日医ニュース 第897号(平成11年1月20日)

第1回日米医師会定期協議会

今後も共有課題の協議を継続


 昨秋、ナンシー・ディッキー会長を筆頭とするアメリカ医師会(AMA)上級幹部の一行が来日した。その折、日医執行部とアメリカ医師会との協議の場として、「第1回日米医師会定期協議会」が石川副会長の司会で開催されたので、その模様を紹介する。

 

 坪井会長 本当によくおいでいただきました。日医にAMA代表団をお招きするのは恐らく初めてではないかと思います。光栄でございます。

 この5日間ディッキー会長とご一緒させていただいて、AMAと私どもは、共通の認識を持っているということがよくわかりました。

 すなわち、基本的な考え方として、患者のためにわれわれの仕事があるということ、それを起点にして話し合いをすれば、かなりお互いに理解し合い、病んでいる人々のために奉仕できるのではないかと、非常に心強く思っております。

 そういう意味からも、本日の会合を一つのきっかけにして、ぜひAMAと日医との定期的な協議の場を持ちたいと思います。

 デイッキー会長 今回は日医を訪問させていただく機会を得まして、たいへんうれしく思っております。

 私も、坪井会長がいわれたように、数日間をともにさせていただきましたので、日医のことがだいぶわかるようになりました。

 坪井会長と私で合意いたしましたのは、本当にいろいろな意味で類似している問題点が多いということです。それは、とりもなおさず、課題を共有して、そして、共同して、それらについて討議していけば、解決に向けて大きなチャンスがあるのではないかということだと思います。太平洋を挟んだ両国からの協力で、いろいろな解決法が模索できることを期待します。

 (その後、日医側から「薬価制度改革について」および「高齢者医療制度の創設に向けて」に関し、糸氏副会長が報告を行った)

 

アメリカの公的保険制度の動向
 

 糸氏副会長 1965年にメディケア、メディケイドという公的保険制度が成立しましたが、いまだ無保険者が約四千万人近くいると聞いております。この四千万人の人たちが医療へのアクセスが確立されていないということについて、AMAとしてはどのようにお考えなのか。また、将来的にどのような方向に持っていくべきとお考えですか。

 ディッキー会長 AMAとしては、使命感を持ってアメリカ人ならだれでも医療にアクセスが取れる制度を達成することを公約しております。今、指摘されたように、四千万人は、無保険者であるということで、医療に対してのアクセスが保障されていません。

 しかし、実際にこの方たちが、病院で受診するという場合には、無料で実施するしかないという状況があるわけです。ですから、無保険者であるがゆえに、まったく医療へのアクセスがないということではありません。だいたいその地域社会において、特別診療プロセスというのがあって、無保険者の治療をボランティアで行うというシステムがあり、そこがカバーすることになっております。

 ただ、それでも質の問題からいいますと、それらの医療のレベルは若干低いと思われますので、皆保険という形が一番望ましいであろうと考えます。

 それから、無保険者の場合、アクセスの悪さから、手遅れ状態でやっと受診するということも多く、やはり完治率も低いということになりますし、重症化によってよけいコストがかかることもあるわけです。

 リヤドン次期会長 今まで、この無保険者に対するコストの配分がうまくいっておりませんでした。今、医療コストを何とか下げようということは世界中でいわれています。それを踏まえたうえで、マネージドケアというものが導入され、そして、今、いろいろな影響が、このマネージドケアの体制下で出てきているわけです。

 1965年のメディケイド、メディケア導入の背景には大きな技術進歩があったと思います。それは医療技術の進歩に伴うコストの増加が、アメリカにおいては脅威になってきていたわけです。メディケアに関する特別協議会が議会内に設置され、そこがこの問題を討議することになりました。高齢化が進み、そして、働き手の人口が減少して、ますますメディケアのコストをカバーしにくくなるという状況があるからです。

 公的ファンドが少ないということで、メディケイドの患者を取りたがらない医師、あるいは実際診療するときにはメディケイドの患者数を制限するというような医師の行動が実際に出てきています。このような状況を何とか改善しようとしており、アクセスの問題もその一つと考えています。

