚く御礼申し上げます。同時に、私ども日本医師会員一人ひとりに課せられた使命と責任の重大さに身の引き締まる思いでございます。
日本医師会は、昭和22年戦後の荒廃のなかから再出発し、全会員が一丸となって国民の健康保持と医療の向上に努めてまいりました。爾来50年わが国は経済の順調な発展、医学医術の飛躍的な進歩・国民皆保険制度の創設等とあいまって今や世界一の長寿国として、健康で豊かな生活を享受するに至りました。その間、医師会活動も全国各地域で着実に実績を積み重ね、国民医療の担い手として成長発展いたしました。
さて、21世紀をのぞむ今日、時代は大きな変革の節目を迎えております。私ども日本医師会は、新しい世代がより健康で文化的なものとなるよう、国民医療の担当者としての自覚を新たに、勇気と情熱をもって重要課題に向かって専心努力する決意でございます。
皆様の深いご理解と絶大なるご支援を切にお願い申し上げ式辞といたします。
来賓祝辞
内閣総理大臣 橋本龍太郎
本日ここに、日本医師会設立50周年記念式典が挙行されますことを心よりお慶び申し上げます。
貴会は、戦後の昭和22年に設立されて以来、今日に至るまで半世紀という長きにわたり、わが国の保健医療の向上に多大の貢献を積み重ねてこられました。この間、感染症による死亡者の激減、乳児死亡率の劇的な改善等にみられるように、わが国の衛生水準は急速に向上し、今日国民は世界一の長寿を享受しうるまでに至りました。これも日本医師会の会員の皆様方の地域における献身的なご努力によるものと、改めて深く敬意を表する次第であります。
私自身、これまで医療行政をはじめ、わが国の社会保障の充実に取り組んでまいりましたが、武見会長の頃から現坪井会長にいたるまで常に幅広いご協力をいただいてまいりました。村瀬会長時代には、日本医師会としてネパールにおける小児医療に対して心のこもった支援を始めていただき、今はしっかりと定着させていただいている由、先日、坪井会長から伺いました。
さて、わが国は、21世紀の到来を目前にした今日、大きな転換期にあります。戦後50年余にわたりわが国の発展を支えてきた経済社会システムを、21世紀にふさわしいものに再構築し、私たちの子どもや孫の世代にまで、豊かで安心できる暮らしを確固たるものとして引き継いでいかなければなりません。そのために、政府といたしましても、社会保障構造改革を含む各般の改革に取り組んでいるところであります。
子どもたちが健やかに生まれ育つことができ、老いと病の不安を和らげることのできる社会、誰もが長生きして良かったと思える社会を建設できるよう、今後とも、日本医師会とともに難局に取り組んでまいりたいと希望する次第であります。
おわりに会員の皆様方のご健勝とご活躍をお祈りいたしますとともに、日本医師会が国民の信頼と尊敬を集める団体として、いっそう飛躍されますことを期待してお祝いの言葉といたします。(村岡兼造内閣官房長官代読)
来賓祝辞
衆議院議長 伊藤宗一郎
本日ここに、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、日本医師会設立50周年記念式典が挙行されるにあたり、一言お祝いの言葉を申し上げます。
はじめに、わが国の保健医療の向上のため、日本医師会がこれまでに果たしてこられたご功績に対し深甚なる敬意を表するとともに、ここに設立50周年を迎えられましたことを心からお慶び申し上げます。
戦後、わが国が数々の分野においてめざましい発展を成し遂げ、今日の繁栄を享受するまでには、多くの国民の地道な努力があったことは今さら申し上げるまでもありません。なかでも、医療はその代表格ともいうべきもので、劣悪な衛生状態と貧困から出発したにもかかわらず、世界有数の長寿国を築き上げることができたのは、国民一丸の努力によるものといわなければなりません。とりわけ、崇高な使命感を抱いて、献身的に医療活動に従事していただいた日本医師会会員の皆様方のご功績は何ものにも比肩できないほど大きなものであり、国民の一人として、改めて感謝申し上げる次第です。
