日医ニュース 第879号(平成10年4月20日)
倫理の高揚と生涯教育を充実
日医組織強化対策を提言
坪井栄孝会長、2期目の抱負を語る |
4月1日の日医定例代議員会において、坪井栄孝会長が再選された。無投票当選は10年ぶりであり、これは会員の絶大なる支持のあらわれともいえる。本号では、坪井会長に新たな決意を聞いた。(聞き手・山田統正常任理事)
2期目のスタートに当たり、会長の抱負をまず、お聞かせください。 |
坪井会長
このたびの役員選挙で、全都道府県医師会からの推薦をいただいたことは、たいへん名誉なことであるとともに重い責任を感じています。ご期待に背かないように頑張ることをお誓いいたします。
抱負としては、以前からいっていることですが、「人にやさしい医師づくり」ということです。これはあまり斬新なことばではないのですが、多くの方々に理解していただいているようです。私は、基本的にそこからいろいろなものが生まれてくると思っています。患者さんと医師との信頼関係も、そのことによって構築されることが、最大の願いです。
所信表明のなかで、2つの基本理念について述べていますが、その点をお教えください。 |
坪井会長
医療をもって奉仕する仕事というのは、患者さんとの信頼関係のうえに成り立つわけですから、われわれが医療を提供し、世の中に尽くそうと思っているからには、患者さんが医師に対して何を求めているかを考えなければならない。それは、しっかりとした倫理観をもった医師、あるいは尊敬できる医師ではないかと思います。尊敬される医師であるためには、自信と責任感をもって、患者さんのために奉仕できるという姿を自分自身でつくっていかなければなりません。すなわち、倫理観を高揚し、医師自らが自律する意思をもって行動することだと思います。
それからもう1つは、医療を提供する専門家として、優れていなければならないということです。信頼されている医師というのは、豊富な医学的知識、習熟した医療技術をもっているものです。したがって、われわれの医師会活動のなかの非常に重要なポイントとして、引き続き、生涯教育の充実に尽力するつもりです。
医師としての強い倫理観と、専門家としての高い技能の2つが、うまく整合されたときにはじめて、患者さんサイドからみる、「信頼しうる医師像」ができあがります。その結果として、われわれの医業経営の安定化も図られるわけです。
いかに高邁な理想をもち、高度医療技術が十分であっても、医業経営が安定していなければ、心に余裕をもつこともむずかしいと思います。そこで、会員のみなさんが今の2つの理念を実行しやすくするためのバックグラウンドづくり、すなわち医業の安定化を図ることに、医師会長として全力を尽くしていきます。
社会保障、特に医療構造改革構想の具体化に向けての計画と課題については、いかがですか。 |
坪井会長
今の内閣が6大改革を打ち出したときから、われわれはそれに対して、賛成であることは明言してきました。これからの日本の社会保障を、見直していかなければいけない時期にきているのではないかと考えていたからです。
国が財政的に問題だから改革をするということとはかかわりなく、医療構造は改革していかなければいけないのです。そのためにも、財政論議ばかりが先行すると、社会保障のなかの重要な部分である、医療そのものが崩壊していくことになります。
私はまず、医療構造改革構想をこれから具体的に発展させていきますが、その根底にある社会保障費を、国がどういう考え方で準備をするかが問題です。医療は、国の政策として、明らかに聖域なのですから、それに適した取り扱いをしてもらわなければ困ります。われわれがそれを主張すると、いかにも我が田に水を引くがごとくとられますが、国の社会保障に対する考え方を問いただしながら、なおかつ医療全体を変えていく考えです。
具体的には、急性期の疾患と慢性期の疾患に対する医療提供体制の整備、薬価の問題などです。
さらに、医療あるいは健康づくりが、消費ではなくて投資であるという概念を、国にも、担当する経済学者などにもデータを示して、十分理解してもらうように働きかけています。
それから、高齢社会への対応に関しては、日医はかなり前向きに政策を出してきましたけれども、それと同等、あるいはそれ以上にむずかしいのが少子化の問題です。会内に少子化対策委員会を発足させ、そのなかで、具体的な行動を起こしていきたいと考えています。