 それからもう一つは、医薬品費の占める割合というのがヘルスケアコストのなかでもかなりの部分になっております。そういった薬価の問題に関しても、アプローチは違いますけれども、両国ともこれからも対処していかなければならない課題だと思います。

 

アメリカの医療事情について

 青柳常任理事 連邦政府が財政黒字になって、その財政黒字を減税ではなくて、教育や医療福祉に振り向けるという考えを持っているように聞いていますが、具体的に医療のどの部分に振り向けようとしているのか。AMAとしては、どういう方針でそれに対応しているのか。次に、AMAと病院団体、あるいは専門団体との関係はどうなっているのでしょうか。

 もう一点はマネージドケアシステムについてです。あえて私は、ミスマネージドケアシステムと呼ばせていただきたいのですが、いき過ぎたマネージドケアシステムが、今、データやエビデンスに基づいて、各州レベルで相当修正がなされて、改善されてきていると思うのですが、その改善の過程のなかで、AMAのEVP(執行副会長)をトップとした政策立案機能として、具体的に何か報告、アクションを取られておられるのかどうか。あるいは、そういう情報を収集して、それを各州レベルに公開しているのかどうかをお聞きしたいと思います。

 アンダーソンEVP まず、アメリカのマネージドケアというのがミスマネージ、あるいはオーバーマネージだということは、私ども同感です。

 次に、AMAはほかの医学関係学会や組織と協力関係を持っています。例えば、ヘルスケアコストのような問題は、たいへんむずかしく、かつ大きな問題で、他の組織、団体と協力をしていかなければなりません。GDPの14%はヘルスケアに投入されており、そのコストは非常に高いわけです。そういう点から考えても、強固な活動を推進していかなければいけない。2030年にはGDPの30%まで上ってしまうという予測もあり、いかにコストを抑えながら、質の良い医療を提供していくかというのは、大きな課題だと考えます。

 ジェンセンEVP補佐 EVPのもとで行われているものの一つに、長年にわたり取り続けている社会経済関係のデータがあります。これは年次で医師を対象とした調査をしており、最も信頼性の高いデータとして、それらを統計解析しております。他の政府組織もこういった形を取っていますが、私どものデータの方が信頼性が高いということで、他の政府外郭団体はそういった調査をやめております。

 AMAでは、1930年代からこういった経済統計、あるいは経済社会統計を収集・分析するセクションがあり、そこが医師を対象とした行動データ収集を継続して行っております。

 また、今の医療改革の問題など、むずかしい政策上の問題が出たときには、患者レベルから医師レベルでスポットのデータを取って、どのぐらいの効果があるのかということを見ております。

 それから、政府の黒字分の振り分けという話が出ましたが、それは、机上の空論といっていいと思います。実際には起こらないと思います。すなわち、そういった黒字が出たとしても、そのファンドを使って、これを高齢者の社会保障に振り向けるわけです。つまり、医療ということではなく、社会保障ですので、ヘルスケアというところで数字で挙げるものではありません。

 メディケアへの新しい資金投入についても、恐らくないと考えています。いずれにしても、黒字の振り分けということではなく、新たな資金源が必要になると思います。

 次にAMAと他の専門団体との関係についてお答えいたします。日医の報告を拝見しても、92の学会との関連を持っているということですが、私どもも90学会を持っております。それらに対して、協力関係と競合関係でさまざまな活動をしております。共通の問題に関しては協力し、そして、他の専門分野の問題に関しては別個に活動していますので、そういった意味では競合もするということです。

 リヤドン次期会長 医師という職業、それから医療という業界全体が、80年代、非常に費用が増大してしまったことによって、マネージドケアというシステムが導入されました。そして、やはり保険者が、あるいは雇用者がもっとコストを下げようという大きな努力をし始めたわけです。

 しかし、今は逆に、その焦点がケアの質に移ってきております。すなわち、保険者側からではなくて、医師側から医療の質の向上ということで努力をする時期になってきたわけです。