しかし、戦後50年を経過し、人口の高齢化や少子化といった社会問題が無視できないものとなりつつあることも事実です。また、HIVや心の病ともいうべきかつては考えられなかった疾病も生まれ、人類を脅かしつつあります。こうしたなかで、来るべき21世紀を真に希望あふれる時代とするためには、単に人体の治療を主目的とした医療ではなく、環境や社会生活にも配慮し、人間の尊厳を第一義とする総合的な視点に立った医療が求められているといってよいでしょう。それだけに、医師の皆様に寄せられる期待はますます高まっていくとともに、その責任はさらにいっそう大きく、重いものになると思います。
設立50周年という節目の年にあたり、日本医師会の皆様におかれては、今後とも、国民一人ひとりの命と健康をしっかり守っていくため、なおいっそうご活躍されんことを願いまして、私のお祝いの言葉といたします。
来賓祝辞
参議院議長 斎藤 十朗
本日ここに、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、社団法人日本医師会設立50周年記念式典が盛会のうちに開催されましたことに、心からお祝いを申し上げます。
日本医師会は、これまで半世紀にわたり、医学・医療に関する学術専門団体として、戦後のわが国の衛生水準の飛躍的な発展、医学・医術のめざましい進歩に大きく寄与してこられました。生涯を通じて健康に生活し、長寿を全うすることは、われわれ国民の切なる願いでありますが、医師会会員の皆様の地域における献身的な活動があればこそ、感染症の克服や乳児死亡率の改善等が進められ、わが国は世界屈指の長寿を達成することができたのでありまして、ここに、皆様方の尊いご努力に対し、衷心より敬意を表する次第であります。
さてその一方、わが国の少子高齢化は世界にも類をみない速度で進んでおり、21世紀には国民の3割が65歳以上という「超高齢社会」を迎えようとしております。そして、この高齢社会を皆が長寿を喜びあえるような、真の意味で実りある「長寿社会」としていくため、さまざまな社会システムの改革を進めることが、まさに急務となっているのであります。そのなかにあって、医療の果たすべき役割はまことに大きく、保健、医療、福祉の連携強化を図りつつ、地域において高齢者を支えていくため、医師が高齢者福祉、高齢者介護の分野にも積極的にかかわり、その中核となることが求められております。
日本医師会におかれては、坪井会長のご指導のもと「開かれた医師会」を掲げ、会員各位の叡智を結集して、21世紀に向けた変革に積極的に取り組んでおられます。設立50周年という大きな節目を迎え、日本医師会がさらにいっそうの飛躍を遂げられ、国民の大きな期待にこたえて、その真価を遺憾なく発揮されますようご期待申し上げる次第であります。
終わりに、今日まで日本医師会を主導され、わが国の医学・医療の向上発展のために力を尽くされた、歴代会長および役員の方々並びに関係各位に対し、心から感謝の意を表しますとともに、ご参会の皆様方のいっそうのご活躍とご健勝をお祈り申し上げまして、お祝いの言葉といたします。
来賓祝辞
世界医師会長 バーナード マンデル
天皇皇后両陛下のご臨席のもと、ご参集になられましたご高名な方々の前でお話をさせていただきますことは、私にとりまして大変光栄であり名誉なことであります。日本医師会の設立50周年記念大会に際し、海外からの来賓を代表いたしまして、ひとことお祝いを申し上げます。
日本医師会のこの記念式典は、これまでに日本医師会が成し遂げてきたことを誇りをもって回想し、そして、大きな期待をもって将来を見据えることのできるよい機会でもあると考えます。
国際舞台において、世界医師会の栄誉ある会員としての日本医師会は、およそ20年前の1975年10月に東京で世界医師会総会を主催されました。その時の総会はすばらしいものでありました。そして、その総会において、世界医師会の最も重要な宣言の一つである「東京宣言」が採択されました。本日ここに、私、世界医師会の会長とその議長であるアンダース・ミルトン博士が出席していることからも、日本医師会の日本および世界の医療界における影響力の強さとその重要性は明白であります。