以上が、今までの私の主張してきた医療構造改革構想のなかで、より積極的にすすめていきたいと考えている点です。
会長発案の日医総研が、1年を経過しました。今後の活動方針と将来像についてお伺いいたします。 |
坪井会長
日医総研は、大げさにいえば、日医の宿願の研究機構です。時代の流れに合致したおかげで、短期間に立ち上げることができ、幸運でした。
日医は、学術専門集団であるとともに、医療政策専門集団でもあります。しかも、医療に関して、医学という基礎的なバックグラウンドをもっている集団が、国の医療政策をつくり上げていくというのは、これほど強いことはないし、国にとっても利益になるわけです。医師会としては、しっかりとした機構をつくって政策立案をするのは当然のことであって、これは奇をてらうということではありません。
われわれは、今までは厚生省、大蔵省の政策を相手にしながら、ものをいってきた局面が多かったけれども、これからは社会全体をみて、政策をつくり上げていくということをしなければならない。しかも、われわれの視線は、常に国民に向いていなければなりません。これは、日医にとっては絶対に必要なことであり、また、それがわれわれの責務だと思うのです。
そのためには、情報を集めたり、評価したり、あるいはその情報をもとに政策提言をする、いわゆるシンクタンク集団が必要となり、日医総研の立ち上げで、それがほぼ整ってきたというわけです。これからは、新しい政策立案を日医執行部に積極的に提言してくれることを期待しています。
日医総研を活性化していくことは、それほどむずかしいことではありません。なぜならば、日医には、今まで何十年にもわたって地域医療を実践してきたという大きな資産の蓄積があるからです。その資産を、いかに有効に整理していくかが日医総研の仕事の大きなポイントですから、日医総研そのものを必要以上に重視することはないのです。むしろ、日医総研が提言してくる政策を日医の政策としてうまく取り上げていくことの方がむずかしいのです。それをするのが、われわれ新しい執行部の役目であり、日医総研を創設した責任者としての義務です。
新たな日医組織強化対策を提言されていますが、それについてお聞かせください。 |
坪井会長
武見会長時代に都道府県医師会から昭和ひとけたうまれの医師を集めて、育成を行ったことがあります。私自身も、国民のための医療というものに対する基本的な考え方の基礎がつくられたと思っています。これは、たいへん有効な政策でした。
今、私が考えている若い世代の医師との連携というのは、目的は非常に類似していると思います。2020年にわれわれの年代ぐらいになる医師は、現在、だいたい40代、30代です。この医師たちが、医療に対する情熱や理念をもって、将来の日医のあり方を設計することを今から考えていかなければなりません。そして、政策そのものがとぎれない医師会運営をすべきであり、私には、それを準備する責任があると考え、提案したのです。若い医師が集まって、未来医師会のビジョンを構成することは、私が考えている現在の医療の政策のなかでも、大きな影響力となるわけです。現在の医療政策を推し進めていくために、私自身は若い医師の考えを活用させてもらい、また、若い先生方は自分たちの世代の国民医療のあるべき姿を大胆に計画しながら、資質の向上を図っていかれたらありがたいと考えています。
また、医学部における女子学生の割合が30%を超え、年々増加の傾向にあります。今後、女医会員の数が増えてくると思います。そこで、この方々のために、医師会の具体的な活動のなかで意見がいえるような場所を設営していくべきだと考えました。
今まで、女医会員が医師会の会合、あるいは中枢部に参画して仕事をする機会があまりありませんでしたので、それを日医の立場で企画してみようというのが、提案の動機です。
私は、会員の数を増やすことのみが、組織強化であるとは考えておりません。日医の医師としてプライドをもてるような医師会をつくるべきだと思います。国民医療のために何かしたいと考えている医師たちの意欲を実現するために、その場を提供したいと思います。それを大いに活用して、日医に何をしてあげられるか、何ができるかということを考えていただければ、日医もまんざら失望するような団体ではないと思います。ぜひ、変革をしてくれるような、たくましい意欲をもった若い医師に期待をしています。