日医ニュース 第883号(平成10年6月20日)
坪井会長語る
准看制度を堅持し、養成も継続
准看護婦問題に関しては、現在、厚生省の「准看護婦の移行教育に関する検討会」および「准看護婦の資質の向上に関する検討会」で審議がすすめられている。相変わらず、「存続するか否か」が語られているようでは、いつまでも前に進まない。この点について、坪井会長に語ってもらった。
准看養成制度・准看制度の維持が前提 |
現在、厚生省で開催されている「准看護婦の移行教育に関する検討会」および「准看護婦の資質の向上に関する検討会」は、あくまでも准看制度の存続と養成の継続を前提として設置に同意したものである。
昨年末、厚生省の担当局長から日医に対して、准看問題についての検討会設置の協力依頼がなされた。当初、日医としては、この問題の結論はすでに「存続」と出ているので、いまさら設置する必要はないと協力を拒否した。しかし、行政としては、予算執行ができないことになるので、准看の存続云々にはいっさい触れないという固い約束で、文書を提出してもらい、検討会の発足を了解した。
あくまでも、准看制度の堅持と養成の継続という条件のもとで、今回の検討会に承諾したもので、もしも、厚生省の約束違反があれば、信頼関係が崩れるわけであるから、日医は検討会の開催を即刻やめさせるつもりである。また、准看制度の維持についてのいろいろな疑惑に関しても、それが完全に払拭されるまで強く主張していくつもりである。今後もさらに解消するようにつとめていくが、地区医師会でも迷うことなく、准看教育に専念していただきたい。
許されない運営費補助金のカット |
今回の財政構造改革構想から波及して、平成10年度看護婦等養成所運営費補助金の大幅なカットが行われているけれども、これもわれわれにとっては、たいへん納得がいかないことである。
現在、国の財政的逼迫状態から、一律予算の10%カットということは、ある程度やむを得ないかも知れないが、それにしても、看護学校で准看教育をしている先生方の耳に入ったのは、かなり遅れたタイミングだったと思う。突然、厚生省から補助金をカットすると伝達されたということであり、現場に非常に大きな混乱が生じた。
これは、日医からのインフォメーションの遅さにも責任があるが、厚生省があたかも恣意的に遅らせたと思われるような、また、現場の実状を無視した怠慢さであったので、健政局長に厳重に抗議をした。その点について、「たいへん申し訳ないことだった。配慮が足りなかった」という発言があった。
また、シーリング10%ダウンに引き続き、今回のカットの非常に極端なところは、看護婦2年課程、3年課程の定時制に対する25%カットである。働きながら看護婦さんの道を選んで、一生懸命勉強している人たちは、今の日本の社会構造のなかでは貴重な存在であるから、十分にいい環境で教育してあげたいと考える。
その意味でも、医師会の行っている看護学校経営の安定化のための補助金の復活について、強力に政府に働きかけ、実現を期す決意でいる。
日本の看護体制には三層構造が不可欠 |
日医は、准看護婦制度が発足して以来、終始一貫してその維持に尽力してきた。ここにきて急に廃止論が浮上してきたが、わが国の看護体制の基本的な議論ではなくて、人的資源の過剰についての対策論議であり、医療の包括責任のある医師会としては到底同調できる話ではない。したがって、日医は、当然その存続を強く主張していく。
准看護婦制度が廃止されれば「地域医療の崩壊」が起きる。現在、地域のかかりつけ医の6割強は准看護婦を採用しており、この傾向は地方にいくほど強いから、制度廃止が即、地域医療の崩壊につながり、国民に大きな不利益を与える。医師会立の准看護婦養成施設長の95%が制度存続を希望しているのは、このような地域背景からである。
また、超少子・高齢社会に対応する医療介護提供体制の整備・再構築のためには、准看護婦制度の存続は不可欠である。厚生省は、平成12年以降は看護職が供給過剰になると予測しているが、離職率が高く、必ずしもそのまま信用するわけにはいかない。さらに、今後介護分野の拡大を考えると、看護職の需要はますます増えることは確かであり、存続は当然である。
