日医ニュース 第869号(平成9年11月20日)

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勤務医座談会─その4
勤務医と地域医療

《出席者》

日本医師会勤務医委員会委員長・大阪市立住吉市民病院長
濱田 和孝(司会)
宮崎市郡医師会病院外科医長
島山 俊夫
盛岡赤十字病院第一小児科部長
寺井 泰彦
神戸中央市民病院副院長・消化器内科部長
藤堂 彰男
前橋赤十字病院副院長・脳神経外科部長・救急部長
宮崎 瑞穂
本荘第一病院消化器科長
村田  誠
岩美町国民健康保険岩美病院長
渡辺 賢司
日本医師会勤務医担当常任理事
津久江一郎

公私病院の役割分担

 濱田 それでは,次に公私病院がどういう役割を分担するかということですが,機能分化,機能分担して連携をするという時代が来ていると思いますが,いかがでしょうか.
 藤堂 公立でも私立でも規模の程度がいろいろありますので,一律にこうすべきだというのはちょっとむずかしいと思うのです.この場合,中規模以上の公立病院と小規模の私立病院の役割分担というような形に割り切って考えてみますと,公立の病院の場合は,いわゆる不採算部門というのが一般会計からの援助であったり,いろいろな面である程度の補填が期待できますので,一般論としてでありますが,人手と設備費がかかってその割に元の取れないような高度医療,それから3次の救急医療といったものは,公立病院の役割として考えるべきではないかと考えます.
 一方,小規模な病院にお願いしたいのは,可能なかぎり一次,二次の救急医療を引き受けていただくとともに,急性期を過ぎた,あるいは退院させるまでにはいかないが,自宅ではなかなかケアできないというような患者さん,慢性期に移行した患者さんを逆紹介の形で紹介元に引き受けていただくというような形で,できるだけ中・大規模病院で高度医療なり三次救急医療なりの所期の目的が達せられるような形で,お互いのベッドを効率的に利用して回転させることも含めた連携や役割分担も1つ考えられるのではないかと思います.
 寺井 藤堂先生のおっしゃったことに尽きるような感じがいたしますが,ただ,うちのような半公立的な赤十字病院ですと,独立採算でありながら反面公的な責任が強く要求されるという背景がありますので,不採算部門を当然やらなければいけないという中途半端な感じは受けております.
 ただ,小規模の私立病院と中規模の公立病院という比較ですと,やはり小回りがきくのが私立病院ですので,ある意味での専門性を持たれた私立病院が必要ではないかと考えております.
 島山 公立病院というのは,医師がやりたくても,周りが動かないんですね.だから,私立の病院も不採算はやりたくないのだけれども,そういう意味ではやらざるを得ないという状況です.本当は公立病院がそういうことを含めて,二次,三次救急をやってほしいという気がします.
 宮崎 不採算部門は大きいところがやるのは仕方がないと思います.ただ.日赤は完全に独立採算ですから,病院によってもボーナスなど給与が違いますし.建物の更新もすべて自前ですから,かなり厳しい.それに対して.社会保険の病院などはある程度補助があります.日赤の場合は.不採算部門を抱えながら,その補助が少ないというところが大きいネックになっています.
 濱田 補助がなくても,病院が,自分のところの収入で建て直しができるぐらいの医療費が,本当は必要ではないかと思います.
 村田 全日病のなかでも,不満な点は,官民格差ということが一番大きいと思います.前に全日病の行ったアンケート調査によると,勤務医の勤務状況の開示がまったくないので,給与体系等にしても官民の比較ができない.そういう不満が勤務医の先生方にかなりあるのではないかと思いました.
 もう1つは,公的助成が,政策医療にしても,救急医療にしても,公立病院に流れ,その額が年間2兆8千億円ぐらいという話を聞いて,公的病院が非採算部門に純粋にそのお金を投資しているのではなく,実際は赤字補填のために使っていることがかなり多いのではないかと思います.公的助成のお金を民間病院にも流れるような道を作ってほしいものです.
 また,そういった助成を受けている病院であれば,患者のための病院というよりは,地域医療支援病院というような感じで,病院のための,診療所のための,医師のための病院であるというような性格を持ったものにすべきかもしれません.
 先ほど,患者さん自身の評判が島山先生のところでどうかということを聞きたかったのですが,そういう病院ができて,三次救急なり,外来なしで患者を全部診てくれるという設備があれば,ありがたいと思いますが.実際.患者サイドでは非常に不満を持つのではないかという気がしているのですが.
 島山 それはありますが,割り切らないと仕方がないのです.
 村田 そうなると,地域医療支援病院の性格が,もう医療のための医療というか,患者のための医療ではなくなってくるのではないでしょうか.
 島山 術後の患者さんなどでは,例えば,3カ月に1回は診られますが,2週間に1回といった外来はできないですね.それは患者さんにとってみれば不満があると思います.
 濱田 イギリス,ドイツなどでは,だいたいそれが当たり前になっているから,あまり違和感がないのでしょうが.日本の場合は.それとは違う発達の仕方をしてきました.患者さんの教育,医療に対するいろいろな知識などが違いますからね.渡辺先生,いかがでしょう.
 渡辺 規模別で,機能を分けるべきだと思います.

