日医ニュース 第886号(平成10年8月5日)
視点
参照価格制度には反対
現在、医療保健福祉審議会を中心に、医療保険における薬価制度のあり方が討議されている。
厚生省は、薬剤使用の適正化、薬価差の廃止、高価薬(新薬)シフトの是正などを目的として、同種同効医薬品をグルーピングして償還限度額を設定する「日本型参照価格制度」を導入しようとしている。
日医は、これに反対して日医医療構造改革構想に沿った独自の薬価制度改革案を提示している。(日医ニュース6月5日号参照)。
日医が、参照価格制度に反対する理由は次のとおりである。
1、治療に対するアクセスの制限
投薬は治療の重要な手段であるにもかかわらず、自由価格制の導入は患者の支払能力によって治療上必要な薬剤を使えないケースを招き、実質的な受診制限、不平等治療が発生する。
わが国の国民皆保険制度の優れた特徴であるフリーアクセスの権利を奪う制度導入に対しては、国民からの強い反発が予想される。
2、国民の心理的不安の増大
薬剤費に関する自己負担が増大する可能性が高く、医療を受ける国民の不安感を高めるとともに、結果的に受診抑制を強めることは昨年9月の健保法の一部改正からも明らかである。
3、混合診療の容認
現物給付を原則とするわが国の医療保険制度において、国民医療費の約30%を占める薬剤費で実質的に混合診療を認めるような制度導入は、保険制度の根幹を揺るがす重大問題と認識せざるを得ない。国民の十分な合意なしに安易に行うべきでない。
4、医師と患者の信頼関係の悪化
同じ薬剤でも医療機関ごと、あるいは投薬ごとに価格が異なることになり、薬の流通制度に対する患者の不公平感を醸成し、お金に係ることだけに、医師は患者から信頼されなくなるおそれがある。
5、労働環境の悪化
膨大な数の医薬品に一物多価が発生することは、医療機関の事務処理量の著しい増大を招き、残業の増加等による労働環境の悪化およびコストの増加を招く。
6、不正な流通取り引き発生の可能性
非価格競争によって、バックマージン等、メーカーや卸の不正な販売競争を招き、制度導入の目的とは裏腹に市場の健全性が失われるため、医師や医療機関もその渦中に巻き込まれる可能性が高い。
7、医薬品流通価格の高値安定
実購入価格による請求のため、従来の価格競争がなくなることや、ブランド品目のハイシェアの現状等を勘案すると、低価格は期待できず、かえってブランド価格に埋没し、高値安定を招くおそれがある。