 というのは、連邦政府など第三者が介入してきて医療の質を落としてしまうことになりはしないかという懸念が、医師の間に出てきたからです。

 

医療費の負担の問題

 スモーク議長 私が外科医として活動していたときには、10%から11%はほとんど慈善治療、すなわち、無料奉仕でした。それを考えますと、保険を持っていない人たち、実際に、自費で払えない人たちにも医療が提供できる仕組みはアメリカ国内でもあるのです。

 今、保険加入者の割合だけでなく、どれだけ拠出するのかということが、新たに問題として出てきております。例えば、拠出の割合として、雇用者の方からは、この保険には3000ドル出して、もしそれで足りなかったら、被雇用者の方が払いなさいというような形が新しく出てきております。

 それから、日医にシンクタンクがあると聞きましたが、それはすばらしい活動だと思います。私どもも施策の調査をするという組織を組織内に持っています。

 メディケアの話をいたしますと、個々でメディケアに入っている人たちは、1ドル中27セントを保険料として、残り73%は政府が補填することになっています。

 ですから、拠出の割合、配分をどう切り分けるかということで、このコスト削減に努めなければならなくなるわけです。それぞれの利害団体が、自分の利害を削らないためのせめぎ合いをしているというのが現状ではないかと思います。

 デイッキー会長 ヘルスケアに老人が実際に支払うのは、非常に少額です。高齢者の85%は付加的な保険を持っております。ですから、実際に病院に行くときは、ほとんど支払いはないということになります。つまりこの付加的な保険を持っていない15%は、いわゆる自己負担となるわけです。

 先ほど糸氏副会長が説明された薬価制度改革案は、特に高齢者にとっては、医師や薬剤師がコストがどのぐらいになるかということを考えることなく、薬を提供できるすばらしいサービスだと思います。

 坪井会長 スモーク先生、日医総研のことをお褒めいただいて、たいへんうれしいのですけれども、日医とAMAの政策を作っていくなかで、一番違うところは、代議員会だと思います。

 例えば、アメリカの場合には、代議員会で、一つ一つ議題について決議されますね。日医の代議員会では、そのようなスタイルを取っていない。決議しますけれども、それは予算とか決算とかに限定されていまっているのが現状です。組織的な違いから、われわれは政策立案の手法としてシンクタンクを作ったわけです。

 

医療の質の測定−機能評価システム−

 坪井会長 それからもう一つ、リヤドン先生がマネージドケアについて話されたのですが、AMAに教えていただきたいことは、医療の質の測定の方法、エビデンスの問題などです。そういう問題に関してAMAは、私どもよりもやはりシステムとして進んでいると思うのです。

 リヤドン次期会長 AMAでいくつかの提案を行っているのですが、その一つとして、私どもの方に病院の機能評価システムがあります。今、医師の能力を評価するシステムを作ろうと考えております。それには、二つ理由があります。

 一つは、マネージドケアの力がきわめて強くなっていることがあります。また、患者さんからは、実際にかかっている医師がいいかどうか知りたいというリクエストもあるわけです。

 それから第二番目に、会長の諮問機関として、患者の権利、医師の質に関する委員会などが設置され、報告書もまとめられています。これらの内容をまとめ、調整してくわけですが、そのためには、これらに関する情報を収集・分析するシステムが必要となります。医療の質、医師の能力に関する評価システムを作るには、この情報システムが絶対的に必要となります。

 ジェンセンEVP補佐 基本的な問題は、コード化システムです。つまり、AMAは数十年間そのようなことをやっていますが、最初のコード化システムはCPT(Current Procedural Terminology)システムといわれるもので、これは支払いシステム用に使われました。そして、理事会としてここ何年間か投資をいたしまして、このシステムを改善しようと思っております。データを集め、そしてコード化システムを強化して、アウトカムリサーチを行おうと思っております。あわせて、そのコード化システムをしっかりと管理していくことが必要になると思います。

