日医ニュース 第889号(平成10年9月20日)

日医総研

参照価格制度(1)


 すでに薬の供給は、医療機関にとって赤字状態となっているにもかかわらず、厚生省は薬価差の廃止を目的として、「参照価格制度」の導入を図ろうとしている。

 厚生省の視点は、薬剤使用の適正化、より安価な医薬品使用の促進、価格設定の透明性の確保、健全な医薬品市場の形成というものであったが、「参照価格制度」で、本当にこれらのことが達成されるのであろうか。それを検証したものが、別表「参照価格制度下での関係者の市場行動とその経済的影響」である。

 参照価格制度のもとで市場関係者がどう行動し、その行動がいかなる経済的影響をもたらすかの予測である。

 結論は、厚生省の意図とはまったく逆の結果となった。

参照価格制度下での関係者の市場行動とその経済的影響

(1)関係者の市場行動

 

医薬品単価について 数量について
メーカー 原則薬価差0とすれば、納入価格競争がなくなるので、安く出荷する必要がなくなる。償還価格を上回っても自信があれば、なるべく高い単価を設定しようとする。 なるべく多く売ろうとするため、それを卸の系列化によって達成しようとする。
なるべく安く仕入れようとする。納入価格競争がなくなるので、なるべく高い卸値を設定しようとする。 卸にとって、購入価が安価であるほど利益が生まれるので、大量に仕入れようとするが、この結果、在庫がだぶつく可能性がある。納入価格競争がなくなるので、大量に売るためには価格以外の面でのサービス競争が激化する。
医療機関 価格に対して中立となるので、納入価に対して関心が薄くなり、安く仕入れようとするインセンティヴが失われる。結果的に言い値通りに買わされることになる。 薬価差がなくなるので、使用量を増やすインセンティヴが働かない。
患者 薬の選択に当たっては、価格よりも安全かつ良質であることが優先され、従って医師の情報提供に頼ることになる。(当然、医師は安全で良質と思う薬を推薦するので、低価格にシフトする可能性は少ない。良しあしは別として、医師や患者のブランド指向が選択に影響を与える。) 使用量は増えない。

 

(2)市場行動の経済的影響

 

   
影響
患者 自己負担額は必ず増える。
自己負担額への過重感や、同じ薬でも医療機関によって自己負担額が一定しないこと等が原因で、医療機関のみならず、医療システム全体に対する不信感が増大することは避けられない。
保険者 市場価格が高くなるなかで、それをもとに決められる償還価格は安くなるとは考えられない。患者にとって必要不可欠のものは使わざるを得ないので、使用量も大幅に減るとは考えられない。薬剤給付費の節減につながらず、むしろ増大する可能性すらある。
総薬剤費 市場関係者のなかに、薬剤価格を下げる方向にインセンティヴが働く人がいなくなり、市場価格は高くなり、確実に総薬剤費は増える。
メーカー 市場のなかで唯一の価格決定者となり、1人勝ちとなる可能性が大きい。マーケットシェアは、卸の系列化によって確保しようとするので、流通の近代化に逆行する動きがでてくる可能性がある。
納入価格競争はなくなるが、反面それ以外のサービス競争を強いられる可能性がある。医療機関がバイイングパワーを失うのに連動して卸もこれを失い、価格決定権は、今以上にメーカーに独占され、その系列に入らないと生き残れないところも出てくる。
医療機関 日本型参照価格制の導入により期待された薬剤費の節減は、ほとんど実現できなくなり、したがって技術料評価の財源としてきた薬価差も消滅する。かくして、薬価差も技術料も失い、事務コストだけが増え、医療機関の経営困難を来すことは必至である。
ジェネリック品 自由な医薬品市場における納入価格競争がなくなる結果、皮肉にも現在のわずか7%程度のマーケットすら失う。
闇市場 納入価格競争がなくなるのを逆手にとった、だぶついた薬剤の闇市場が現出する可能性がある。その他、サービスに名を借りた不正な流通システムが出現することが懸念される。

 

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