日医ニュース 第880号(平成10年5月5日)
日医各種委員会報告書
第VI次生涯教育委員会報告書 |
「認定証」の表示で、社会的評価が得られるよう努力
生涯教育委員会(橋本信也委員長)は「生涯教育の将来の方策について」の諮問に対して、次のような報告を行った。
まず、報告書は各地の生涯教育活動状況および生涯教育申告率の現況について述べ、委員会は申告率の向上策を大きな課題の一つとして取り組んできたとし、勤務医対策が申告率上昇の鍵であるとしている。
また、「一括申告」の導入を高く評価し、今後も推奨していくとしている。
なお、生涯教育制度における認定医制度については、「認定医制は必ずしも実情に適しているとはいえない。また、『認定証』に対する価値づけも改めて見直すべきである。つまり、医師自らが行う生涯学習は、患者に対して自分の『かかりつけ医』が常に勉強しているという一種の信頼感を与えるもので、その意味からいえば、『資格』ではなく、例えば、学位のように一つの格付け、ステータスシンボル、あるいは、『いつも勉強している』というラベルに相当するものであると考えるほうが適切である」としている。その意味で、生涯教育の「認定証」にもっと重みをつけるということが今後努力するべき課題と考えている。
このほか、カリキュラムの見直しは継続的に行われねばならないこと。また、学会認定(専門)医制度との関係、つまり連携の強化を図るとともに、関連を明確にするため今後の検討が必要であると記している。
結論として、1)生涯教育は専門職として医師に課された使命であり、また、「医療水準」という視点に立ったとき、必須の課題であること、2)申告率の向上は重要であるとはいえ、これに執着することなく、生涯教育の質の向上を図ることが今後の課題であること、3)さらに、学会認定(専門)医制度との関連については、「認定証」の価格を高くし、これを表示することによって患者の信頼感を得ると同時に、社会的な評価となるよう努めたいとしている。
学校保健委員会答申 |
学校医、養護教諭などの密接な連携を提言
平成8年7月、学校保健委員会(高石昌弘委員長)は、坪井会長から「学校精神保健の具体的展開方法、それに対応する学校医の研修のあり方」の諮問を受け、このほど、答申をまとめた。
審議に先立って、児童生徒の「こころの健康」について、学校現場で学校医が実際にどのように対応しているかを知るため、全国の郡市医師会の内科・小児科の校医55歳以上3382名、55歳未満3718名の計7100名、眼科校医391名、耳鼻科校医390名にアンケート調査を実施し、その結果を委員会の審議のための基礎資料としている。
学校精神保健の具体的展開方法については、児童生徒の「こころの問題」についての現状を分析し、それらの問題の根底にあるものを抽出するとともに、それに対応する学校医、養護教諭等の関係者の連携の不徹底を指摘。それを踏まえ、具体的には、1)学校保健委員会の活用、2)学校保健委員会の小委員会としての「こころの健康協議会(仮称)」の創設、3)学校精神保健システム(ネットワーク)の構築、特に、学校医、養護教諭、保健主事、一般教諭、カウンセラーなどとのネットワークの構築、コーディネーターとしての学校医の積極的参加、スーパーバイザーとしての学校群を担当する精神科医の位置付け、地域関連機関との連携、地域住民および関連団体との連携等の必要性を強調している。
学校精神保健の視点からみた「学校医研修」のあり方については、1)中央研修会(日医主催)、2)地方研修会(都道府県医師会主催、ブロック連合単位研修会開催)、3)サークル勉強会(事例研究会)の開催を推奨するとともに、学校医は教育側の要請に応えて、児童生徒の精神保健に関する概括的、基本的な知識を修得し、心身の発達成長に留意しながら、「こころの健康」問題に、関連職種の人々との共同作業におけるコーディネーターとしての役割を積極的に果たしていかなければならないと提言している。
医師福祉対策委員会答申 |
医業経営安定化のため医療税制の再構築を
医師福祉対策委員会(吉牟田勲委員長)は、「すべての国民に良質な医療を提供するため、その基盤となる医業経営の安定を図り、公共性と非営利性を備えた医業税制の確立について」の諮問に対し、13回の委員会を開催し、次のような報告書をまとめて答申した。
国民の要望である「地域医療の推進と充実」の必要性は、ますます高いものになっているにもかかわらず、医療費抑制策・消費税率の引き上げなど医療環境の厳しさは増す一方である。
したがってわれわれは医療業務・医療施設のいっそうの合理化・近代化を図ると同時に、医業経営の安定化を図り、確固とした経営基盤を整える必要がある。
このため委員会は、「税制上の措置は欠くことのできないもの」としたうえで、さまざまな角度から、「例年の税制要望のほか、医療構造改革構想を基にした医療税制の再構築について」検討を行ったとして報告をまとめている。
内容は、税制要望と日医の医療構造改革構想(1997年7月29日)に基づく医療税制の再構築について大別し、ことに後者については、次の10項目に分けて提言している。
1)医療と消費税の改革
2)薬価制度の改革に伴う薬価の仕入消費税の損税の解消