 リヤドン次期会長 ごく簡単に、社会経済部門が行っているドクターの収入に関する調査についてお話しします。

 AMAは医師の収入について出版物で公表しています。専門科別、それから地域別、いろいろな分野に分けて検討しております。通常、2年ごと、または3年ごとです。

 92年に政府が新しい財政計画を出したときに、完全な基礎データをもとに経済データを検討したいということでした。よく新聞に出るのですが、このようなデータを集めるということがどれほど重要であるか、そして、それが信頼性の高いデータであり、これを公表することの重要性を、すべての医師に理解してもらいたいと思います。

 

質の高いAMAの生涯教区

 櫻井常任理事 AMAの生涯教育の一つであるPRA(医師認定賞)については、これを取らなければならない義務、あるいは取ったためのメリットのようなものがあるのがどうか教えて下さい。

 リヤドン次期会長 医師としてわれわれが持っている動機というのは、患者に最善を尽くそうということだろうと思います。

 生涯教育というのは、大学から医師としての職業を終わるまで、これが生涯教育の場だと考えられます。それを考えたうえで、新しい医療手段、薬剤処方等が出てきたときに、そういったものを次々と取り込んで、みずからの知識を新しいものにしてかなければいけないと考えます。

 これが、その医師の生涯教育認定賞、すなわち、PRAになるわけです。例えば、州レベルで独自の医師の認証をしているところがあります。また、PRAを50時間履修していなければ、医師免許の更新を出さないという形で義務づけているところもあります。

 デイッキー会長 生涯教育については、PRAを通して、3年ごとにこういった履修をしなければいけないということだけではなくて、例えば、ほかの講義を受けてもかまわないわけです。

 AMAでは、どのレベルのクオリティを維持しなければいけないのかということを明確にうたっています。すなわち、何でもいいから、履修したらそれでいいということではなく、きちっとした能力の測定というのをしております。それを受けることによって、かなり質の高い教育を受け得ることになります。

 

コード化とEBMシステム

 山田常任理事 日本でも今、政府を中心として標準化、いわゆるコード化を一生懸命進めております。

 われわれ医師の側からすると、この問題は、行政にとって医療をコントロールしやすいような方向づけがなされるのではないかという危惧があるのですがいかがですか。

 それから、二点目として、EBM(Evidence Based Medicine)の問題です。現実には、マネージドケアのなかでEBMを使うことによって医療費の効率化を図ろうという考えが政府にあり、そういうことからEBMという考え方が出てきたという意見も聞いております。

 その二点について、お伺いしたいと思います。

 デイッキー会長 私たちのコード化システム、それからEBMのシステム、これは可能性としては潜在的に政府に誤用、乱用されて、逆に医師の自立権が阻害されるということもあるかもしれません。しかし、政府との折衝を継続することによって、できるだけ医療に関しての自立権をわれわれの手に残しておく努力をしていかなければいけないと思います。

 そういったせめぎ合いのなかで、コード化システムというものも出てきたのです。すなわち、本来、医師同士のコミュニケーション言語として、このコードを作るということが、目的だったのですが、メディケアの支払いにもCPTを使ってきたわけです。つまり、政府に影響を及ぼす原動力としてCPTを使える、われわれが作ったコードを政府に使わせることで、単に償還、支払・請求だけでなく、間接的なよい影響というのが出てくるのではないか。それから、政府が患者さんに対してのケアを阻害するというようなことも妨げるのではないかと思います。

 次に、EBMについてお話しします。アメリカにはFDA(食品医薬品局)というのがあり、ここで医薬品の認可・承認が行われているのですが、往々にしてシングルユースで承認することがあるわけです。医薬品を実際に使おうとする場合には、シングルユースだけではないと思います。いろいろなやり方、他の疾病にも応用するということもあるかもしれません。

 この件に関しては、今のところ、われわれの考え方に基づいて行われています。すなわち、医師がわれわれの経験を基にして投与を決めることができる。EBMで政府が認めたものでないと使えないということではなく、われわれの裁量権で使うということができるようになっております。

 いろいろな治験、あるいは研究がEBMで行われていますけれども、それだけではなくて、新しいやり方、新しい投与法、すなわち、適用範囲を拡大してくことなどもEBMにプラスして行っていかなければいけないと思います。