地域医師会と勤務医

 濱田 最後に,勤務医がどうあればいいのか,あるいは医師会に何か要望があれば,お話いただきたいと思います.
 渡辺 自分自身考えても,若い頃は,開業医の先生方と顔を合わせても,顔も名前も覚えていない.ただ,それを繰り返していくうちにだんだんわかってきて,ましてお酒でも1回飲めば,知らない仲じゃないという感じにだんだんなってくる.そういう機会を増やしていくことが大事だと思います.
 村田 勤務医が,個人で医師会に入会しようという意識を持つのはむずかしいのではないかという気がします.私が思うには,例えば,日医の生涯教育制度のなかで,日医の認める専門医とか,日医の医師であるという,何かそういった資格があればそれを取ろうとします.それが医師会に入る1つの動機になると思います.
 それから,もう1つは大学医師会との関係だと思いますが,大学医師会で,大学の教授に働きかけることが,勤務医を医師会員にしていくことになっていくのではないか.そうなって初めて,医師会のなかで勤務医の意見が大きく反映できるのではないかと思います.個人個人に働きかけるというのでは,なかなかむずかしいのではないかという気がします.
 濱田 大阪府医師会では役員が各大学へ行って,医師会とは何か,医療システム,保険診療,医事紛争等の話をして,少しでも接点を多くしようとしています.
 宮崎 勤務医の入会については,メリットをつくればという議論がありますが,本当にそれで実効があるか疑問です.組織に参加するということは,単なる情報だとかお金の面で有利だとか,そういうことも大事ですが,やはり,その組織にどうやって参加して,自分の意見がどのぐらい出せるのかということがないとだめだと思うのです.勤務医部会という立場もあるのですが,青年部会的なものでもつくっていただくと,自分たちの1つの力として,医療行政などに意見が出せるのではないかと考えます.
 島山 私のところでは病院で医師会費を払います.大学から来た人たちは,開業医の先生とはほとんど接触がないのですが,うちの病院に来て初めて,電話,手紙のやり取りなどを直接するようになります.会員になっていますから,医師会の懇親会等でそういう先生方と直接会うという形で親睦を深めることができ,そういうシステムからだんだん波及していって,大学に帰っても大学の医師会に入るというようになっていくのではないでしょうか.
 寺井 私が医師会に入ったのは,医師国保に入るためで,20年以上大学にいても,結局,医師会との接点は何もなかったような感じがします.
 現在は市の医師会で救急,地域医療などを担当しているのですが,そこではじめて,医療行政がすべて医師会を通して行われることを知りました.結局,勤務医の若い先生方はそういうシステムをまったく知らず,私が医局会でいくら説明してもわからない.これはやはりPR不足が相当あると思います.
 藤堂 病院では部長職の人は全員医師会に入ることを命じられます.産婦人科の医師は,病院が会費を払って全員が入っております.加入率は全体の24%ぐらいです.各学会の専門医の資格を取って,そのなかでの役職を求めていく方に熱心で,医師会の方にまでさらに関心を向ける余裕がないというのが,残念ながら現状です.
 濱田 医師会が何をしているかということなど,勤務医は知らないことがたくさんありますので,医師会の方もそれに対して努力をする必要があります.最後に津久江先生,お願いします.
 津久江 お話を聞いておりまして,私は,情報の共有化ということが足りなかったと思います.日医ではインターネットのホームページを設けましたが,これからはこういった新しいメディアを使って,情報の共有化を図っていきたいと考えております.
 われわれが危惧しているのは,230,000人余りの医師がいて,日医に入っているのは140,000人,どの年齢階層の入会率が低いのかというと,病院の若い勤務医の層が圧倒的に抜けているのが現状です.勤務医であろうと開業医であろうと,組織力強化という意味のみならず地域医療充実の観点からも,われわれは大同一致しないと生き残れないというところに来ているのではないでしょうか.
 濱田 先生方,本日はお忙しいなかご出席いただきまして,本当にありがとうございました.


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