3)社会保険診療報酬支払い制度の改革と税制措置
4)老人保険制度の抜本的改革に伴う税制措置
5)介護保険制度の採用と税制措置
6)医療費の自己負担の上昇に伴う税制調整
7)医業経営の近代化・安定化を促進するための税制
8)医療の公共性、安定供給に役立つ税制措置の維持、充実
9)医業における医業用資産の相続税等の課税軽減
10)その他の税制措置
そして、結論として、「少子・高齢社会を迎えるなか、国民の多様な医療ニーズに応えるためには、この基本線に沿って、さらに詳細な検討と、検討された案のできるだけ早期の実現を期待するものである」と述べている。
医師会共同利用施設検討委員会報告書 |
地域密着型の施設の共同利用を提言
医師会共同利用施設検討委員会(杉田肇委員長)は、「医師会共同利用施設に係わる諸問題と将来像」の諮問を受け、検討を重ねた結果を報告書としてまとめ答申した。
1.医師会病院は、地域医療支援病院として最もふさわしく、また、在宅看護、介護、リハビリテーション機能をもつことで、在宅医療ネットワークの要となることが可能である。
医師会病院の将来的あり方は、地域ニーズに応える地域密着型の施設でなければならない。
2.臨床検査センターは、共同利用施設の中心的存在であり、医師会活動の拠点とならねばならない。その存続を図るためには、まず経営状態を把握し、経営改善方策を立て、会員が一体となって取り組む必要がある。特に、経営安定化には人件費、試薬の購入費を削減する方策を考慮する必要がある。さらに、健診部門の強化方策が検査センターの経営悪化を食い止める方法の一つである。
3.老人保健施設の開設状況は、平成9年9月末現在1853施設、医師会立は全国で16施設である。
他の関連事業の併設は併設が可能か十分検討すべきであり、理想的には併設が望ましい。今後の課題として、リハビリ機能の充実、在宅、医療ケアへの支援、痴呆老人対策の充実が必要と指摘している。
4.訪問看護ステーションの現況は、平成9年9月末現在、全国で2296ヶ所であり、医師会立は236ヶ所である。将来的には、医師会、かかりつけ医を中心とした医療、看護、介護の一体的提供が必要であり、在宅看護支援センター等の併設が望まれている。また、訪問看護サービスの質の充実方策が必要である。運営・活動上の問題点は、看護婦の確保問題、時間外、夜間、休日の対応問題である。
5.在宅介護支援センターは訪問看護ステーションの併設により、医療、福祉の連携が図られ、充実したサービスの提供が可能となると指摘している。
医療経済・経営検討委員会報告書 |
患者と医師の信頼関係確立が不可欠
医療経済・経営検討委員会(田中滋委員長)は「21世紀を目前にした医療環境、日本の国内経済と国民医療費の動向を踏まえて、それに対応した診療所、病院の経営の諸列について」の諮問を受け、検討結果をまとめた。第1章では、医療環境に関しては、規制緩和だけで高齢化・少子化などの問題は対応できず、適切な政府介入が必要と述べている。また、さまざまな形で患者負担を増やそうとするのは、望ましい政策とはいいがたいと結んでいる。
第2章では、人口の高齢化・少子化の影響を受け、保険料収入の減少による医療保険財源の細りがあるにもかかわらず、人々はより高い質の医療への期待が高まっていると報告している。
(1)医療へのアクセスの保障
施設間のネットワーク化、グループ化による過疎地医療への対応、施設間機能連携の促進が期待される。患者の大病院志向の是正を図り、受診の流れを適切にする必要がある。
(2)質の高い医療提供
質の高い医療の提供は、医療提供者と患者の間の信頼関係を確立するという観点からも重要である。医療施設は質を高める努力が必要であり、第3者による病院機能評価の活用も一法である。
(3)患者の尊重
患者が医療施設を選択する時代では、患者を満足させる経営が必要である。患者を尊重し、希望を聞く姿勢、さらに患者の尊厳を守る姿勢が求められる。
(4)効率的な医療提供
機能分担・連携による医療提供が効果的に働き、在宅から複数の施設間にまたがる医療提供を、患者ごとに総合的に管理する「かかりつけ医」の機能が不可欠であろう。
(5)公平・公正な医療提供
医療の提供および受療の両面において、公平・公正な資源配分の実行が必要である。いずれにしても、これからの医療経営には患者と医師の信頼関係が不可欠である、とこの報告書は結んでいる。
医療安全対策委員会答申 |
医療におけるリスク・マネジメントを提唱
医療安全対策委員会(平山牧彦委員長)の「医療におけるリスク・マネジメントについて」と題する報告書が、坪井会長に提出された。
リスク・マネジメントは、当初はアメリカの企業経営における危機管理対策として発達した手法で、社内外のあらゆる危険因子を早期に発見し、事故や紛争の発生を未然に防止すると共に、万一紛争化した場合は最小限の損害にとどめることを目的とするもの。これを医療に適用すれば、医療事故の予防と、万一事故が起きた場合の紛争化の防止・紛争の合理的な解決が目標となる。報告書はこのリスク・マネジメントの考え方を、日本の医療環境に馴染む独自のものとして構築することを提唱している。
具体的な提言は、医療事故予防につき7点、医事紛争の防止として4点が挙げられている。