わが国の看護体制は、看護職員の三層構造(看護婦・准看護婦・看護補助者)を維持しつつ質的向上を図っていくことが、本筋であると考える。三層構造は、1977年の国際労働機関(ILO)総会での勧告でも提唱されており、欧米諸国でも日本の准看護婦養成制度に類似した制度をもっている。
今後の高齢社会における日本の看護体制を整備していくうえでは、三層構造が必要であり、議論の焦点はその体制の質的向上に力点がおかれるべきである。今回の検討会もそのために設置されたものであることを関係者は忘れてはならない。
当事者同士の話し合いで解決すべき |
したがって、今後もそういう点からいえば、准看制度を維持するとかしないとかいう議論は、日本看護協会と日医の看護体制のあり方論の意見の違いであって、両者で大所高所からの議論を慎重にすべき問題である。それなのに、厚生省看護課が偏った口出しをしてくるため、問題の本質から離れた方向にいってしまっている。
本格的な少子・高齢社会に突入した日本の看護体制は、三層構造をもっていないとうまく機能しないであろう。そのなかの大きな部分を占める准看制度を維持して、それを促進、拡大していくということこそあれ、これが弱体化することは、日本の看護体制の大きなマイナスになる。
各団体のおのおのの立場からして、考えに差があるのは当然であるし、それを議論することは、間違っているとは思わない。だからこそ、その点について、十分に議論を深めていくことをすればいいのだが、中立公正に行政を施行すべき厚生省が、一方に肩をいれるような言動で世論を誘導していることが、現在の日本の准看制度論争の最も不幸なところである。
今後は、国民のための医療の看護体制について、看護体制について、看護婦さんたちの団体とわれわれが一対一で十分に話し合い、お互いが譲るべきところは譲り、主張すべきところは主張して作り上げていきたいと考えている。
健政発第1040号
平成9年12月15日
日本医師会長 坪 井 栄 孝 殿
厚生省健康政策局長 谷 修 一
准看護婦問題調査検討会報告書の今後の対応について
1 地域医療の確保と看護の質の向上を図る観点から、まず、准看護婦養成の質的向上のための検討から行う。
2 准看護婦の看護婦への移行教育は、看護職員の資質の向上のため、また、就業経験の長い准看護婦が希望している看護婦への道を広げるためのものとして検討する。
3 1及び2の検討のため、年内を目途にそれぞれ検討会を発足させる。
看護婦等運営費補助金について |
平成10年度看護婦等運営費補助金の予算については、財政構造改革を推進するための措置として、補助金の見直しをし、原則10%の縮減を行うことの方針のもとに編成された。
補助金の見直し等として、
1 授業時間数に応じた見直しを行った。
総授業時間数 3年課程 2895時間
(全日制3年、定時制4年)
2年課程 2100時間
(全日制2年、定時制3年)
1学年当たりの定時制の授業時間数は、全日制の3/4(3年課程75%、2年課程67%)となるので、定時制課程について、1/4カットを行い、全日制との均衡を図った。
2 看護婦3年課程については、平成9年4月からカリキュラムの改正に伴い、専任教員数の増員を2年計画で実施するための増額を行った。
3 その上で、各課程に10%のカットを行った。
(参考)
課程種別 | 看護婦養成所 | |||
3年課程 | 2年課程 | |||
全日制 | 定時制 | 全日制 | 定時制 | |
総時間数 | 2,895H | 2,895H | 2,100H | 2,100H |
修学年数 | 3 | 4 | 2 | 3 |
1学年当たり時間数 | 965.0H | 723.8H | 1,050.0H | 700.0H |
対全日制時間数 | 100.0% | 75.0% | 100.0% | 66.7% |
*指定規則上の授業時間数を基準とした。