本日ご参集の方々のなかには、1975年の世界医師会東京総会の記念式典に出席され、大きな成果を収めたその会議を想起され、その時日本医師会の払われた細部にわたる配慮に感銘を受けた方々も多数おいでと思います。今回、これらの方々は、日本医師会の役員の先生方をはじめ会員の先生方の指導力と多大なご尽力によるこのすばらしい式典に再び深く心を打たれたことと思われます。
表彰者一覧
日本医師会最高優功賞
在任10年都道府県医師会長
吉田 信(北海道)
家崎 智(群馬)
川口良平(神奈川)
在任15年日本医師会代議員
尾曽越秀(東京)
林 幹三(三重)
河崎 茂(大阪)
山岸陸男(奈良)
在任15年日本医師会委員会委員
奥平哲彦(東京)
山内 信(東京)
藤井 裕(神奈川)
医学、医術の研究により医学、医療の発展又は社会福祉の向上に貢献し、特に功績顕著なる功労者(都道府県医師会長推薦)
[団体の部]
・肺・胃癌検診の充実に貢献した医師会
金沢市医師会(石川)
・学童の健康管理・地域医療の整備に貢献した医師会
高山市医師会(岐阜)
・地域医療・救急医療活動に貢献した団体
福岡県メディカルセンター(福岡県)
[個人の部]
・新生児医療に貢献した功労者
藤原哲郎(岩手)
・郷土医学史の研究に貢献した功労者
石島 弘(茨城)
・胃集団検診の充実に貢献した功労者
長谷川昭衛(群馬)
・地域医療・保健衛生活動に貢献した功労者
伊藤 勇(埼玉)
・学校保健活動・病診連携の推進に貢献した功労者
神田 敬(千葉)
・国際医学の交流に献身した功労者
石橋長生(東京)
・地域医療・保健活動に貢献した功労者
萩原節雄(神奈川)
・蘭学および郷土医学史の研究に貢献した功労者
岩治勇一(福井)
・地域医療・学校保健活動に貢献した功労者
鈴木 強(長野)
・救急医療・学校保健活動に貢献した功労者
澁谷 朗(愛知)
・地域医療活動に貢献した功労者
伊良子光孝(滋賀)
・救急医療活動に貢献した功労者
加古康明(兵庫)
・僻地における保健医療推進活動に貢献した功労者
石崎英一(島根)
・医師会活動を通じて看護婦養成に貢献した功労者
中谷浩治(徳島)
・障害者福祉活動に挺身した功労者
近藤文雄(徳島)
・救急医療体制の確立に貢献した功労者
鮫島耕一郎(鹿児島)
・癌の臨床検査等に貢献した功労者
當山堅次(沖縄)
日本医師会会長特別表彰者
・生命倫理の向上に著しく貢献した功労者
加藤一郎(東京)
・労働衛生の発展に著しく貢献した功労者
土屋健三郎(東京)
・医療政策の展開に著しく貢献した功労者
吉國一郎(東京)
日本医師会優功賞
在任10年日本医師会代議員
西祥太郎(京都)
在任10年日本医師会委員会委員
松崎 浩(東京)
師岡孝次(神奈川)
日本医師会医学賞
デュシェンヌ型及びデュシェンヌ様筋ジストロフィーの分子論的研究
(国立精神・神経センター・生化学)
心血管系の発生・分化と負荷に対する適応に関する研究とその臨床応用
矢崎義雄(東大・内科学)
高カロリー輸液のわが国への導入・確立、臨床栄養研究の展開
岡田 正(阪大・小児外科学)
日本医師会医学研究助成費
緒方宣邦(広島大・生理学)
村垣泰光(和歌山医大・病理学)
稲垣暢也(秋田大・生理学)
河野公一(阪医大・公衆衛生学)
平井久丸(東大・内科学)
永井良三(群馬大・内科学)
西川光重(関西医大・内科学)
澤武紀雄(金沢大がん研・内科学)
鈴木 享(福井医大・内科学)
水澤英洋(東医歯大・神経内科学)
清水 宏(慶大・皮膚科学)
田中真二(九大生体防医研・外科学)
澤 芳樹(阪大・外科学)
梶原一人(スタンフォード大/慶大・眼科学)
並木幹夫(金沢大・泌尿器科学)
白寿会員(6名)
夏目亦三郎(栃木) 他
米寿会員(433名)
岩田義明(北海道) 他