まず事故の予防に当たっては、できる限り多くの医療事故の情報を収集し、その発生原因を解析することが必要で、そのための専門の組織を設立すべきであるとする。また個々の医療機関においても院内で発生した事故やニアミス例の情報を収集し事故防止対策に生かすための報告体制を整備すべきであるとしている。
なお、事故防止のための根本的な指摘として、原因追求の作業を単なる「犯人捜し」に終わらせてはならないことや、医療現場では事故防止につながるような自由な発言が全てのスタッフに許される環境をつくることが大切であるとする。
他方、医事紛争防止に向けての対策としては、医療提供者は、患者の意思をくみ取る努力をすることが重要であると指摘している。さらに医師会をはじめとする医療関係団体は、医師に対する教育活動を通じて、医療事故や医事紛争に関する知識の普及に努めるとともに、社会や国民一般を対象にした広報活動を行い、医療に対する誤解や不信を解消する働きかけが必要としている。
報告書は、この他にも多くの指摘をしているが、委員会は何よりも患者が安心して医療を受けうる環境の提供を基本理念とした点を強調し、まとめとしている。
医事法関係検討委員会答申 |
医師法の問題点と改善すべき点を提言
医事法関係検討委員会(支倉逸人委員長)は「医師法をめぐる課題とその法律上の対応策について」と題する報告書を坪井会長からの諮問に応えて答申した。
報告書は医師法の逐条的な考察を通じて現在の法制度が抱える問題点を明らかにし、法改正や改善すべき点などを提言する。提言は医師法の条文の大部分にわたり、全体では40余頁にも及ぶが、中でも「医師法第4章 業務」に関しては多くの紙数を割いている。
第19条の「応召義務」については、今や諸外国の多くがこうした規定を医師団体の倫理基準に委ねており、かかる義務を法律で規定する例は稀であると指摘する。
第20条「無診察治療等の禁止」規定については、昨今、関心を集めている遠隔診療との関係に触れている。特に、医師と患家とを情報通信機器で結ぶ形態の遠隔診療は、場合によっては危険性も高いので、実施基準や事故時の責任の帰属等につき、あらかじめ明確に規定しておくべきであると提言する。
次に、第22条「処方せんの交付義務」に関する部分では、国の医薬分業政策が、昭和26年に本条を改正し推進を図ってきたほどには進んでいないこととの関係が論じられている。一般の国民感情としては、薬は医師から受け取るものという考え方が根強いとの前提に立ち、むしろ現状が抱える問題点を明らかにし、解決することこそが重要であると指摘している。
また、第24条「診療録の記載及び保存」の規定に関しては、いわゆる電子カルテの導入や、患者への診療情報の開示を念頭に置いて、診療録やその他の諸記録を包括的に規定する法文の整備を急ぐべきであると提言している。これは、現行の制度のもとでは、医師法、医療法、健保法等が個別に診療録に関する規定を置いていることに改善を迫るもの。
提言や問題点の指摘は他にも数多いが、医師法全体では、医師の義務に関する規定の多くを、医師会等が自主的に定める倫理基準に改めるべきこと、医療法、健保法等の諸法に分散して規定されているものは統一的な法体系に改めるべきことの提言が注目される。
病院機能評価検討委員会報告 |
病院組織における医師の役割を再検討
病院機能評価検討委員会(伊賀六一委員長)の答申は内容的に二本立となっている。第1は会長の諮問事項である「医療機能評価事業を推進するための方策」、第2は病院機能評価における今後の課題として委員会が取り上げた「診療における医師の基本姿勢」である。
第1の日本医療機能評価機構(評価機構)の医療機能評価事業を推進する方策としては、「運用調査」ならびに平成9年4月からの本稼働の状況を踏まえると、現段階での重要な課題は、評価機構の事業的基盤がきわめて脆弱な状態であること、すなわち、240病院を予定していたが、131病院の受審に留まったことからも、特に、重要な課題は評価を受ける病院(受審病院)を確保することであり、医療において受審の流れを形成することである。
そのためには、今後、評価機構の努力はもちろんであるが、評価機構の設立に大きな役割を果たしてきた日医はじめ各病院団体等によりいっそうの支援が求められる。また、評価事業の規模と質を左右する評価調査者の養成と確保などの問題も抱えている。
第2の「診療における医師の基本姿勢」は、病院医療の質を支える最も重要な因子である医師が病院組織にいかにかかわっていくのか、という問題は病院機能評価の重要な視点となるため、今後の課題として取り上げた。
特に従来、医師を中心としたいわば縦割りの診療体制であったが、今日では、病院としての組織的な対応が強く求められており、医師の病院組織におけるあり方を改めて検討し、病院の理念や方針を受け止め、地域のニーズに適合した医療を円滑に提供できるような医師の確保と病院の管理体制の確立を図る必要性がある。
このような視点から、医師に求められる社会的責任としての倫理綱領の遵守、チーム医療等への医師の主導性など診療に対する医師の姿勢、病院人事、また主治医の資格、診療録の整備などについて改善が求められている。