 リヤドン次期会長 EBMというのは、本来、正しく患者を治療するということを目的に作られたものですけれども、そのためには、どういう情報を収集しておくべきかということがその基にあったと思います。

 今、デイッキー会長がいったように、コード化システムというのが政府によって使われる、あるいは政府が使っているコード化システムというものがあって、それが償還の基になっているわけです。支払いをするのは政府であり、カルテを見て、請求額が妥当かどうかということを判断したいと、それが政府のやり方なのです。これは医師にとっては、かなり反発のあるところです。

 しかし、民間保険部門でも、保険請求額を決めるときに、やはり保険会社も治療の詳細を知る権利がある。すなわち、個々の疾病にどんな治療をしたのかということを見直す権利があると思うのです。そういう意味では、利害関係者のなかで、かなり関心が高まっているのが実情です。

 もう一つの側面としては、カルテのとり方です。カルテがそれほど適正に管理され、あるいは記録されていなかったという過去の経験があるのではないかと思います。われわれ医師にとって、もう少しきちっとカルテを記録しておかなければならないということの警鐘かもしれません。

 

「JAMA」とAMAのかかわり

 小泉副会長 医学雑誌に関する質問です。

 一つは、「JAMA(アメリカ医師会雑誌)」は、世界的に高く評価された医学雑誌ですけれども、その編集を中心として、AMAとしてはどのようにかかわっていらっしゃいますか。つまり、恐らく専門家集団によるコミティををつくっていらっしゃると思うのですが、そこではどのような検討がなされているのかというのが一点です。

 それからもう一つは、専門雑誌のタイトルに関して、それぞれの頭にAMAという文字が入れてありますが、AMA自体とそれぞれの専門誌とのかかわり合いについて教えていただきたいと思います。

 アンダーソンEVP まず、最初に、「JAMA」は、かなり広範囲のものを取り扱う雑誌になっております。そして、医師に対して投稿するようにと奨励するわけですが、加えて、かなり専門分野の例えば、皮膚科領域、内科領域、あるいは神経科領域などの学会誌という形で専門家雑誌があります。ですから、どちらに自分が投稿するかを選択しなければいけないということもあるかと思います。

 私は皮膚科領域を専門としていますが、「JAMA」の編集員も私に協力し、スタッフとして仕事をしてくれます。そして、言論の自由というのでしょうか、「JAMA」に何を投稿しようとも私たちは制限を加えないわけです。「JAMA」のなかには、フリーに投稿して記事が書かれるべきですし、内容の検閲もしてはいけないと思います。

 

アメリカにおける医薬分業の利害

 林議長 日本では、医療機関のなかで処方し、調剤して患者さんに薬を渡すというシステムがありますが、これは、患者さんにとって非常に便利だろうと思います。アメリカでは、調剤薬局が日曜日休みで薬がもらえないという場合に、市民から順番制などで、調剤薬局を休日にオープンするようにという要求はないのでしょうか。

 デイッキー会長 本当に小さな町というのでないかぎり、ほとんどの地域社会で、少なくとも一軒か二軒、必ず日曜も開いているところがあります。かなり夜遅くまで開いており、大都市部においては24時間、そういった調剤薬局というのは開いております。ですから、そういう意味では、患者が自分の必要だったその薬剤が受けられないということはまずまれです。

 それから、ほとんどのアメリカの州においては、すでに州法が制定されており、その州法のもとで医師が実際処方かつ調剤して出すということが禁止されているわけです。製薬会社の方からサンプルで取ったものを医師が直接出すことも禁止されています。

 どうしてかというと、一部は利害の矛盾、すなわち、われわれが処方しようとする薬剤と、薬剤師がベストだと思う薬剤が必ずしも一致しないことがあげられます。

 15年ぐらい前、このことに関する話し合いが始まり、そのときに出てきた一つの問題として、患者さんにとっては全部一カ所で済んだほうが楽ではないかという話が出たのです。しかし、やはり、患者さんにとって本当に利益になるのは、薬を受け取るところと診療というのは別にしたほうがよいだろうということで、われわれは別建てにしたわけです。

 リヤドン次期会長 薬剤師は処方薬を出すだけではなく、そこで診断・治療もしたいという動きもあるのです。そして、薬剤師の方が逆に州当局に、薬局に来たときにこう言った症状を訴えるのだから、その症状に合わせた診断をして、そして薬も出したいというような働きかけをするわけです。

 ところが、医学教育を受けていないということは、それだけの必要な情報がないわけで、これに対する側との戦いもしかりです。その戦いというのはかなり続いていくでしょう。

 スモーク議長 薬剤師あるいは薬局が処方を出すことによって、付加的な情報を与えることができるのではないかと思います。

 

共通点が多い日米医療環境

 デイッキー会長 薬剤の価格に関しては、その価格交渉の経緯でかなりばらつくのではないかということがあります。そして、平均以下の値段で買った、あるいは処方できたとします。そうすると、ブランド品ではなくてジェネリックでもいいというような形になって、値段から考えたらそうなる可能性もあると思うのですね。

 参照価格制度が導入された場合、どういう構造でその価格、あるいは価格を抑えようという方式が出てくるのかということがわからない。また、今度は新しい薬剤を開発しようという動機が削がれてしまうのではないかとも思いますが。

 スモーク議長 今の医薬品の話ですけれども、出来高払いではなくて、償還制ということで、例えば、[処方コスト+何%]というような形でしか償還できないということになると、かなりわれわれとしても大きな影響を受けることになります。坪井会長をはじめ日医のみなさんは、それに強く反対しているということで、その活動を高く評価させていただきたいと思います。

 いろいろな医薬品が投与された場合、患者さんが支払えるような価格であればまったく問題ないわけですけれども、私が懸念しているのは、そういったシステムが導入された場合、新薬の研究開発の動機づけがなくなってしまうのではないか、画期的な新薬の開発意欲が、政府がヘルスケアシステムを変えることによって、阻害されてしまうのではないかということです。

 この21世紀には、日医は適切なリーダーシップを取ることによって、アジアのお手本になるだろうと思います。医薬品、薬価制度の改革、それから参照価格制度に対しての反対運動、こういった活動をすることによって他国に対しての大きなリーダーシップ、影響力というのが行使できるのではないかと思います。

 糸氏副会長 今、日本では、皆保険制度によって非常にアクセスがよくなって、医療の量は十分足り、これからは質の時代だということで、質のアップについて非常に関心が高くなっております。

 アメリカはアクセスよりもベーシックなサイエンスのほうに非常に力を入れたということが、結果的に医療コストを高くした部分もあろうかと思います。画期的新薬などは、ほとんど日本では開発されませんが、アメリカではどんどんできています。

 また、技術料はアメリカに比べ、日本は非常に低く抑えられています。やはり、日本もこれからアメリカのように、もっと国がベーシックなサイエンスに力を入れるべきだと考えます。私は、ここの企業もさることながら、こういうことはやはり国家的に力を入れていくべき大きい問題だと思うのです。

 ただ、それによって医療コストが高くなって、アメリカのようにアクセスが阻害されはしないかということを非常に心配しているわけです。

 理想としては、医療レベルも上がり、アクセスもよいということが一番いいのでしょう。これからはそういう方向で強く要求していくべきだと考えています。

 デイッキー会長 われわれの抱えている問題は、本当に類似、共通点が多く、これからもこういった定期的な会議の場というのを続けていきたいと思います。協議の場を通じて新しいアイデアが出てくるだろうと思いますので、これを初めの一歩として、これからも意見の交換を将来的に継続していきたいと思います。ありがとうございました。

 坪井会長 AMAと日医は共通点が多いということを悟るとともに、ここが違うところだということを、たいへんはっりきりと認識させていただいたというのが、今回の一番大きな成果だったと思います。

 今後ともこのような会議、また、実務者レベルでの協議もしていきたいと思っております。

 本当にありがとうございました。

 


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